弁護士業の現場から第二回
小沢一郎・民主党幹事長にからむ政治資金規正法違反事件で同党の石川知裕衆院議員ら3人が逮捕されました。以下に掲げる文書は石川議員の弁護人になった安田好弘弁護士らが法務・検察や裁判所にあてて出したもので、初めて公開されるものです。捜査進行中の事件で弁護側が作成した書類が公表されるケースはあまり ありません。小沢事件の本質を考えるうえで参考になると思いますので、もしご興味があれば、お読みください。(編集者注)
申入書
2010年1月16日
法務大臣殿 千葉景子殿
検事総長殿
東京高等検察庁検事長殿
東京地方検察庁検事正殿
被 疑 者 石 川 知 裕
弁 護 人 安 田 好 弘
同 岩 井 信
政治資金規正法違反被疑事件における上記被疑者に対する取調について、公正な取調を確保し、自白強要を防止するため、直ちに以下の事項を実施するよう申し入れます。これらが履践されないとき、被疑者の当該調書に「任意にされたものでない重大な疑い」が生じることを、予め御承知おき下さい。
記
第1 申し入れ事項
公正な取調を確保し、自白強要を防止するため、
1 すべての取調を可視化(一部ではなく、取調全過程のテープ録音ないしビデオ録画)すること。
2 1日の取調時間は合計4時間以内にとどめ、その間に、少なくとも30分以上の休憩(取調官と隔絶した場所における休憩)を確保すること。
3 1週間に少なくとも2日の割合で、取調のない日をおくこと。
4 黙秘権を十分に尊重し、被疑者が黙秘権を行使した場合には、その手段の如何を問わず、黙秘を止めさせるための一切の働きかけを行わないこと。
5 弁護人の接見の回数と時間を確保し、十分な弁護を受ける機会を保障すること。
6 調書を作成するに当たっては、本人が弁護人に対し、事前に調書の内容について相談し、その助言を得る機会を確保すること。
第2 取調の全面可視化について
1 取調の全面可視化要求は、憲法13条の自己情報支配権にもとづく自らの供述を正確に保持する権利として、憲法38条1項の自己負罪拒否特権を手続的に担保するための必要最少限の保護措置として、憲法31条、法1条の適正手続と実体的真実主義を全うする趣旨において、憲法38条2項、法319条1項、32 2条1項から導かれるというべき「任意性」を あらかじめ担保・設定することが出来る被疑者の権利の最少限度の担保措置として、憲法34条・憲法37条3項の弁護人依頼権から当然導かれる権利として、各条文上の根拠にもとづき要求するものである。
2 足利事件をはじめとして、取調の可視化は、捜査機関の自白強要やえん罪を防止し、刑事司法の適正化を確保する上で、不可欠であることが、広く社会一般で確認され、要請されている。
3 しかも、すでに、法務省においても取調の可視化導入の検討に入っている。
4 本件における任意の事情聴取においてさえ、検察官は被疑者に対して、「容疑を認めないと帰さない」等の脅迫的な取調による自白強要を行っている。
5 したがって、上記事項を申し入れるものである。
以上