三井環さんからの手紙「法務省関連組織の改革案」(資料1)

▼バックナンバー 一覧 2009 年 10 月 28 日 三井 環

編集者注・三井さんは検察裏金問題で口封じ逮捕された元大阪高検幹部です。現在服役中ですが、獄中から旧知の私あてに手紙が何通か届いていますので、ご本人の了解を得て順次掲載していきます)

 民主党を中心とする連合政権はそのスローガンの一つに無駄遣いをなくするため徹底的にメスを加えるとする。血税であるのでしごくもっともなことであるが法務、検察においても多くの無駄遣いがある。だが庁益を守るためあらゆる手段を講じて徹底的に抗戦するであろう。これに対抗するためには法務、検察の実態をまず充分知ることが先決である。そうしないと経験豊富な法務官僚に言い負かされその主張の真偽さえも定かでなく充分議論ができないまま現状を打破することが不可能で敗北するであろう。
 私は29年間検事をやり特に高知地検、高松地検各次席検事、名古屋高検総務部長、大阪高検公安部長と幹部検事を約10年間経験したため法務、検察組織の実態を充分知り尽くしてきたのである。
 検察OBは法務、検察とのしがらみがあるが私にはそのしがらみはなく、むしろ検察の組織的な裏金づくりの犯罪を追及してきたのである。
 連合政権にも弁護士はいるものの法務、検察を外から見ただけではその実態を把握することは不可能である。その実態を把握しないことには何を改革すべきか、何が無駄遣いなのか指摘することもできない。
 国民は連合政権が果たして法務、検察の無駄遣いを一掃することができるのか疑問視しているであろう。
 何故ならそれは法務、検察との戦いであるからである。従前から検察を恐れる国会議員が多い中、検察の裏金づくりの追求もなおざりになったという経緯があるからだ。従前とは違うのだという姿勢を行動で示してもらいたい。
 私は連合政権を切に願望していた一人である。それは法務、検察の無駄使いをなくし、改革を成し遂げてくれるであろうという期待感である。公約を守って実現するならば国民は拍手喝采をするであろう。そして莫大な財源が捻出されるのである。
 次に法務、検察の無駄遣いとその改革の骨子を記述したい

1 公安調査庁の廃止と調査活動費予算の全廃

同庁は昭和27年破壊活動防止法の施工に伴い法務省外局として新設され、日本共産党、過激派団体、朝鮮総連などの暴力主義的破壊活動を行う団体を調査し、場合によっては団体規制請求するのが任務である。ところが日本共産党を調査するのは論外とし、過激派団体の衰退などから平成5年頃廃止論が政府関係者から浮上した。これに対し公調は組織の生き残りをかけ「公安動向一般」についても調査することにし、部署を再編するなどした結果、定員や予算の削減をするに止めて廃止されることはなかった。それは私が高松地検次席検事当時であった。
私は約8年間公安担当を経験したが都道府県警察の警備、公安部門のみの情報で充分であって、その情報量と質は公調と対比すると完全に同庁は見劣りするのである。もはや公調の存続される理由は如何なる角度から見てもないのである。

法務省に調査活動費予算があるがその予算は情報提供者に対する謝礼である。検察において年間約6億円の調査活動費が全て裏金に回って幹部の遊興飲食費等に使われた。これは私文書偽造、同行使、虚偽公文書偽造、同行使、詐欺罪等の犯罪である。当時の原田検事総長は記者会見までして「検察の組織的な裏金づくりは事実無根である」と国民に大嘘をついた。だが現在では検察が否定するのみで誰もが裏金を否定するものはいない。
公調には情報提供者が実在するが調活費が余って湯水のように幹部が飲食等に使っていたことは現職当時見聞した。公調を廃止すれば、調査活動費予算は全く必要ないのだ。
 公調廃止と調活の全廃でどれだけの財源が捻出可能であろうか。私は今独居房にいるので資料の入手が困難であるので計算はできないが。

内閣調査室をも廃止して首相直轄の組織として「情報局」(仮名)を設置し強力な情報機関の設置こそが望まれる。情報の重要性を否定するものは誰もおらず、情報こそ「宝」であるとの命題は変わらず、ますますその重要性は増すであろう。

