フォーラム神保町第20回 「アメリカとメディア〜慰安婦問題と久間発言」

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勉強会レポート

7月30日、アメリカ下院で、慰安婦問題に関する日本政府の公式謝罪を求める決議案が採択された。今回のフォーラムは、まさにその採択当日というタイミングで開催されたものである。

スピーカーは東郷和彦氏。東郷氏はこれまで、一貫してロシア外交畑を歩んでこられた方である。東京裁判で訴追された東郷茂徳を祖父にもつという出自もさることながら、外交官としてオランダ慰安婦問題の案件にも関与され、外務省退官後、アジア問題・歴史問題に取り組むアカデミックの道を選んだ。

「祖父、東郷にとって太平洋戦争とはなんだったのか。靖国に奉られている兵隊はなにを考えていたのか。」という思いから、戦後60年たった今、日本のアジア外交というものが、東洋平和を念じて死んでいった方々の期待に応えているのだろうか?そうは思えない。と東郷氏は言う。

東郷氏のお話の核は、アメリカの心理状況に関する日本人の情報不足、ということになろう。
慰安婦に対する強制が、広義のものであったのか、狭義のものであったのかという論点は、今のアメリカ人には問題とはならない。では何が問題なのか?

女性の尊厳と権利を踏みにじる行為については、過去であれ現在であれ、これを少しでも正当化しようとするならば、アメリカの社会から総反撃を受ける。
その空気を日本人は読み違えているのではないか?

とすれば、ワシントンポストの意見広告という行為が、どのようなものになるか容易に想像がつく。過去を反省しない、女性の尊厳を踏みにじる、本質がわかっていない日本・・・というイメージがアメリカ社会で定着してしまうのだ。

—— 一番大切なことは、日本が傷ついた女性に対してシンパシーがあるのか ——

東郷氏がアメリカで突きつけられたこの言葉は、とても深く重い。
それが、「20万人のレイプセンター」といった事実誤認を訂正していくためにも、今のアメリカにとっては大切なのだ。
(尚、この問題に関して東郷氏は「月刊現代」9月号に寄稿されています)。

続いて、東郷氏と佐藤氏というある意味で対極的な2人の、ときとして掛け合い漫才のような対談が展開された。

「歴史問題が今の日本の足をひっぱってはいけない」そのために目下ガチンコ勝負を挑んでいる東郷氏に対し、「歴史問題は解決できない問題であり、乗り越え不可能。そのような問題には極力関らないほうがいい。東郷さんは非常に損なポジションに座ってしまった」と佐藤氏。慰安婦問題に関しては、苦しい思いをしてきた人の高齢化が進み、問題が仮象化していくなかで、シンボルをめぐる闘争は極力避けるべきだと説く。

—— シンボルをめぐる闘争には極力関与しない ——

これが佐藤氏のお話のキモにあたる部分だろう。

では、一連の問題への処方箋は?
問題を2つに切り分けて考えたほうがいい、という佐藤氏の意見は新鮮に感じた。「霊魂を信じない人」と「霊魂を信じる人」によって、対応を変える必要があるという。前者のグループには、日本がこのような問題を、二度と引き起こさないという制度的な対応を徹底し、あわせて被害者となった方々には経済的補償を行う。後者のグループには、被害者の方々の体験を追体験し、具体的な「 霊 」との対話を促すようなコミュニケーションが必要、と説く。
政治の役目は前者であり、後者は文学者の役目ということになるだろうか。

時間の制約もあり、うかがえなかった広島の問題、靖国問題そしてアジア問題、是非また時間をつくってフォーラムにて大いに語っていただきたい。

(光文社 FLASH編集部 松下直子)