今旬のトピック直撃 足利事件 冤罪を作った「警察官・検事・裁判官」の実名

▼バックナンバー 一覧 2009 年 6 月 29 日 魚の目

●「一切コメントしません」

 
 宇都宮地裁の池本寿美子裁判官(現任)も、前述のとおり菅家氏から名指しの批判を受けている。宇都宮地裁事務局に行くと、「(取材意図を本人に)伝えたところ、検討中とのこと。もう少し待って下さい」との返答があったが、翌日、本人ではなく 再び事務局が「個別具体的事件に対する感想や判断について裁判官が直接取材に応じることはありません」と答えただけだった。
 ’00年に菅家さんの無期懲役刑を確定させた、当時の最高裁第二小法廷裁判長・亀山継夫氏はこう答えた。
――足利事件について話をうかがいたい。
「あれはまだ正式に決定が出ておりませんし、継続中ですから」
――現時点でのお話です。
「私は自分のやった裁判について、一切コメントしていません」
―― 一言でもいいんです。
「コメントはしません」
同じく最高裁の判事だった北川弘治氏が答える。
「具体的なことは一切コメントしません」
――菅家さんに何か一言でもありませんか?
「ノーコメントです」
――裁判当時のことに、罪悪感を持っているのではないですか?
「どういう根拠かわかりませんが、それは違います」
……このとおり、言い逃れ、居留守、だんまり、取材拒否の連続で、真摯に答えようとする当事者は、ただの一人もいなかった。
 獄中の菅家さんとの手紙のやりとりを長年続けてきた、前述の「支える会」代表・西巻糸子さんが語る。
「最初に自白をとった警察官をはじめ、それ以降の菅家さんの供述は全部、彼らの“作文”だったんですよ。そのことを考えると、抑えきれない怒りがこみあげてきます。また、DNA鑑定を鵜呑みにした検事や裁判官に対しても、強い怒りを感じます」
 6月10日に、最高検の伊藤鉄男次席検事が、翌11日には栃木県警の石川正一郎本部長が菅家さんに対して公式に謝罪したが、菅家さんのもとへ直接出向いたわけではなかった。世論対策ととられかねない、“ポーズ”とも言えるだろう。当の菅家さんは、「警察、検察は私の目の前でちゃんと謝罪することです。裁判官も同じです」と語っている。
 菅家さんの弁護団の一人である泉澤章弁護士は言う。
「(再審請求の即時抗告審で)高裁の判事たちには、無実の菅家さんが17年間も拘留されなければならなかった原因をきちんとした形で検証しなければならない、それを今後はっきりと求めていきます。これで終わりにしてはいけないんです」
 この冤罪事件を作りだしたすべての当事者たちは、いままさに、その責任を問われているのだ。
 
※「週刊現代」2009/6/27号より転載

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