宇宙論第八回

▼バックナンバー 一覧 2009 年 9 月 11 日 堀江 貴文

アレスIは1段目にスペースシャトルのSRB(固体燃料ロケット)を1セグメント増やしたものを使っています。固体燃料ロケットは一旦火をつけるとそのまま燃焼し続けるため制御がしづらいだけでなく、振動が出やすいの も難点です。

衛星打ち上げロケットならまだしも生身の人間が耐えられる振動には限界があります。懸念の通り一段目にSRBを持ってきたことで振動が 大きくなりすぎ、2段目との間に緩衝機構(ダンパー)を付けることになりました。 それでまた重量が増えたりと非常にいびつな設計になっています。既に当初の計画からは遅れ気味になっていますが、来年終わるスペースシャトル計画から果たしてどれだけのブランクで独自有人宇宙飛行を再開できるのか。非常に未知数な状態となりつつあります。

NASAの有人宇宙計画では、民間の力を借りるプロジェクトも進められています。その中の最有力候補が以前お話したスペースX社のファルコン9ロケットとドラゴン宇宙船です。彼らのファルコン9も、初の人工衛星打上げに成功したファルコン1ロケットを9本束ねたもので、地上燃焼実験には成功しているもののまだ打上げはされていませんし、ドラゴン宇宙船も同様です。しかし、彼らが使っている燃料はケロシン・液体酸素の組み合わせでロシアやアメリカの歴史と実績があるものだし、少なくともアレスIのような歪な組み合わせのロケットよりはマシなはずです。民間企業の奮闘に期待したいところです。

私は航空機産業のように、アマチュアが発明し途中軍需主導で開発・イノベーションが行われるが、最後は民間企業が主導していくというシナリオに宇宙産業もなって欲しいと思っています。国家が不必要に干渉することによって、予算は膨らんでいくし実際に必要でないものに巨額の資金が投入され、世間の批判に晒されることにもなりかねない危険性があるのです。

このようにアメリカの有人宇宙計画は迷走の最中にあります。その中で独自に有人宇宙飛行を進めているのが中国です。2003年に神舟5号で初の宇宙飛行士を軌道上に送り出して以来、合計6名もの宇宙飛行士をこれまでに宇宙空間へ送りました。そのうちの一人は宇宙遊泳も達成済みです。そして2010年頃には、初の宇宙ステーション「天宮1号」を計画しており、中国は独自の有人宇宙開発を成功させ続けています。余りにも短期間に順調な宇宙計画を進める中国は何か特別なことをしているのでしょうか?答えはNOです。現行の彼らの有人打上げロケット長征2F号はUDMH(非対称ジメチルヒドラジン)を燃料として使用しており、これは宇宙ロケットの燃料としては一般的なものである し、実績もあるのです。ロシアやアメリカがかつて行った有人宇宙計画をほとんどそのまま踏襲してきている(彼らが当時使っていた推進剤はケロシン+液体酸素でしたが)のです。ロシアは経済危機もあり、新規のロケット開発に十分な資金を投下できなかったため、古い設計のソユーズを使わざるを得なかったことが、現在の商業有人宇宙飛行の独占状況に繋がっていますし、ロケット開発においてはいわゆる「枯れた」技術を使い続けることが実は重要なポイントなのです。

これまでの国主導の有人宇宙飛行はどのような意味と目的を持って行われていたかを再検討してみましょう。といっても、有人宇宙飛行はアメリカ・ロシア・中国の3カ国しか行っていません。中国はまだ技術実験の段階であり、それが目的でしょう。アメリカでいえば、マーキュリー計画の段階です。ロシア(ソ連)で言えばボストーク・ボスホートの時代でしょう。その後アメリカとロシア(ソ連)は冷戦構造の中で国の威信をかけてスペースレースに飛び込みます。アメリカではアポロ計画の時代ですし、ロシア(ソ連)ではソユーズ宇宙船がそれに当たります。その後は国際協調の時代に入ります。 ロシア(ソ連)が先行して宇宙ステーションのサリュート・ミールを打ち上げます。そしてアメリカを中心とした国際宇宙ステーション計画へと移るわけです。言い方を変えると、これはアメリカが他国を巻き込んで宇宙型の公共事業を行っているようなものであるとも言えます。実際にJAXAの予算の1/3は国際宇宙ステーションに関わる予算なのです。ロシアは財政危機の為に商業宇宙飛行に参入します。有人宇宙飛行がビジネスになってきたのです。シートが少ないために20億円を超える高額のままでしたが。

しかし、ロシアが商業有人宇宙飛行を実現しているように、宇宙飛行士でない一般の人も宇宙に行けるのです。これまでに宇宙にいった民間人は特別な能力を持つ人ではなく、普通の人たちでした。実はスペースシャトルも民間人を乗せたことがあります。それが運悪く爆発したチャレンジャー号だった為、二度と民間人を乗せることはありませんでした。このように一般人が宇宙に行くのは身体的・技術的には可能なわけです。問題は、どこにあるのでしょうか? それはお金です。一人当たり20億円を超える費用がかかるの です。なぜそんなにかかるのでしょうか?それは「安く」打ち上げるという発想が無いからなのです。そもそも、先に解説したとおりこれまで有人宇宙飛行を安くやろうと考えて設計をしたロケット・宇宙船はありません。だから、高いのは当然の事なのです。ですから、商業有人宇宙飛行マーケットを作ることが安く有人宇宙飛行を行う為の近道なのです。