三井環さんからの手紙裏金づくりの隠ぺいと今後の展望
平成21年10月23日
三井環(元大阪高検公安部長)
「けもの道」で述べたとおり、私は平成14年4月22日、ザスクープの鳥越俊太郎氏の取材・収録の数時間前に、何ら弁解を聞くこともなく、いきなり大阪地検特捜部に逮捕された。その逮捕容疑は以下の通りである。
不実記載・詐欺罪。
私はマンションを購入するに当たり、銀行ローンを組む際に銀行担当者の要望により融資申し込みと同時に住民票を移動した。平成13年7月24日に移動し、8月1日に融資が実行されたのである。実行され、購入代金を払わないと、所有者とならないので7日間の空白期間が生じる。もちろん所有者でないので、その間入居することはできないのである。その空白期間を不実記載としたのだ。
不動産取引、銀行実務では事務の煩雑から先に住民票を移動するのが慣行となっている。銀行ローンを組んで住宅を購入された方は経験されたと思う。事務の煩雑さというのは、所有者となってから住民票を移動すると、融資申込時の住所は以前居住していた場所にあるので銀行帳簿の全てを書き直す必要があるのだ。これが大型新築マンションであれば300件くらいの書き直しをする必要がある。そのため、先に住民票を移動するのが銀行実情となっている。また、かような事案を立件されたことは過去1度もない。
詐欺罪というのは、登録免許税の減額措置を受けるための証明書1通の財物を区役所から騙取したというものである。登録免許税法では違法な減額措置を受けた場合には追徴金でもって対応することになっている。すなわち減額された分の差額を追徴しようというものである。そして罰金規定は存在しない。
そこで仕方なく、その予備的行為である、区役所から証明書1通を入手した事案をとらえて詐欺罪としたのだ。証明書を入手して法務局に提出すると不処罰なのに、その予備的行為を処罰しようとするのだ。いかにも不可解である。かような事案で立件したことは過去に1度もない。法律解釈的にも詐欺罪は成立しないとする京都大学名誉教授の有力な意見がある。
公務員職権濫用罪
検察事務官に指示して渡真利(光武帝)の前科調書を入手したというのが犯罪だと言うのだ。私は前日、渡真利の秘書から渡真利は詐欺等の犯罪等を犯していたとの話を聞き、どういう前科があるのかと思って入手しただけである。入手したことを渡真利は全く知らないし、これを何かに利用したことも、また流用したこともなく、自ら保管していたのみである。かような事案で立件すること自体が一般常識に反するであろう。
この ,が第一次逮捕である。他のマル暴資料を検察事務官に指示して入手した職権濫用罪と併せて起訴された。それは深夜自宅に10回くらい無言電話があったため、そのマル暴ではないかと考えて、どういうマル暴だろうかと思って入手したのだ。無言電話が脅迫罪であることは言うまでもない。公務員職権濫用について法律解釈上犯罪は成立しないとの大阪市立大学院教授の有力な見解がある。
この起訴事実で森山法務大臣は私を懲戒免職処分とした。この件については人事公平委員会に対して不服申し立てをしているが、出所してから審理することになっている。
なぜ法務・検察は第二次逮捕・起訴直後に懲戒免職処分にしたのであろうか。それは朝日新聞、週刊文春、週刊朝日、月刊誌等が検察裏金づくりの発覚を免れるための口封じ逮捕ではないかと連日大々的に報道し、民主党の菅直人氏も法務委員会において追及する姿勢を見せたため、多分それを打ち消す必要性があったのだ。
そして第一次逮捕起訴のみでは口封じ逮捕だとの批判をかわすことは困難であったので、収賄罪で第二次逮捕せざるを得ない状況下に置かれたのである。詐欺等の前科十二犯の詐欺師である渡真利(光武帝)を巧みに利用したのである。取調べ検事は現在の大阪地検特捜部長の大坪検事である。
渡真利が第三者に語ったところによると「部長の(三井)首を取れば、お前は有名人になって認められる。協力しろ、検察に恩を売っとけば、その見返りもあろうが」と持ちかけたと言われる。渡真利はその期待に見事に応え、架空の事件まででっち上げるのだ。
それは、昼間の午後1時から3時まで大阪地検近くのグランドカーム(ホテル)においてデート嬢による接待をしたという事件だ。そのデート嬢はすでに殺害されていて証拠はなく何の裏付証拠もなかった。その渡真利の虚偽の供述により、第二次逮捕がされたのだ。
収賄といわれる事件は、私が渡真利の依頼により事業資金200万円を無利子で貸与し、その謝礼で3日間22万円の私的な飲食等の接待を受けたというのが事実である。あくまでも私的接待であるので収賄罪が成立する余地はない。
