三井環さんからの手紙け も の 道
平成21年10月9日
三井 環(元大阪高検公安部長)
検察の組織的裏金づくりの犯罪の分岐点は平成13年10月末にあったと私は思います。原田検事総長の判断の誤りが後に大きな災いをもたらすのです。
当時は大阪地検加納駿亮検事正が裏金づくりの犯罪(虚偽公文書作成、同行使、私文書偽造、同行使、詐欺)で刑事告発され週刊文春、週刊朝日が大々的に私の取材により報道していました。
法務省は加納を福岡高検検事長に上申しましたが、当時の森山法務大臣は刑事告発されていることを理由に難色を示したのです。小泉内閣としては人事を承認し刑事告発が「黒」であれば、その責任を内閣が負わなければならないからです。法務省はなかなか内示ができなかったため報道が過熱し大手新聞も一気に報道しかねない状況下にあったのです。
そこで原田検事総長が考え出したのが「けもの道」と言う選択だったのです。検察の組織的な裏金づくりの犯罪は内部では「公知の事実」でしたので原田検事総長は自ら国民に謝罪し、ある程度の処分者を出して、使った金を国に返還するだろう、それ以外の選択肢はないだろうと私は考えていました。そうすれば検察の信用は一時的には失墜するかもしれませんが、さすがは他の省庁とは違うと評価されたであろうと思います。私はそれを期待していました。ところが「けもの道」と言う最悪の選択をしてしまったのです。
何故かような選択をしたのでしょうか。たぶん検察の組織的な裏金づくりの犯罪が公表されますと、約70名の検察幹部の懲戒免職、国民からの刑事告発、使った金の国への返還、検察幹部OBへの波及等大問題が発覚し検察の信用は一気に失墜し、一時その機能が麻痺すると考えたのでしょう。
10月末、検察の今世紀最大の汚点が実行されたのです。原田検事総長とM法務事務次官、F刑事局長が後藤田正晴元法務大臣の事務所を訪ね、加納人事が承認されないと裏金問題で検察がつぶれると泣きを入れたと言われています。これを後藤田氏は後に「けもの道」と名付けたと言われています。
検察の原点は真実のみを追求しそれを確定する政権に貸し借りを作らないことの2点にあります。政権に借りをつくると、贈収賄等の捜査が事実上不可能になります。政権への捜査が進む中、検察最大の弱点である「裏金づくりを公表しようかね」と一言いわれれば捜査を中断せざるを得ないのです。については検察の裏金づくりの犯罪は公知の事実であるのに刑事告発に対し「嫌疑なし」と裁定し「真っ黒」を「真っ白」にしたのです。「けもの道」により小泉内閣は加納人事を11月13日に承認したのです。そして天皇を欺して犯罪者を認証させたのです。さらに原田検事総長、森山法務大臣は記者会見をして「検察の組織的な裏金づくりは事実無根である」とまで言って国民に大嘘をついたのです。それが出発点となってオンブズマンによる裏金づくりの裁判では虚偽の準備書面を提出し、法務委員会における野党議員による追及でも虚偽答弁をするにいたったのです。オンブズマン裁判でも私の裁判の控訴審でも、検察の裏金づくりの犯罪は認定されましたが、それでも裁判を無視して鈴木宗男議員による法務委員会での追及でも裏金づくりはないと答弁するのであります。
また政権による検察最大の弱点である裏金づくりの犯罪を利用して安倍内閣は、自らの北朝鮮政策に反して朝鮮総連に協力したとして元公安調査庁長官緒方重威を詐欺で逮捕・起訴させ、更には麻生内閣は本年3月3日、小沢代表の公設秘書を政治資金規正法違反で逮捕・起訴させたのであります。後者は選挙に影響を及ぼす時期には強制捜査をしないという検察の鉄則を破ってまで実行されたのであります。
検察の裏金づくりの犯罪は完全に隠蔽されましたが、国会議員や大手マスコミが検察を恐れ、追求を避けたことにも大きな原因があるのです。検察最大の弱点を政権に利用されないためには、検察自ら裏金づくりを公表し、国民に謝罪し、使った金を国民に返還(年間6億、10年間なら60億)するしかありません。
