読み物池田弁護士からの手紙

▼バックナンバー 一覧 2010 年 6 月 25 日 魚の目

初めてお目にかかります。弁護士の池田眞規(まさのり)です。
 
「ジャーナリストの目」第21回「日本の伏魔殿最高裁判所人事のカラクリ」を拝読し、早速ご連絡したいと思いながら、遅れてしまって申し訳ありません。実は、同様な事実を知って、日本の司法の堕落と言いましょうか、後進性と言いましょうか、最高裁の人事権を利用した実に巧妙な全国の裁判官の思想的独裁支配体制に危惧している者として、賛同する趣旨でご連絡を致します。私が担当した憲法9条関係の自衛隊違憲訴訟である百里基地訴訟、長沼ナイキ基地訴訟、90億ドル戦費支出違憲訴訟などの明らかな憲法違反事件において,長沼ナイキ訴訟の第一審札幌地裁での福島判決を除いて、すべて敗訴し続けた苦い経験を持っています。この信じられない露骨な許し難い下級審裁判所裁判官の支配体制、つまり憲法9条の適用を拒否する政治的な判決を人事権を利用して強要する支配体制の根本原因を確認出たのは、1980年代にギリシャを訪問し、裁判官を紹介してもらった場所が裁判所内の「裁判官組合」の事務所だったのです。
 
日本の司法の実情からは想像も出来ない裁判官組合とは、私にとって衝撃的でした。私が「裁判官組合の目的は何か」と尋ねたところ、その返事は「司法の独立を守るためだ。司法の独立は裁判官個人では守れないのだ」と平然と答えられたのには驚きました。彼らに日本の実情を紹介すると「信じられない」という返事。「日本の裁判官は基本的人権はないのか」と不思議そうに尋ねられる始末。「自分の基本的人権も守れなくて、どうして国民の人権を守れるのか?」というのです。その後、私は、法律家の国際会議でフランス、ドイツ、オランダ、北欧三国の裁判官の実情を知る機会があり、そこで認識できたことは、これらのヨーロッパの主な国の裁判官は「裁判官組合」は常識なのでした。フランスに至っては、左翼系、右翼系、中立系の3つの裁判官組合があるというのです。その左翼系裁判官組合の役員に最高裁の裁判官がいるのです。ギリシャでは、裁判官の9割は裁判官組合に属しており、「司法の独がを侵害された場合にはどうするか」という私の問いに「ストライキ以外の闘争手段がいろいろある。団体交渉や最近ではデモ行進などがある」というのです。だから、最高裁が人事権を利用して、3年に一度の全国の裁判官の「人事異動を指示」する制度が固定化して、最高裁の意向に沿わない裁判官、典型的なケースは憲法9条違反の政府の行為に対し違憲判決を出すような裁判官(典型的な例は福島裁判官、伊達裁判官、安倍裁判官)は、容赦なく行政事件や刑事事件担当から外して「地方の家庭裁判所」(いわゆる「ドサ回り」)に配転するという懲罰人事を強行する。他の裁判官への「見せしめ」なのです。裁判官にとっての最大の関心事は「自分の人事そのもの」です。話せば切りがありません。私は折にふれては在野の法曹に呼び掛けていますが、余り効果はありません。現在の最高裁の強力な支配体制を崩すには国民的な支持がない限り、困難という現実があります。日本の司法の現状は後進国並みのレベルの低さであることに認識をどう克服するか、という問題であります。魚住さんの問題提起は非常に重要です。日本の司法の堕落は人権救済の貧困に直結しています。
 
 魚住さんの「ジャーナリストの目」でようやく、マスコミに登場してこれたことに感謝します。
私の自己紹介は、インターネットで検索してください。年齢81歳、憲法9条裁判を主に担当、反核法律家協会、国際法律家協会、民主法律家協会、原爆症認定集団訴訟弁護団など。実務はそろそろ引退です。