ところが職務に関する接待も並存すると裁判官は認定したのだ。職務に関する裏付は皆無であって、あるのは渡真利供述のみである。しかもグランドカームで接待したとされる時間帯には、渡真利は三宮の弁護士事務所、兵庫警察署で知人の差し仕入れ、公衆風呂屋に行っている事実が明らかになった。したがって接待は物理的に不可能なのだ。さすがにこれは無罪となった。架空の事実をでっち上げたのである。
そのため裁判官は渡真利供述を信用できないとして、その信用性の判断を回避し、有罪にするために、ただ暴力団関係者から検事が接待されればイコール職務に関する接待であると強引に職務関連性を認定したのである。
他方、森山法務大臣、原田検事総長は逮捕直後マスコミから口封じ逮捕ではないかとの追及に対し「きわめて悪質な重大犯罪であって、口封じではない。検察の裏金づくりは平成12年11月頃に『嫌疑なし』と認定したとおり、そもそも存在しない」と国民に大嘘をついた。
法務委員会においても野党議員が「口封じ」ではないかと追求したが、古田刑事局長は上記同旨の嘘の答弁をした。古田刑事局長はその後、最高裁判判事となったが、最高裁判事として人を裁くことが果たしてできるのであろうか。彼は、検事の裏金づくりの犯罪が公表されておれば、懲戒免職処分となったひとりである。
ジャーナリストの青木理氏は、私の事件を「裏金告発・口封じを狙った薄汚き検察の庁益捜査である」と批判する(国策捜査 青木理著 週刊金曜日)。
また、東京地検特捜部副部長・鹿児島地検検事正・最高検検事を歴任した永野義一氏は、青木氏のインタビューに対し、裏金を使った事実を認めたうえ「最初に三井氏の事件を聞いたとき、そんなケースで特捜が逮捕するなんてあり得ないだろうと思った。しかし、逮捕したというのでびっくりした。それが率直な思いだった。やはり口封じと言う政策的なものかなってね・・・」と述べている(上記週刊金曜日 国策捜査)。
検察の組織的な裏金づくりの犯罪を隠ぺいし、その発覚を免れるための口封じであると判断しないことには、私の逮捕はどのような論点からしても理解不可能なのだ。
第二次逮捕事案が起訴された直後に森山法務大臣は指導監督を怠ったとして原田検事総長を「戒告」、大阪高検大塚清明次席検事を「減俸3ヶ月」、いずれも懲戒処分とした。原田検事総長は歴代総長で初めて戒告処分を受けたが、辞職することもなく、また、大塚次席検事はその後、高松高検検事長、仙台高検検事長へと栄転したのだ。検事が減俸3ヶ月の懲戒処分を受ければ、本来であれば出世は望むべくもなく辞職するのが通常であるが…。自らが出血してまで口封じ逮捕する必要があったのだ。
朝日新聞東京本社編集委員落合博実氏はこの処分を「猿芝居」であると酷評した。検察の裏金づくりの犯罪を隠ぺいし、その発覚を免れるための口封じ逮捕、起訴が実態であるのに、それを秘して猿芝居を演じているという意味であろうか。
原田検事総長から歴代の総長及び法務省幹部は、平成13年11月からすでに約8年が経つのに検察の裏金づくりを隠し通している。警察の捜査費、地方公共団体の食料費の裏金づくりは公表された限度ではこれを認め、国民に謝罪し、使った金を国民に返還して処分者も出したのに…。検察のみがただただひた隠しにするのだ。
検察組織、検察幹部の犯罪を逮捕する機関が米国と違って日本には存在しない。そんなことない、警察があるではないか、また検事は独任制官庁ではないかと言う人がいるかもしれないが、これらの人が検察幹部の犯罪を逮捕することは事実上不可能なのだ。「悪い奴ほどよく眠る」のである。
検察に自浄能力を期待することはもはや不可能である。ではどうすればいいのであろうか。二つの方法があると私は思う。
その一つは法務委員会において偽証の制裁の上、裏金づくりの有無の証人尋問をすることである。原田元検事総長でも樋渡検事総長でもいいであろう。彼らは検事として、人として偽証をすることはできないのではなかろうか。万一偽証をすれば刑事告発すべきであろう。検察審査会に一定の起訴拘束力が認められたので、かなりの効果があると思われる。
もう一つは千葉法務大臣が検事総長及び事務次官に対して行政上の指揮権を発動することである。捜査上の指揮権発動ではないので全く問題はない。「検察の組織的な裏金づくりの犯罪を認め、国民に謝罪し、使った金を国に返還せよ」という内容の指揮である。かような指揮をすれば、マスコミは大々的に報道するであろう。 それでも法務省幹部及び検事総長は裏金づくりを認めないであろうか…。私は一人の人間としてそのような事態にはならないと信じたいのであるが。
少なくとも犯罪をひた隠しにしてそれが通用する社会にだけはしたくないものである。かようなことを考えなければならないこと事態が本当に情けない話である。