現代の言葉第7回 「地方主権」

▼バックナンバー 一覧 2012 年 10 月 4 日 東郷 和彦

 政策の意思決定を、中央(日本政府)から地方に任せるべきだという主張が、大筋の賛同をえるようになってから、久しい。私も、そう思う。外交・安 全保障・治安など国として責任を持つべき事項は国にしっかりやってもらうとして、国民の日常生活に関するいろいろな問題は、国民の生活に近い地方が、もっ と責任をもって対処すべきと思う。

 特にこれからの日本は、地方毎に、きめの細かい発展をしなければならない時代に入る。自分の地域の産業や物産や観光にどういう比較優位があるかということは、まずもって地方自身で発掘しなければ、中央からのおおざっぱな視点からは、でてこない。

  世は、「グローバリゼーション」と言う。人・物・金・情報が、世界中共通のルールに従って、瞬時に、世界中をかけめぐる。このルールに則って対応しなけれ ば、その国は、一挙に落ちこぼれる。けれども、そういう厳しい「グローバリゼーション」のルールに勝ち残るには、その国独自の魅力と力がなければならな い。これからの時代、そういう魅力や力は、地方からでてくる。
 同時に、そうやって多くの期待を地方に対していだき、「地方主権」というからには、それぞれの地方には、非常に大きな責任が生まれる。地方の責任として 移ってきた権限の適切な行使に失敗したら、あとがなくなる。成功すれば日本を本当に元気にするが、失敗すれば、現下の日本の問題点を更に深刻化させ、地盤 沈下を進めることになる。

 では、どうすれば、「地方主権」は、成功するだろうか。

 第一に、地方は、その発展のモデルとし て、東京を見てはいけない。世界のトップ・レベルを見据えながら、各地方自身が、自分たちの設計と独自性と活力と魅力を生かして、発信する。生活として、 社会として、産業として、景観として、世界のトップの中に自分の位置を見出す。東京は、参考になる。しかし、日本中が、「ミニ東京」をつくろうとしたら、 日本は、まったく魅力の薄い国になってしまう。

 第二に、各地方は、その隣接地域を見て、近隣がやっていることと、同じことをやろうとした ら、収拾のつかない混乱と地盤沈下の加速が起きる。各地方が皆、空港と港と高速道路と新幹線とダムと箱物記念館を持とうとしたら、結果は、独自性を生かし た発展とは程遠いものになる。近隣の同志とよく話し合い、無駄をはぶき、お互いの特性を生かしながら、広域的地方全体として、「世界に向かってたつ」に は、どうするかを考える。

 第三に、そのためには、広く世界を見据えて仕事をする、地方の政治・経済・文化を担う若い世代を、早くから育て る必要がある。地方政治は、地方内部の問題だけを解決するためにあるのではない。「世界に向かって立つ」若人を、地方自身からどうやって育てるか。京都産 業大学で、初めて日本の大学という仕組みに本格的に係わるようになり、僅かながらでも、そういうお手伝いができないかと考える毎日である。

(2010年7月14日 『京都新聞夕刊』掲載)

 

<現在からの視座>

  地方主権という視点から、この二年、最も注目をあびてきたのは、なんといっても、大阪の動きだろう。2008年2月に大阪府知事に就任した橋下徹氏は、大 阪府と大阪市の二組織併存の無駄を排し、東京都と同じ組織としての「大阪都」構想をうちだし、それを実現するために、自らが大阪市長に転ずるというこれま でにない大胆な行動に出た。

 2011年11月、市長と知事のダブル選挙が行われた結果、橋下構想は大坂人の支持するところとなり、「大阪都」構想は猛烈な勢いを持って動き出した。

  橋下氏は、更に、大阪維新を全国に広げ、国政の大道に入るとして、次期選挙に数百人の国会議員を送り込むことを宣言、一年もたたない間に準備を、2012 年9月28日、国政進出を果たす「日本維新の会」が7名の議員により正式に結党された。目指すは、「道州制」の実施ということのようである。

  大阪発のこの政治の激震は、民主党への対抗勢力として自民党の一部との提携関係をもちながら急速に拡大してきた。しかし、野田第三次内閣が「幕引き内閣」 とマスコミに揶揄されながら発足し、安倍晋三氏が自民党総裁にかえりざき、現実の選挙がせまってくるなかで、マスコミは早くも選挙の席をめぐる「日本維新 の会」と自民の不協和音について書き始めている。

 大坂の無駄を省くという単純明快で鮮やかな政治目的を達成したあと、橋下新党は、「道州制」のように本当に日本を変えていく方向に、動きだしているのだろうか。

 今しばらく観察が必要なように思える。
(2012年10月2日)