エチオピアジャーナル(5)オサマと私

▼バックナンバー 一覧 2011 年 7 月 29 日 大瀬 二郎

テロリズム

 
ビン・ラデンが殺されたことによってアルカイダ、もちろん、そして他のテログループも一緒に消滅したわけではない。
 
9・11テロ以降、アメリカなどの軍事予算は急増し、イラクやアフガニスタンでは多大な犠牲者がでる一方、テロ・過激派グループのリクルートの源泉となる、貧困と独裁政権に虐げられた人々への対策はおろそかとなり、Terrorizeという言葉が意味するように、社会を脅かすというテロ団体の目的が達成されたわけだ。
 
アルカイダのイデオロギーは、外部からの影響をイスラム教国から断絶し、原理主義に基づいた一つのイスラム帝国を作り上げることだった。その手段の一つが、西欧によって操られていると見なされているイスラム教国家の指導者達の排除だ。だが現在アラブ圏で勃発した「アラブの春」とも呼ばれている改革の波を導いたのは、サウジアラビアの大金持の息子のビンラディンを信棒する少数のイスラム原理主義者達ではなく、チュニジアの路上で野菜を売っている若者によって触発された、政治的・経済的な自由を求めたイスラム教徒の大衆であった。国際社会はこのチャンスを逃してはならない。テロを防止するために、世界各国のリーダーは、マンネリで型にはまった外交政策から離れ、勢いを失い始めているこの波を、もっと積極的に支持するという、勇敢で大胆な判断を下す必要があるのではないだろうか?
 
アメリカのゲーツ国防長官は「開発援助は兵士を送るよりもっと安くつく」と昨年9月に述べた。不安定で貧しい国家を国際援助などによって安定させることは、テロ防止の第一線だということだ。だがアメリカ議会では、財政赤字削減のために、開発援助を大いに削減する動きがある。アメリカで昨年行われた世論調査によると、アメリカ政府は開発援助に国家予算を費やしすぎで、国費の25パーセントが使われていると信じられていることが明らかになった。だが実際の数字は、およそ1パーセント。これを国民総所得に比較してみると0.2パーセント。データを見つけることはできなかったが、日本人も同じような認識をしているだろう。日本でも、東北・関東大震災の回復の資金のために、本年度の開発援助は削減された。ちなみに、日本の国家予算の0.67パーセント、国民総所得の0.18パーセントが、2011年度に国際援助に費やされた。国際援助は、困った人をたすけたいという慈悲心、利他主義だけが動機ではなく、日本経済の保持、促進に欠かせないものだ。資源の乏しい工業国である日本にとって、製品を輸出し資源を得るための、状勢が安定した市場のメンテは不可欠。ある意味で、海外援助は、出費に比べればハイリターンを得られる投資のようなもの。票と支持を得るために、国民の恐怖心を煽り、表向きのみの削減を唄う政治家にありのままに操られないよう、事実を把握することが必要だ。
 
オサマ、そしてテロリズムが私たちの脳裏に侵入してしてから今日まで、「暴力」が牛耳った10年。「War on Terror (対テロ戦争)」によって、多くの命が失われ、巨額の軍事費が費やされたが、果たして世界が以前より安全になったのだろうか? 政治家は胸をはって、そうだと答えるかもしれないが、自分はそうは思わない。世界が一体となり、極貧困と社会的不正が除去されない限り、テロや紛争の壊滅は実現されないだろう。
 
オサマ・ビンラディンの死がもたらした高揚感が薄れ始め、新聞の一面から姿を消し始めた頃、わが子達は1歳になった。青空下で行われた初めての誕生日に、緑の芝生をよちよち歩きする子供達の姿を目で追いながら、オサマ・ビンラディンもテロリズムのこともすっかり忘れ、つかのまだが、純粋で完全な幸せを満喫した。

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