エチオピアジャーナル(11)身近に感じるテロリズム(2)

▼バックナンバー 一覧 2013 年 12 月 6 日 大瀬 二郎

「おとうさん、どうして火が燃えてるの?」

幼児の娘が、ノートパソコンのスクリーンに映っている写真を見て言った。

「あー……。えーっと……。悪い人が火をつけたから」。突然で不意の質問に、戸惑いを隠せなかった。

テレビやパソコンで子供達に見せるものは通常は厳密に選んでいるのだが、書斎でその日のニュースをチェックしていた時、最近通い始めた保育園から子供達が帰ってきたことに気づかず、部屋に入ってきた娘にパソコンの画面を見られてしまったのだ。読んでいたのはレバノンの首都ベイルートにあるイラン大使館での自爆テロの記事。ここアジスアベバに移る前に住んでいた街だ。写真を見ながら、イラン大使館はどの辺にあったかなと、知り合いのレバノン人カメラマンが撮った写真を見ながら思い出そうとしていたところだった。

2007年の春にベイルートに転居した翌日、徒歩で行ける場所で車爆弾テロがあった。その後3年間、しばしば起こる爆撃・戦闘事件とその犠牲者の葬儀は、「よくあるニュース」といった感覚で取材するようになっていたが、現在のレバノン情勢はもっと深刻なものになっている。

シーア派が政権を握るイランは、同派の一派・アラウィー派のアサド政権を支持している。ベイルートのイラン大使館の爆撃は、レバノンのスンニ派の過激グループ・テロ組織のアルカイダ系組織「アブドラ・アッザム旅団」が自分たちの犯行だと発表する。シリアでの内戦のさなか、レバノンの政府・軍事の実権を握るイスラム教シーア派の武装政治組織ヒズボラが戦士を送り込み、シリアのアサド大統領への援助を隠そうともしない。一方、野党となるスンニ派の組織の数々は反政府軍を援助している。

レバンノン国内でも両派間で小規模な衝突が起きていて、それがエスカレートし、いつ内戦が勃発していてもおかしくない情勢だ。だが、15年にわたって治安が崩壊したレバノン内戦の記憶は薄れておらず、各党派が自己抑制をしていた。しかし、シリア内戦が勃発して2年半が経過した今も解決の見通しが立たないなかで、レバノンの情勢は崖の縁まで追い込まれ 、これからも各党派の自制が続く保証はない。

「どうして火が燃えているの?」

数週間前に、我が家から2キロほどしか離れていない民家で、爆発事件があった。 その日、ワールドカップの予選が、エチオピアとナイジェリアで行われ、その取材をした翌日に爆発事件のニュースを聞く。政府の発表によると、自爆用の爆弾をチョッキに詰め込む作業中に爆発、ソマリア人が4人死亡。現場では爆弾を製作する材料、そしてエチオピアのサッカーチームのジャージが見つかったそうだ。長距離ランナーの国と知られているエチオピアが、初めてFIFAの予選まで進み、国中が盛り上がっており、生中継されていたゲームが攻撃目標だったらしい。幸いにもこのニュースは子度達の耳には届かなかった。

「どうして火が燃えているの?」

双子の娘と息子は最近、よく質問をするようになった。「悪い人が火をつけた」というあやふやな答えに、不満足そうに娘は眉をそり上げた。 わずか3歳半だが、嘘やいい加減な返答はすぐに見抜かれてしまう。その数日前、信号を待っているとき、片足を失った男性が車の窓際に来て物乞いをした。「どうしてあの人は足が一本しかないの?」と娘が聞いた。元兵士らしい男性は、1998年から2000年にエチオピアと隣国のエリトリアによって行われた戦争で負傷したのだろう。「戦争で怪我をしたから」と答える。「戦争ってなに?」と娘が聞く。大人を満足させられる答えさえ持たない自分に 、どうして幼い娘にちゃんと説明できるのだろうか?

これからどんどん増えていく我が子による「尋問」の波に、自分が果たして対応できるかどうかと不安になった。

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