宇宙論第一回

▼バックナンバー 一覧 2009 年 5 月 14 日 堀江 貴文

 みなさん、はじめまして。堀江貴文です。巷ではホリエモンと呼ばれています。今刑事裁判中ということで、保釈中の身なので色々と制限もあるのですが、ここでは主に私が手がけている宇宙産業のことについて色々お話をしていきたいと思っています。もちろん、たまには検察庁とか裁判の話もしていこうとは思っているのですが。

 最近、北朝鮮の「飛翔体」が話題になっていますが、ミサイルなのかロケットなのかという議論を良く見かけますが、本質的には何も変わりはありません。先端に人工衛星を載せるか、弾頭を載せるかだけの違いです。ですから、ミサイルなのかロケットなのかを議論することは、包丁は人を刺すための道具か、調理をするための道具なのかを議論しているのとなんらかわりは無いわけです。つまり、ナンセンスだということです。国際社会は、北朝鮮は「イカレタ無差別殺人を犯す恐れのある国家」であると看做しているために、国連でロケットの打上げを制限されているわけです。もちろん国連決議に拘束力はありませんから、彼らは国際社会の制裁覚悟でロケット技術を習得しようとしているわけです。
 そもそも近代宇宙ロケット技術の理論的な基礎は、ロシアのツィオルコフスキー博士によって確立されました。彼が提唱したものは、液体燃料を使った多段式のロケットでした。その理論を元にして、世界で始めて宇宙に到達したロケットを開発したのは、ナチス・ドイツのフォン・ブラウン博士のチームでした。彼らの開発した、燃料にエタノール、酸化剤(宇宙空間は酸素が無いので、予め酸化剤を用意してあげないと燃焼しない)に液体酸素を使ったA4ロケット(一般にはV2ロケットと呼ばれる)は、地上100km以上に達し人類が始めて宇宙空間に投入した物体となりました。
 フォン・ブラウン博士の夢は、ロケットで月世界旅行や他の惑星へ飛行することでしたが、その資金集めのため、技術開発のために悪魔に魂を売ったのでした。そうすなわちこのV2ロケットこそが世界初の弾道ミサイルとなったわけです。V2ロケットの先端には人工衛星ではなく、弾薬が搭載されていました。当時としては、驚異的な技術の粋を集めたこのミサイルは、100km以上離れたロンドンの街に音速以上のスピードで到達し、戦果はそれほどでもなかったものの、突然着弾する恐怖の兵器として恐れられていました。
 現在のロケットには、GPSやレーザージャイロ、そして高性能のコンピュータ制御システムなどが備わっていますが、当時はそんなものは存在しません。V2では、実際にコマが回っている機械式のジャイロの向きを、機械で測定し、機械式で計算してエンジンに備え付けられた方向舵の向きを変えるという非常にアナログな方式で誘導を行っていたのです。私は実際にロケットエンジン開発に関わっていますが、エンジンの肝である燃焼室のインジェクター(噴射機)の精密加工技術は非常に高度なものであり、それをほとんど手作業で行っていたことを想像すると、当時の最高の職人をかき集めていたのだろうなという推測が成り立ちます。それだけに、フォン・ブラウン博士はナチス・ドイツの豊富な資金力を当てにすることで、ロケット開発の歴史をスピードアップさせたとも言えるでしょう。まさに実を取る戦略です。しかしながら、開発は進みましたがロケットは最初から軍需と切り離せなくなるきっかけを作ったとも言え、彼の評価は今でも功罪半ばするといっても過言ではないでしょう。
 その後、ナチス・ドイツの敗戦とともに、V2の技術は一方ではアメリカに亡命したフォン・ブラウン博士とそのチームに、もう一方では東ドイツに属するペーネミュンデロケット研究所に残ったチームとともに旧ソ連に引き継がれます。旧ソ連では、セルゲイ・コリョロフとそのチームが、ドイツ人からV2の技術を残らず聞き出し、その後のロシアの宇宙開発の礎を築くことになります。そう、実は二大宇宙大国の宇宙技術の元は全てドイツだったのです。さらに世界3番目の有人宇宙飛行を成功させた中国の技術も元々はロシアから渡ったことを考えると、日本を除く宇宙大国の技術の元はドイツだったとも言えるでしょう。実は、未だに人類はこの偉大な先駆者であるフォン・ブラウン博士とそのチームの業績を超えられていません。アメリカのスペースシャトル計画は14人もの犠牲者を出し、来年には終了する予定です。その後数年間の国際宇宙ステーションへの有人打上げはロシアのソユーズ宇宙船に頼ることになります。このソユーズ宇宙船を打ち上げる、ソユーズ打上げロケットのR7エンジンの設計は、V2ロケットのメインエンジンを改良したものです。世界の宇宙開発は実は60年以上も前に設計された技術に支えられているのでした。
 それは軍需が育てた世界の宇宙産業の歪を表しているものと私は考えます。
 このコラムでは、その歪をどのようにして直してくのか、人類は月に行って40年も経ったのに、未だにその先に行けないのか、そういった矛盾点を鋭くあぶりだして行きます。乞うご期待。