読み物黄金の国の少年たち

▼バックナンバー 一覧 2010 年 12 月 15 日 大瀬 二郎

黄金の村

 板切れとブリキで建てられた日常雑貨や缶詰を売っている店が数軒まばらに並んだモングワル村の目抜き通りを凹凸を避けながらオートバイタクシーはジグザグ運転する。唯一の二階建て建造物は、セルテルという携帯電話会社の販売店兼オフィス。黄金の出る村という雰囲気はまったくない。宿泊することになっていたカトリック教会で荷物を預けた後、何よりも初めに武装グループのFNIに顔を出す必要があるとエマニュエルに急かされてまたバイクに飛び乗る。
 
 このオートバイタクシーはコンゴ奥地で最も「使える」乗り物だ。四輪駆動車では入れないような狭い場所でもオートバイならどこでもお安い御用。中国もしくはインド製の125ccのシンプルなバイクは軽量で、通行不能なところは持ち上げて運べばいい。コンゴでの取材中、このバイクタクシーには頻繁に世話になった。奥地に行くときは、スーツケースではなくバックパックに荷物を詰めた。なぜならバイクに乗ることがわかっているからだ。FNIに向かって走る私の乗っていたバイクが下り坂にさしかかり、ガソリンを節約するために運転手がエンジンを切って静かにグライドしているとき、シャベルを肩にかついで一列になって歩いている男達を追い越した。金鉱に向かう途中なのだろう。
 
 FNIの本拠地は目抜き通りから離れた丘のふもとにあった。植民地時代に造られた赤い瓦ぶきの建物。ペンキがところどころ剥がれ瓦も草ボウボウでその当時の面影はほとんど伺えなかったが、かつては金鉱会社のベルギー人幹部が住んでいた豪邸だったのだろう。広々とした薄暗いリビングで男達と握手をして椅子に座ると、彼らは挨拶も自己紹介もなく、FNIは武装グループではなく政党であり、来年の総選挙にも候補者を擁立するのだと、一方的に主張をまくしたててきた。私は真剣に話を聞く姿勢を示しながら、反論せずに相槌を繰り返した。薄暗い部屋で獣のようにぎらぎらと輝く彼らの目に釘付けにされ、壁にもたせかけてあるAK―47を横目で気にしながら「果たしてこの2人は今までに幾度人殺しを犯したのだろうか」と想像を巡らせる。
 
 一時間ほど話を聞かされた後、男の一人が最後にこう言った―― 「この地域でのお前の身の安全は保証してやる」。ここにやってきた目的が達成される。
 
 FNIの次に私とエマニュエルはモンゴワルの村長を訪ねた。彼はコンゴで46年ぶりに行われる予定の大統領選の投票者を登録するための施設の準備で忙しそうだった。登録用の機材がブニャから前日に届くはずだったが、もしかしたら武 装グループか山賊に略奪されたのかもしれないと、不安げに溜息をつきながら話す。ブニャからここまではヘリで飛べばわずか30分だが、陸路を四輪駆動のトラックで走ると最低2、3日はかかる。雨季が本格的に始まればオートバイか自転車以外での通行は不可能になる。もし機材が届いた場合、準備風景の写真を撮りたいので連絡してくださいと頼むと、村長は携帯電話の通話料金のプリペイド(前払い)を補充するお金がないので少しいただけないかと言う。「黄金の村」の 村長であっても電話代もないのかと絶句する。滞在中彼からの連絡はなかった。機材が結局来なかったのだろうか。
 

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