3 私は上記のように検察の原点である,が踏みにじられたため検察の組織的な裏金づくりの犯罪を現職(当時大阪高検公安部長)のまま実名で公表する決断をしたのです。それは義憤以外の何ものでもありません(ただ加納に対する告発は私憤でしたが)。そのためには国会議員とマスコミに協力を求めねばなりません。ほとんどの大手新聞、週刊誌、月刊誌、テレビ局等と接触し、また国会議員とも接触を重ね、平成14年4月19日の時点で告発スケジュールが出来上がったのです。それは「朝日新聞東京本社が5月連休明けに一面トップで報じ、社会面で私が現職のまま実名で一問一答形式で答え、その記事をもとに民主党の菅直人氏が法務委員会で追及し、その過程で私を証人喚問し、裏金づくりの犯罪を証言し、国会内で記者会見しバッヂを外す」と言うものだったのです。
ところが4月17日、ザ・スクープの鳥越俊太郎氏と約束し、4月22日昼から大阪で取材、収録予定でしたが、その早朝私は逮捕されたのです。検察はどこからか情報を入手し、収録されれば直ちに放送されると思ったのでしょう。だが実は5月の連休明けに朝日新聞東京本社が報道した後に放映するという約束だったのです。他の大手新聞、NHKテレビ等も朝日新聞を後追いするという約束だったのです。
検察は組織的な裏金づくりの犯罪を隠蔽し、その発覚を免れるために私を口封じ逮捕したのです。また平成13年10月に「けもの道」の選択をしないで国民に謝罪しておれば、私の逮捕もなかったのです。
1年間に6億円もの調査活動費が1円も本来の用途に使われずに自動的にすべて裏金となって、検察幹部の遊興飲食費、ゴルフ代、麻雀代等に血税が使われたのです。私も次席検事通算6年間、その共犯者として裏金帳簿の決済をして飲食接待にも参加したのです。
検察の調査活動費の予算は毎年減少し8000万円くらいになっていると聞いていますが、法務省の予算は以前と変わっていないのであります。公安調査庁に振り分けられた分が裏でバックされているとか、A地検の調査活動費をB地検が裏金として使い、B地検の調査活動費をA地検が裏金に使っているとの情報があります。一度甘い汁を吸った人はその味が忘れられないのでしょう。
民主党を中心とする連立政権は無駄使いを一掃するということですが、まず犯罪を一掃してもらいたいと思うのです。警察の捜査費、地方公共団体の食糧費も全く同じです。まだ発覚されていない他省庁の裏金にもメスを入れるべきでしょう。そのためにはプロジェクトチームを編成すべきです。そうすれば政権がマニフェストに掲げる「子育て支援」「高速道路無料化」「高校の授業料無料化」の財源が確保されるのです。
原口一博総務大臣は「無駄使い一掃には聖域はない」とまで言われているのです。また検察を恐れて従前のような対応をするのでしょうか。検察の裏金づくりがあれだけ騒がれ、私も民主党議員と面談し、追及を約束したのに民主党はそれをしなかったのです。千葉法務大臣、副大臣、政務次官は毅然たる態度でこれに取り組むべきでしょう。特に千葉法務大臣は検察の暴走をチェックすると発言されているのですから、裏金問題の追及が最大の試金石と言うべきです。
平成14年4月22日に逮捕されてから7年半を経ますが、検察という組織が巨額の裏金づくりの犯罪を犯しながら、自らの保身のため、あらゆる手段を使って隠し通したがゆえに最大の弱点を政権に利用される。かようなことが許されるのでしょうか。検察が国民に謝罪するまで戦うつもりです。
5 なお上記は静岡刑務所において受刑中の元大阪高検公安部長三井環が一水会最高顧問鈴木邦男氏宛てに10月1日発信した手紙の要旨を両人の同意を得て引用したものであります。