フォーラム神保町山口二郎ゼミ「民主党政権で日本をどう変えるか」

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開催日時:2009年9月24日(木) 20:00〜22:00

勉強会レポート

政権交代で日本をどう変えるか

 
民主党が歴史的な勝利を収め、悲願の政権交代を果たした衆院選後、メディアに錯綜するのは主に「民主党が第二の自民党になるだけで何も変わらない」という政権交代悲観論か「この明治維新以来の革命で日本は生まれ変わる」というイメージ先行の楽観論が多く、どちらもあまりピンとこない。私は、メディアから得られる二次情報ではなく民主党のブレーンとして長年活躍されてきた政治学者の山口二郎先生から直接お話を伺えば、これらの極論とは別の切り口で政権交代について考えるヒントを得られるのではと思いフォーラム神保町の勉強会に参加させて頂いた。講演では政権交代の歴史的背景から、民主党が目指すべき社会像まで幅広い話題が出たが、本レポートでは特に私の印象に残ったものについてまとめたいと思う。
 
現在メディアで取り沙汰されているのは主に政治家と官僚の役割と関係が今後どのように変化していくかという点で、私も山口先生のお話を伺う前まではその点に一番興味を持っていた。しかし山口先生の「国民が権力者を更迭することが民主主義の原点」というお話を聞き、自分なりに政権交代の意義について考えるにつれ、政治家と官僚よりも、政府と国民の関係の変化のほうにこそ意味があるのではと思い始めた。
 
かつては自民党が幅広い支持を受けるために全ての国民に対して一定の配慮(まとまった票を用意できる団体を依怙贔屓していたにせよ)をしていたため、もし市民が選挙に参加しなくても、「食いっぱぐれる」というリスク(不参加リスク)は低かった。
 
しかし、政権交代により日本の選挙は政党による地域レベルでの「特権のバラマキ」ではなく、マニフェストにまとめられた国家レベルの政策によって票を争うという本来民主政治のあるべき姿に大きく近づいた。マニフェスト政治では、市民が政党に期待するものがマニフェストで予め明示されているため、与党が公約通りマニフェストを実施することで既存の仕組み(利害関係を含む)や社会の成り立ちが変わる可能性が高い。翻って考えると、その政党を支持しない有権者にとり、政治に参加しないことの負の責任は飛躍的に増加するということである。私たちの考えや思いが、中央政府から、より直接的に私たち自身のくらしに跳ねかえってくる、このことが選挙の意味することとなる。
 
政策を選ぶことで、国民がより直接的に政治に参加できるということは、同時に民主主義が国民一人一人に要求するものが大幅に増えるということを意味している。なぜなら政党を政策で選ぶためには、今までのような「大きな政府か小さな政府」という曖昧なイメージや「何かやってくれるだろう」と党や時代の持つ「雰囲気」への漠然とした期待に基づく判断ではなく、1.政策の中身を把握する、2.政策の妥当性(選挙者自身にとっての具体的な損益)を吟味するために必要な知識と情報を揃える、3.政策の妥当性を吟味する、4.政策パッケージ内の優先順位を確認する等、証拠と根拠に基づいた定量的な判断が必要で、そのために有権者自らが積極的に動かなくてはならないからである。
 
つまり、政権交代の実現により、国民の立場は受動的な「国の扶養家族」から能動的な「国との契約者」に自動移行されたといえる。今までの政府から「ムチ」(規制)と「アメ」(特権)を一方的に受ける立場から脱却して、契約者としての責任と権利を得たのである。もう民間人起用という形ですでに始めているが、民主党は自分達の力の源泉である国民に様々な形で政治参加を促すことにより、まず国民に主役になったということを実感してもらい、当事者意識を持ってもらうことに尽力したらよいと思う。契約者が契約を締結する前に、情報を得たり調査したり、また契約内容に不都合な点があれば変更を要求したりするように、国民が政治について学んだり討論できるような場を充実させることが重要課題と思われる。たとえば市民が参考意見を聞けたり討論する場を設けたり、政策形成に関する情報の開示を積極的に行うなどだ。全てはそこから始まる。
 
国民は自民党を更迭することで「エキストラ」から「主役」となり、初めて「低収入でも人としての尊厳を犠牲にすることなく、人間らしく生きることができる社会」を実現する力を手にした。全ての国民に「居場所と役割」がある社会を実現できる適応力の高い効率的なガバナンスには、優秀な政治家と官僚だけではなく、当事者意識を持った国民が不可欠であるということを全国民が共有できれば、それは本当に実現すると思う。「アメ」と「ムチ」だけではなく、「義憤」によって積極的に行動する市民が増えることで日本の閉塞感も晴れるのではないか。
 
学ぶことの多い講演だったが、最大の収穫は懇親会で山口先生や他の参加者の日本の将来に対する熱い想いに触れられたことだった。日本という民主主義国家の一国民として「及第点」を取るには、選挙前にマニフェストを斜め読みするだけでは不十分で、様々な社会的課題に対する自分なりの見解を持ち、それの実現に向け積極的に行動することが必要だということが分かった。これからはそのような国民になれるよう努力したいと思う。
 
(森山健/NGO所属)

※フォーラム神保町のサイト上で掲載された「レポート」は執筆者個人の意見であり、所属の団体や組織等の意見ではありません。