読み物黄金の国の少年たち

▼バックナンバー 一覧 2010 年 12 月 15 日 大瀬 二郎

コルタン

 コンゴでは金以外に近年注目されている鉱物はコルタン(コロンバイト・タン タライト)であることを述べておきたい。コルタンは鉱石の一種で精錬されると粉末状のタンタルを得られる。このタンタルは携帯電話、ノートパソコン、ゲーム機などの電化製品に欠かせないコンデンサーなどに使用される。ブラジル、オーストラリア、カナダなど近代的な鉱山で採掘されたものが大半だが、それと共にコンゴで違法に掘り出されたコルタンは海外で精錬され電化製品に使われている。国の情勢が不安定なため生産量は少ないが世界埋蔵量の80パーセントはコンゴの地下に眠っているとも推定されている。紛争地で掘り出されたダイヤが「Blood Diamond(血に染まったダイヤモンド=紛争ダイヤ)」と呼ばれることはハリウッド映画の題材・タイトルにもなったことで広く知られているが、近年はコンゴのコルタンが「Blood Coltan(血に染まったコルタン=紛争コルタン)」として世界の注 目を集めている。
 
 コルタンや金の他に近年コンゴで頻繁に掘り出されているのは錫石だ。ヨーロッパで鉛を含んだ電化製品の製造が禁じられ、日本ではその削減と含有量表示が義務付けられた。そのため鉛の代替として錫の需要が急増している。国連の同レポートによると、コンゴから違法に掘り出された錫の原石は香港に事務所を置く仲買会社を通して世界で五指に数えられる錫の精錬会社タイサコ(タイ精錬精製有限社)やマレーシア精錬精製株式会社に流れているルートを実例として挙げている。世界に流れる日本のブランド電化製品の多くはタイやマレーシアの工場で生産される。血に染まったコンゴの錫はこのタイやマレーシアから掘り出された原石と共に精錬され皮肉にも先進国における環境保全に貢献しているわけだ。
 
 携帯電話、コンピュータやゲーム機の世界有数の製造、消費大国である日本は 「ブラッド・コルタン」の紛れもない受益者であり、ダイヤモンド同様、紛争に 拍車をかける原動力でもあることを意味している。
 
 天然資源が豊富にありながら貧しい国がコンゴ同様に数多くある。天然資源による収入は腐敗した指導者や役人によって横領・着服され、国民経済の向上に用いられることは稀である。独裁政権や無秩序な状態を好む欧米諸国や周辺国の思惑や介入によって、その国の発展・成長の機会を奪われる。国土に眠る資源が争いを招くこの現象は「資源の呪い」と呼ばれる。コンゴはその典型的な例でありこの「呪い」がもたらした災厄の規模においてコンゴに並ぶ国はないだろう。
 
 マルコ・ポーロの『東方見聞録』では日本は宮殿や民家が金で建築された「黄金の国ジパング」と紹介された。しかし彼が抱いていたイメージとは異なり日本は実際は地下資源の乏しい国だった。もちろんこれは私説だが、日本はアフリカや南アメリカと違って略奪できる資源が乏しい。そのことが欧米諸国による日本の植民地化を押しとどめた一大要因だったのではないだろうか。日本が幸運にも「資源の呪い」にさらされず「人間」を最も貴重な資源として育んできたことが戦後の高度成長を可能にしたのではないか。コンゴ滞在中にしばしば考えた。

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