宇宙論第三回
宇宙に行くための現在実用化している唯一の手段である、ロケット。それは産まれた当初からミサイルと同じものであり、同じ時期に産まれた核兵器との相乗効果で初期から軍事目的の利用と切っても切り離せない関係にあったのです。そのため、どの国の宇宙開発も国家事業としてずっと行われてきました。国家安全保障上の問題から、それは開発されてから、50年間そのままであった。これは人類の乗り物の歴史上類を見ない現象です。
ロケット以前の人類が開発した一番新しい乗り物である飛行機は、1903年にライト兄弟が初飛行を行ってからわずか10年ちょっとで、世界初の民間航空会社が設立されています。もちろん、戦闘機や爆撃機など軍事目的でも使われたが、民間の貨物・旅客航空にも広く利用されるようになったのです。しかし、ロケットは長い間官業のままであったのです。ハイテク官業の特徴といえば、非効率・浪費・先端技術に惜しみなく投資をするということであります。国家予算を使う以上、国民を納得させるようなものを作らねばならないのです。だから、ハイテク技術を惜しみなく投入した最先端のロケットエンジンを作らねばならないのです。しかも技術のことは多くの国民は分からないので、分かりやすいものを作らねばならないのです。だから、その結晶のスペースシャトルのようなものが出来てしまうのです。
官業が非効率であることは、わざわざ説明することはないでしょう。予算さえ獲得してしまえば、後は多少高い部品を使ってもかまわないのです。というか、官業に群がる御用業者は出来るだけ高い価格で受注しようとして、法律の裏を掻い潜って色々な便宜を官僚に対して図るわけです。
例えばこのような話があります。宇宙で地上とは比べ物にならないくらいの放射線を浴びる衛星には、特注のマイクプロセッサを搭載しないといけないという神話です。しかし、実際には秋葉原で売っているような市販の民生用チップに放射線を浴びさせてテストしたところ、インテル社のCPUはエラーをほとんど起こさなかったといいます。3台並列で並べて相互のヘルスチェックを行えば運用期間中全く問題を起こさない衛星の製造が可能になったそうだ。電池などでも同じような話があります。しかし特注のチップを作ると予算は100倍以上になるのだそうだ。これも官業の非効率性をあらわしている一端の事実とも言えるでしょう。つまり、ロケットは安全保障上の問題から長いこと官業に縛られてきたがゆえに非効率な浪費が繰り返されてきており、製造コストも高止まりしているがゆえに、未だに人類が月に二度といけないような状態になっているのです。
では、どうすれば解決するのでしょうか? 答えは簡単です。民間に宇宙開発を開放することです。官需ではなく民需で自立できるような宇宙産業を育てればよいのです。実はロケットは単なる輸送手段であり、先端技術の開発の為に存在するのではないのです。自動車に例えるならば、これまで国家主導でF1マシンの開発競争をしていたのですが、実は自動車は単なる輸送手段と考えればF1マシンは必要なく、極論すればホンダのスーパーカブのような格安のバイクでもかまわないのです。
最先端技術も特に必要なく、フォン・ブラウン博士の時代のロケットでも構わないのです。そんなローテクロケットに莫大な開発予算が掛かるでしょうか? 答えはNO! です。彼らの時代には莫大な予算がかけられていたかもしれませんが、それから60年。素材技術も機械加工技術も、電子部品技術も、制御機械技術も、検査技術も、通信技術も。ロケットに必要な技術は全て高度に進化しています。民生用の安い部品でも十分に使い物になるのです。例えばジャイロ。ロケットの誘導に必要不可欠な技術ですが、60年前本当にコマが高速に回転しているものを機械で計測していたのですが、今はレーザージャイロのようなハイテクで驚くほど小さくて軽い部品が普通に自動車の中などに内臓されています。ジャイロ以外にもGPSで自分の位置を正確に観測することが出来ます。素材技術が発達しているために軽くて丈夫な燃料・酸化剤タンクを作ることもできますし、搭載する人工衛星などの部品も安く軽く作ることが可能になっています。一番進化したのは電子部品技術でしょうか。今なら携帯電話よりも小さい誘導装置でロケットを地球を回る軌道に乗せることも可能です。
つまり、民間会社であれば宇宙にどれだけローコストでロケットを打ち上げられるかという一点に集中してコストダウンを図ります。ですから、高い最先端技術を採用せず、汎用の安い技術を使ってロケットを開発することでしょう。こうしてみると民間企業が宇宙開発に参入することのメリットが非常に大きいことが分かるでしょう。それと同時に今までどれだけの国民の血税が無駄に宇宙開発に浪費されていたのかも分かったと思います。
冷戦構造の終結に伴い、ロケット開発が民間に事実上開放されたような状態になりました。財政上の危機に陥っていたロシアがICBMを民生用として各国の衛星打ち上げビジネスに参入したり、スペースアドベンチャーズ社と共同でソユーズで民間人を打ち上げたり(これは日本のテレビ局TBSの宇宙特派員プロジェクトに源流があると思われる)となし崩し的に民間開放を実施したのです。そうやって、少しずつ世界中で、特にアメリカにおいて民間で宇宙開発をする会社が少しずつ現れてきています。