田原総一朗の正体第二回
かつて東京地検特捜検事に、取り調べで最もてこずるのは国会議員の秘書だといわれたことがある。国会議員の秘書とは、議員に迷惑が及ぶことを身を持って阻止することが最大の仕事で、そのためには命さえ絶つというのである。
世田谷・深沢の土地購入事件で、特捜部が完敗したのは、大久保隆規、石川知裕の両元秘書をおとせなかったためであった。常識的には、大久保、石川両者の虚偽記載に責任者である小沢一郎幹事長が関与していなかったとは考えられない。だが、両者は関与していないと突っぱねきった。
おそらく特捜部は、大久保はともかく、いかにも人のよさそうな石川はおとせる、と自信を持っていたのであろう。だが、石川にしてみれば、もしも小沢幹事長の関与を認めれば、自分の将来は真っ暗になる。それは自殺行為に等しい。逆に突っぱねきれば、当然ながら小沢親分が面倒をみてくれる。とすれば迷う必要はないわけだ。
特捜部は、そんなことは百も承知していたはずである。にもかかわらず、なぜ完敗したのか。各紙の世論調査で、小沢一郎は説明責任を果たしていないという意見が九〇パーセントを超えていたが、いまや特捜部に説明責任がある。検察は、一体何をしようと図り、なぜ無残に失敗したのか。その説明を全く行っていない。同時に、まるで検察と協力しあうように、小沢一郎を“悪者”にしたてあげたマスメディアの説明責任も問われるであろう。
ところで、小沢幹事長の不起訴と同じ日に、横綱朝青龍が引退を表明した。相撲協会の理事会と横綱審議委員会が引退を強く求めたからである。二九歳で幕内優勝二十五回。朝青龍は、大相撲の大スター、というよりも唯一のスター力士である。
もっとも朝青龍は、これまでに相撲協会から五度の注意処分を受けており、新聞やテレビは、朝青龍は“品格がなさ過ぎる”、“本場所中に泥酔して暴行し、相手を傷つけるなどとんでもない”として“引退”を当然のように報じているが、私は責任は相撲協会、とくに高砂親方にあると捉えている。なぜスター力士を甘やかすだけで、責任をもった教育が出来なかったのか。朝青龍の追放は全くけじめをつけることになっていない。