2 地方更生保護委員会を廃止し第三者機関の設立

 同委員会は法務省に設置され仮釈放決定等の実務を担当する。
仮釈放は㋐刑務所長から委員会に申請する場合、㋑委員会が職権でもって決定する場合の2通りがある
 私の場合は㋐で3月中旬頃静岡刑務所長から委員会に対して申請がなされ5月13日か14日に委員会の面接をして6月上旬頃開花寮に入寮し同月中旬頃仮釈放の予定であった。ところが面接の二日前の5月11日、検察から横槍が入って予定が反古にされた。なお、横槍が検察から入ったことを私が知ったのは8月末である。検察は仮釈放についてはなんらの権限もない。予定が反古になったのは検察の横槍が入ったからである。5月7日頃までは仮釈放を前提での準備をやっていたのである。法治国家を検察は一体どのように考えているのであろうか。早期に仮釈放と考えたのは多分検察の組織的な裏金づくりの犯罪を私が、公表しようとしなかったならば、かような事案での逮捕自体があり得ないことを刑務所及び委員会の幹部であれば分かるので、法律の許す範囲で早急に実現してやろうという考えであったと思われる。これに反して検察は保釈後も裏金づくりの講演、執筆等を活発に繰り広げ、検察の信用を失墜させたその報復であろうと思われる。私は捨石になる覚悟である。
 また㋑の職権発動による仮釈放については、現職当時「天の声」あるいは「本省事案」と呼ばれ委員会と検察OB あるいは政府関係者との癒着なので  ある。検察OBらが暗躍し多額の報酬を得るため早期の仮釈放を実施するのだ。その「天の声」が受刑中2件も目の前で発生し、ただ唖然とするのみである。
 国政調査権を行使し職権発動による場合とそうでない場合(㋐と㋑)とを比較検討すれば㋑の場合の仮釈放が早期に実現されているのが分かるのであろう。
 これらの弊害をなくするためには、法務省に検察と委員会が設置されているからかような事態が発生するのであるから、法務、検察の影響力の及ばない第3機関の設置を立法的に図るべきである。

3 取調べ可視化法案の成立

 同法案の成立だけでは充分でなく検察官による被告人に有利な「証拠隠し」が従前から行われ、それが発見され死刑が無罪になった事例もある。証拠物や、検察官の手元資料である残記録は弁護人の閲覧、謄写を認めない。そこで㋐録音テープに供述されていない供述については証拠能力を付与しない。㋑押収証拠品の前面開示。㋒残記録の全面開示をする法案成立が望まれる。
 検察官は「公益の代表者」である。真実発見に努めるべきであって反対すべき理由はない。

4 裁判員制度の改善

 裁判員制度の存否の議論はあるが陪審制導入するための第1歩であると私は考えている。改善すべき最大の問題点は対象事件である。「対象事件」に国策捜査事件や反戦ビラ事件等の政治的事件については「対象事件」とすべきである。最も民意を反映させるべき事件であるからである。裁判官は最高裁の人事評価を気にして体制に反対する判断をしない傾向があるからである。「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に「弁護人及び被告人が裁判員による裁判を希望する場合には対象事件とする」との条項を追加すればそれで充分なのだ。
他にも公判前準備手続き、守秘義務、裁判官の裁判員を利用した裁判官による裁判、になっていないかなど多くの問題点があるがしばらくはその運用を見守り改善を検討すべきであろう。

5 刑務所改革

 軍隊式思考を見直し人間性を肯定し人間の特性であるコミュニケーションを重視して刑務官との信頼関係を構築する行刑を基本方針とすべきではないかと思われる。行刑の目的は更生改善させ再犯を防止することにあるが、1年内の再犯率が80%以上である。その原因は刑務官と受刑者が憎しみ、さげすみあい、あちこちで怒号が鳴り響く現況下ではお互いが反発するだけであって更生改善の意欲もわかないであろう。また出所後の就職先が決定されていない受刑者が多くその点に関する行刑はなおざりにされている感がある。監獄法が廃止され「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が平成18年5月24日から施行されたが、それは従前からある所内生活の心得をほぼ丸写ししただけであり受刑の実態は何も変わっていないのが実情である。精神的暴力である軍隊的行進が何のためにあるのかさっぱり分からないまま相変わらず続いているのだ。

6 矯正協会の廃止

 法務、検察の天下り先であるが、独占的に日常品等の物品販売を定価で拘置所、刑務所等の受刑者に販売している。ほとんどの物品は同協会以外からは購入できないシステムになっている。そのため受刑者の経済的負担が多く、また受刑者が製作した家具、靴等を市民に販売して多額の利益を得ている。協会の「益」のみで受刑者は「損」のみである。

7 首相直轄の「国家戦略局」の担当相に菅直人氏が就任したが、同人は私が逮捕されてなければ法務委員会において検察の裏金づくりの犯罪を追及する予定であったので大いにその手腕に期待したい。