フォーラム神保町第27回「『暴力団』報道とメディア」   〜なぜ一人の反対者も無く、      政治家は『暴対法及びその改正案』に賛成し続けて来たのか!?〜

▼バックナンバー 一覧 Vol.28
開催日時:3月27日 (木) 18:30〜

勉強会レポート

1992年に施行された「暴力団対策法」の改正案が閣議決定され、今国会に提出された。指定暴力団の資金獲得活動に絡み市民が被害を受けた際、組長らに損害賠償責任を負わせることなどが主な改正点だ。この改正案を受け、今回の勉強会では暴対法のこれまでの効果はどうだったのか、そして改正案はどんな意味を持ち、それをどうとらえるべきなのかを議論した。

その中で見えてきた主な問題点は、

① 暴力団に対する封じ込めで、地下組織化が進む一方、外国人マフィアの介入を招き、検挙率が低下し治安が悪化している

② 今回の改正後、警察当局は、継続審議となっている共謀罪の早期成立と通信傍受法(盗聴法)の全面解禁を目指し、今後、組織犯罪処罰法、銃刀法などの関連法規と連動運用し、さらに法の適用も将来、暴力団だけでなく労働組合など広く一般に拡大される可能性がある

の2点だった。

■本質■

暴対法の改正案はつまるところ、組長に対する賠償責任の度合いを強めることで資金源を封じ込め、組織の弱体化を狙うものだ。暴対法の改正は過去に3回行われている。暴対法施行時から反対の立場から活動してきた南出弁護士は今回の改正案を、「中身は警察の長年の悲願で、暴対法の完成版だ」と見る。今回の改正は長崎市長射殺事件や相次ぐ抗争事件を受けた対応だが、暴対法ができる経緯を見ると、暴力団対策というよりはむしろ、警察側の組織防衛の面が強かったという。

「暴対法施行の2年前の90年に警察庁内に、暴力団対策研究会というものができた。冷戦構造が崩壊して、特に過激派ら左翼の人たちを取り締まる公安警察部門が縮小される運命にあり、縮小された人員を吸収する必要があった。そこで研究会で暴対法の下地となる素案をつくり、法律施行後は警察に捜査4課のほかに、暴力団対策課ができ、そこに公安の人間を持っていった」(南出弁護士)

こうした経緯でできた暴対法のモデルとなったのは米国の「マフィア対策法」。当初はマフィアだけが対象だったが、いまでは労働組合や政治団体にも拡大適用されつつあり、日本も例外ではない。

「研究会の素案には暴対法の基本スキームが盛り込まれていた。ヤクザ組織を壊滅させるには経済封鎖しかなく、最初から犯罪収益の没収を考えていたが、反対もあり難しかった。それが今回の改正でほぼ完成する。後は共謀罪を早く成立させ、盗聴法の全面解禁にも踏み切る。これと組織犯罪処罰法、銃刀法などの関連法規と連動させ、運用していく。そのうち見ていなさい。環境が整えば労働組合にも適用される」(同)。その果てにあるのは、あらゆるものが警察の管理下に置かれる「警察国家」だ、と警鐘を鳴らした。

■差別■

警察VS暴力団。今でこそ対立しているが、両者は協力しあい、治安を守ってきた面もある。しかし、日本が高度成長するに従い、警察は一転、暴力団を壊滅する方向に政策を転換。それに伴い暴力団は経済活動に進出した。その対応策の象徴が暴対法だろう。
伊東氏はこうした背景を踏まえ、「(国が指定暴力団とすることで)暴力団という言葉、存在自体が全面的に否定されることになった。マイナスの記号としての存在ということが約束になっている」と指摘する。
その結果、暴力団という存在自体が一人歩きし、暴力団が抱える「差別」という本質的な問題が見えなくなってしまった。伊東、猪野両氏によると、その差別とは

・暴力団組員の中には被差別部落や在日朝鮮、韓国人らが差別の対象となっており、その人たちを受け入れてくれる基盤が少ない

・罪を犯して出所しても受け入れにくい社会など

伊東氏は「山口組3代目の田岡組長の話として、そうした人たちの受け入れの一つを暴力団が担っている」などと述べ、「暴対法という法を温存するだけで、こうした問題は解決できない。国権のあり方に疑問を感じる」。猪野氏も「暴対法は世界で類を見ない差別法。暴力団の存在を否定する前になぜ、ヤクザが生まれたかなど、根源的なところを踏まえた上で暴力団対策を考えなければならない」と国の対応を批判した。

■弊害■

暴対法施行から今年で16年。暴力団関係者は施行当時とほぼ同じの約8万人で変化はない。むしろ、暴力団に対する締め付けで、組抜けした関係者が事件を起こすケースが増える一方で、外国人マフィアの介入を招いた。その典型が石原都政が対策を推し進めた東京・新宿の歌舞伎町だろう。

検挙率が低下、治安は悪化の一途をたどっており、暴対法に効力があるのか疑わしい。どうすればいいのか。南出弁護士は「暴対法の改正は本末転倒。警察は内部の評価が低い指定暴力団以外の犯罪には興味を示さない。これでは治安は保てない。団体を誇示した暴力行為に対応できる暴処法であれば指定暴力団かどうか関係なく摘発できるので、これを改正してあたるのが筋じゃないか」

しかし、こうした声が既存の報道機関や国会議員には届かない。暴対法成立、改正の課程で国会は衆参ともわずかな審議の上、全会一致で賛成している。鈴木衆院議員は議員の対応をこう解説した。

「反対すれば、選挙などで弱みを握られる、狙われるじゃないかという恐れがあり、警察の法案に引いているということもあるでしょう。ただ、政治家の勉強不足が大きい。自民党の場合、所属する部会や委員会の議論であれば勉強もしているが、それ以外だと関心も薄く、警察が出した暴対法なら、いいもんだという性善説になってしまう」。その上で「国会議員としてこれからは、警察、検察が国家権力を背景にして、恣意的、意図的に、一つの目的に向かって出す法案に対し、チェックが働く仕組みを考えていきたい」と述べた。ただ、今回も全会一致で成立する可能性は高いという。

佐藤優氏は「暴力組織に対抗するためには彼らが思いもつかないことでやるしかない。例えば、暴対法に賛成です。その代わり、警察、検察、自衛隊をして暴力団にして、暴力団のヒエラルキーをつくってくださいと。さて相手はどうでますか。そのくらいのことを考えてない阻止できないのでは」と提言した。

臭いものに蓋さえすれば、何もなかったように思いがちで、その裏に隠されている本質に目を向けないという性向。暴対法をめぐる議論はまさに日本社会を反映したものだと率直に思った。

(ジャーナリスト 佐藤 一)