宇宙論第七回

▼バックナンバー 一覧 2009 年 8 月 27 日 堀江 貴文

スペースシャトル最大の失敗は、乗組員を安全に脱出させるための装置が無かったこと、そして大重量の貨物と軽量の人員、しかし安全基準は後者のほうが無限に高いにもかかわらず、それを同じ機体で運ぼうとしたことの二点だといわれています。詳しくは『スペースシャトルの落日〜失われた24年間の真実〜』(松浦 晋也著)を見ていただきたいのですが、ロケットで有人飛行をする場合に一番事故が起こりやすいのが、打上げ時と大気圏再突入時の事故です。実際、ロシアのソユーズ宇宙船の2度の死亡事故は帰還時にパラシュートが開かないとか、再突入カプセルの空気が漏れて窒息(当時ロシアの宇宙飛行士は宇宙服を着ていなかったのだ!)したというものだし、打上げ時にも一度爆発事故を起こしているが、その際もロケット先端についた脱出用ロケットが作動し、乗組員達は事なきを得たのです。

世界歴代の有人打上げ用ロケットは、ボストークやマーキュリー計画、アポロ計画でも中国の神舟宇宙船用のロケットでも必ず、エスケープタワーという宇宙船カプセル先端に塔のような形の脱出用小型ロケットが付けられています。ロケットが爆発するといっても、一瞬で爆発するわけではないので、その一瞬の間隙を縫って有人カプセルを遠くに飛ばすためのロケットなのです。しかし、これはスペースシャトルには付いていません。完全再利用にこだわった結果なのでしょうか?

もう一つ大きな欠陥は、貨物と人員を同じ機体に乗せたことでしょう。すなわちそれは、貨物も人間と同じ安全基準で運ばなければいけないということを意味します。つまり多くの重量を無駄に高い安全基準で打ち上げなければいけないので、コストが高くなってしまったのです。でも自動車や飛行機などは、人員と貨物を一緒に運んでいるではないか、という反論もあるでしょう。しかし、宇宙ロケットはそんなに余裕がある代物ではないのです。燃料もギリギリ一杯積んでいますし、安全上のマージンを取れるような状況ではないのです。つまりカツカツの状態で設計されているわけです。

正解は、今頃分かったわけですがやはり貨物は貨物で、人員は人員で別々に運ぶべきだということです。事実、今後の国際宇宙ステーションへの貨物輸送はソユーズロケットで打ち上げるプログレス補給船や、欧州のアリアンVで打ち上げるATV、そして今秋日本のHII-Bで打上げ予定のHTVが担うことになっています。アリアンやH-IIは有人打上げ実績はなく、それだけの信頼性も担保できていないロケットですが、それでも物資輸送には十分使えるのです。なぜなら、最悪失敗しても保険で再び作れるものだからです。人命はそうはいかないでしょう。ほぼ100%の成功率が必要となり、万が一失敗しても人命だけは大丈夫なように設計せねばならないのです。

結局スペースシャトル計画は来年、終焉します。未だに計画を延ばそうとする話が聞こえてきますが、日本の公共事業を推進する保守派勢力と同じように、アメリカにも大規模公共事業であるスペースシャトルを延命させる必要のある人が存在するようです。

歴代のアメリカ民主党政権は宇宙開発予算を減らす方向性で進んできました。共和党から民主党に変わるタイミングで予算が大幅に減らされたり、計画がストップさせられたりすることが多かったようです。スペースシャトル計画が延命される可能性はゼロに近いといえるでしょう。しかし、オバマ政権移行前のブッシュ政権時代にNASAは驚くべき計画を発表していました。いわゆるコンステレーション計画というものですが、月と火星を目指す有人宇宙計画です。その打上げロケットが驚愕の代物でした。

有人宇宙船をアレスIという小型ロケットで、月・火星着陸船も含む輸送船等をアレスVという大型ロケットでそれぞれ別に打ち上げるというコンセプトは、スペースシャトルの失敗を受けて改良したといえるので評価できるのですが、このアレスI,V(特にアレスI)の設計がびっくり仰天モノだったのです。スペースシャトルという巨大公共事業を全てご破算に出来ないという都合のせいで、なんとかスペースシャトルの既存コンポーネントを生かすという方向で設計が進められたため、アレスIでは、一段目にスペースシャトルのSRB(補助ブースター)を(しかも4セグメントだった固体燃料ブロックを推力不足のために、もう1セグメント増やして)使い、2段目はSSMEを使うつもりだったのですが、今度は推力が大きすぎてしかも値段が高いということで、なんとアポロ計画のサターンVロケットの2段目エンジンであるJ-2エンジンを使うというトンデモ設計になってしまったのです。勿論J-2エンジンの開発に関わった人たちは皆引退していましたので、無理やり引き戻したりということが行われたらしいのです。

見た目も非常に不恰好です。1段目のSRBは元々空気抵抗を出来るだけ受けないように細身の設計になっているにも関わらず、2段目のJ-2エンジンは燃料に液体水素を使うため必然的に燃料タンクの容量が大きくなってしまい、細身の1段目の上に直径2倍はあるかと思われる2段目が載っているという、安定性も無く空気抵抗にも弱そうな機体になってしまっています。こんなロケットで果たしてアメリカ人は安全に宇宙に行けるのでしょうか?

続きは次回で。