音楽への今日的アプローチ2009動力学的音楽基礎論特講

▼バックナンバー 一覧 2009 年 4 月 16 日 伊東 乾

 筆者は必ずしもギリシア語に明るくないが、ホメーロスの詩篇がもつリズムを示すために、最低限の原典を引用しておきたい。以下「イーリアス」の冒頭から7行を原文、そのローマ字表記、そして小田訳の順に行ごとに整理してみよう。
 
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 怒りを歌ってくれ、女神よ、ペーレウスの子アキレウスの
 
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 破滅の怒りを。それはアカイア人に数知れぬ苦しみをもたらし
 
lang03
 雄雄しい勇者の魂をあまた冥王のもとに送り、
 
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 残されたむくろはただ犬ども、あるいは
 
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 ありとあらゆる鳥どもの餌食になった
 
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 (小田訳の7行目)はじめにまず争い、仲たがいして以来のことだ。
 
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 (小田訳の6行目)このすべてが戦士の長たるアトレウスの子と神のごときアキレウスが
 
 第一行目は
 
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 と詠まれる。ここで、古代ギリシア語は長音と短音の区分、並びに音の上下動のアクセントとが厳密に決定されていることに注意しよう。長音と単音の区別とは「皇室」と「個室」の違いのように、あるいはまた上下動のアクセントとは「橋」と「箸」のように理解されて大きく外れない。ただし上下動アクセントのほうは、むしろ現代中国語の「四声」の「第一声=高く保つ< ̄> 第二声=低く保つ<_> 第四声=高→低へ<\>」という動きに似ているように思う。
 これにくらべると母音の<長短>によるリズムはより簡潔だ。ホメーロスのすべての詩篇は、6つ音節で一行となる「へクサメトロン=六韻脚Hexametron」のリズムで書かれている。これは「五言絶句」とか「七言律詩」などの漢文、さらには俳句や和歌の<五・七・五>のリズムなどと似ているかもしれない。
 
 敢えてこれを今日の西欧記譜法に準じて記すなら以下のようになる。

敢えてこれを今日の西欧記譜法に準じて記すなら以下のようになる。

 
 これを敢えてカタカナで表記するなら

「タータタ タータタ タータタ タータタ タータタ ターター」

 
 
 という6音節で「1行」になる。この「タータタ」随時「ターター」と置き換わっても良い。これに加えてさらに、音程の上下動アクセントまで含めて、「イーリアス」の第一行を五線の記譜法で示してみると、一例としてこのように書くことが出来る。

楽譜

 

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