今旬のトピック直撃 足利事件 冤罪を作った「警察官・検事・裁判官」の実名

▼バックナンバー 一覧 2009 年 6 月 29 日 魚の目

●表彰されていた刑事たち

 
 この表彰は、刑事らが菅家さんを逮捕した2日後に行われていた。地元紙の「下野新聞」(’91年12月5日付)は、当時こう報じている。
 菅家容疑者の取り調べで「私が女児を殺しました」と自供を引き出したのは橋本文夫警部だった。<長期にわたる身辺捜査で「犯人と確信して調べにあたった」という。自供に導いた言葉は「真人間に帰りなさい」だった>。さらに、菅家さんが怪しいと最初に目をつけ、借家をかぎまわって<事件解決の突破口を開いた>と評価された寺崎耕巡査部長の喜びのコメントも載っている。<「(表彰は)ジャンボ宝くじに当たった気分」>だったという。
 菅家さんの再審判決が出るのはもう少し先だが、現段階では無罪が確定する公算が高い。そうであるなら、いったいなぜこのような冤罪事件が起きたのか、その原因と責任の所在は、厳しく追及されねばならない。
 何よりも、ずさんなDNA鑑定を盲信し、「冤罪」を作った警察官、検事、裁判官らは、釈放された菅家さんを目にして、いま何を思うのか。本誌はこれら関係者へ一斉に取材を行った。
 菅家さんを足利署に連行した当時の県警機動捜査隊長・芳村武夫氏は、すでに定年を迎え、現在は別の職場で働いていた。本誌記者がそこを訪ねると、終始硬い表情を崩さず、「申し訳ないですが、ノーコメントです」と繰り返す。足利事件の捜査に加わっていた県警の元幹部は、菅家さんが芳村氏を名指しで批判していることについて、こう言う。
「芳村・橋本の両氏は菅家さんを足利署に連行して取り調べただけでなく、高裁公判で検察側証人として証言台に立った。だから、特に恨まれているのだろう。ただ、当時の捜査員は、今回の釈放には皆、『信じられない』と絶句しているよ。
 菅家さんは取り調べで(刑事に)暴力をふるわれたと言っているようだが、そんなことは絶対にありえない。そもそも自供の瞬間、担当官の膝で号泣したあの涙は何だったんだ、ということになる」
 この元幹部は、現在も菅家さんは“クロ”だと考えている、と主張した。
 菅家さんを“自供”させ、「真人間に帰りなさい」と諭した橋本文夫警部(当時)も、定年になっている。自宅を訪問すると、橋本氏は玄関先で取材に応じた。戸惑った表情を浮かべ、聞き取れないほどの小声でボソボソと話すその様子が、現在の心境を表しているように感じられた。
――菅家さんは髪を掴まれ、暴力をふるわれたと言っています。
「そんなことないです。そんなことをすれば調べにならないから」
――蹴ったりは?
「そんなテレビドラマのようなことはしないですよ」
――取り調べ時の様子はどうでしたか? 菅家さんは気が弱く、捜査に迎合するようなところがあったとも言われているが。
「気が弱かったかはわからないが、とにかく髪の毛を掴んだり暴力をふるったことはありません」
――取り調べ中に泣き出したとか。
「そういう話はちょっと勘弁してください」
――菅家さんは謝ってほしいと言っているが。
こちらは何も。これから裁判があるわけですし」
――捜査は万全を尽くしたと言えますか?
「万全でした」
――では、DNA鑑定なしでも逮捕していましたか?
それは私にはわからないです」
――自供とDNA鑑定以外の証拠はあったのか?
「直接的には物証はなかったが、尾行したりして長期に行動をチェックしたりしていたし……」
 事件当時、捜査を指揮した刑事部長の森下昭雄氏、科学警察研究所(科警研)の技官だった福島康敏氏、警察庁科学警察研究所(科警研)で菅家さんのDNAを鑑定した向山明孝氏は、いずれも自宅で夫人が応対に出た。
 森下夫人には「来客中」(実際には明らかに来客はなかった)と断られ、福島夫人には「取材は受けません。迷惑です。出て行ってください」と一方的に追い立てられた。向山夫人は「主人は不在」だと言い張り、帰るまで待つと返すと、「2、3日帰ってきません。困ります。帰ってください」と強く取材を拒否された。
 捜査一課長(当時)の川田正一氏とは、彼が帰宅してきたところで言葉を交わすことができたが、「忙しい。他の人に聞いて。約束があるから」とだけ言い、再びあわただしく出ていった。翌日に再訪すると、夫人が応対に出て、「風邪気味でもう休んでいる」と拒絶された。
 最初に菅家さんに目をつけた寺崎耕氏は警視になっていた。自宅を訪れたが、応答がない。近所の人が、「ここ数日お見かけしてないですね。最近、マスコミらしき人たちがたくさん押しかけてたから」と言う。県警本部に取材を申し込んだが、「他の事件で出張していて戻らない」という。
 宇都宮地裁の検事だった森川大司氏は、菅家さんの手紙にも登場した。現在は公証人をしている森川氏の仕事場を直撃すると、「お話しできないんですよ。他の雑誌やテレビの方も来られていますが、取材はすべてお断りさせていただいております」
――ご自身が担当検事として扱われた事件が、これだけの大問題になっている。
「いまは私のあずかり知らぬところで話が進んでいますので」
――責任はないと?
「これまでのことを調べていただいたらわかると思いますが、まったく違法なことはありませんし、だからコメントできないと申し上げている」
――菅家さんは謝ってほしいと言っていますが。
「コメントできません。何をどう話せと? いま、私が話せば、いろんな人に迷惑がかかる可能性がある。わかってください」
――今後も一切、口を開かないということですか?
「しかるべき局面になって、話すべき状況になれば、知っている話はしますが、違法性はなかったし、特に話すべきことはないですから」

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