フォーラム神保町第18回「メディア・マインドコントロール」

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開催日時:6月27日 (水) 18:30〜

勉強会レポート

 人を騙す(洗脳する)なら音声動画メディアの活用が有効である。それは、「情動は理性に先立って意思を決定する。音声動画メディアは悟性に先立って人を調律する」からだ。100万人単位の人間に同時に情動を激昂させうるものが音声動画マスメディアで、90年代以降の例としては3カ月で120万人が「なた」で虐殺されたルワンダ内戦がある。

 新聞や雑誌などの活字メディアは受け手が能動的に読み解かなければメッセージが伝わらない「能動的メディア」。テレビやラジオなどは受け手の悟性が「気づく」前に人間の情動や感情を刺激して「好き」「嫌い」などの反応を起こさせるのが特徴だ。ファシズムと親和性が高く、映画ではナチスの『民族の祭典』、スターリニズムの『戦艦ポチョムキン』などが一例。金正日が映画好きなことも当然だろう。オウム真理教も、カセットテープやVHSビデオなどのチープな受動的メディアを下宿で繰り返し使わせ刷り込んでいた。

 ブロードバンドの普及によって、文字テキスト中心だったインターネットが音声動画メディアに本質的な変換を遂げた。今後大きな影響を及ぼす恐れがある。

 映像で恐怖情動に駆られると、悟性を司る脳の部分(前頭前野連合野)に酸素を含んだ血液が循環しなくなる虚血状態になる。これは、実験によって確かめられている。その直後に写る映像に対して、悟性の作動を抑制して反射的動物的な行動反応になる。

 たとえば、イラク開戦を米国民の8割が賛成したのも音声動画メディアの影響だ。またベトナム戦争当時は兵士の発砲率が低かったことから、米軍はいま人の形をしたものを見たら反射的に引き金を引く、反射調教の訓練を繰り返し兵士にやらせている。イラクなどで、兵士の発砲率と生還率が上昇し、子どもなど非戦闘員に対する誤射率が激増しているのはこのためだ。

 さて、イスラムの処刑法には、民衆が石を投げて殺す石打ち刑がある。民衆に手を下させる石打ち刑は、一方で民衆自身を加害者にするとともに、そのことで自分が石打ち刑にさせられたらという恐怖感でもっとも強く民衆自身を縛る効果がある。現状の裁判員制度は、主権者国民に主権者国民の生命を奪わせる判断を義務として責任を負わせる強いるものとして石打ち刑と同じ役割をもつ。国法の元に他者の命を奪う行動を国民が義務としてとらされるという意味で、徴兵制と同型であり、その導入への準備と指摘する声もある。

 しかも裁判員制度では、パワーポイントの導入が予定されている。裁判員に選ばれた人たちの負担軽減のためと説明されているが、受動メディアでは気づきに先立って意志を決定するし、司法の素人は重罰を選びやすい。自覚する前に、証拠提示の段階で被告人に「犯人」「悪人」というイメージをワイドショーよろしく植え付けられる。裁判員制度とは、国民の国民による国民をターゲットとした予防法制という名の恐怖政治になる。

 音声動画メディアによるマインドコントロールは(1)しない(2)されない(3)させない——の防止原則を確立することが必要だ。第3の「させない」には、共同体の「共通善」の感覚が重要だが、近代以後の日本の教育制度には決定的に脱落している。

 佐藤優さんが冒頭に伊東さんを次のように紹介しました。「瞬時に本質をつかむ天才で、人間的な温かさもある方です」。その言葉通り、201枚のスライドショーを駆使した説明はわかりやすく、また友人が被告となっているオウム真理教裁判や、ルワンダ虐殺、米軍取材など取り上げられた実例が具体的で説得力にあふれる内容でした。(敬称略)

(フォーラム神保町世話人 伊田浩之)