フォーラム神保町第15回 「加藤邸放火事件・堀米判決とメディア」
勉強会レポート
今回も目からウロコ!だった「フォーラム神保町」。
2006年8月15日に加藤紘一邸放火事件に私が抱いていたイメージは、「年老いたうだつの上がらない右翼が、ギャンブル好きで借金はある。病気もあるしでヤケになっていたところに、小泉首相の靖国参拝を批判した加藤議員の月刊誌の対談を、たまたま読んで頭にきて、最後にぱっと派手なことをして目立ってやろうと短絡的に火をつけて全焼させたとんでもない奴。言論に暴力で対抗するなんて。加藤さん、お気の毒に。お母さんが無事でまだよかった」というものだった。これはまさにメディアで報道されたイメージそのもので、考えてみれば堀米正広被告がどんな人かは会ったことがないから知らないし、法廷に傍聴に行ったわけではないから裁判の現場で何が起きていたのかも知らない。メディアの片隅で仕事をしているとはいえ、一般ピープルとまったく同じ情報と認識しか持ち合わせていなかった。
これまたよく考えてみれば、ヤケになった右翼がそんなことにいちいち義憤を感じてテロを決行するのであれば、毎日、政治家や企業家、気に入らない金持ちが焼き討ちされているだろうし、割腹自殺まで計るのだから右翼の人たちはいくら命があっても足りない。こんな簡単な「本質」に気がつかない。
しかし、山形地裁の判決はまさにこのイメージ(堀米被告の弁護人である南出喜久治弁護士の指摘する、事件を矮小化させようとする警察・検察の意図)に沿ったそのものだった。
で、何が目からウロコだったかというと、紙幅の関係もありご紹介することはできません、来られなかった方は残念でした(笑)。というわけにはいかないので簡単に記すと、
まず、南出弁護士の発言。
・この事件は単なる「放火」ではなく「焼き討ち」である
・裁判は(被告を)男前にするかしないか、のゲーム
・今回の判決「懲役8年」は勝訴に値する内容
・男前にした(主義主張はある程度認められた)にも関わらず、
(認められたら)通常1.5倍になる量刑が4割引きになった。完勝
・「加藤議員は呉剣琴なる中国人に多額の資金を提供してもらう不適切な関係にあり、中国のスパイである」という(被告の)主張も法廷で展開した(が、どこにもこの内容は報道されなかった)
佐藤優氏の指摘。
・判決要旨を読むと、弁護人が提起した「祖国防衛権」を認める画期的な判決になっている
中尾征秀郎氏(正氣塾塾長代行)の主張。
・右翼は団体に属していても、みんな一人一人独立した一人一党的存在
・団体の中の地位の高低は関係ない。行動する時は上の人にも下の人にも相談などしない。自分一人で決める
・お母さんを巻き添えにしなかったのは当たり前。右翼は本人以外に危害は加えない
などなど。他にも貴重な議論や指摘があったが、紙幅(筆者の能力?)の関係もあり以上ここまで。
最後に付け加えさせていただくと、本日の主宰をつとめられた宮崎学氏の『右翼の言い分』(小社刊)の担当編集として訪ねた15団体の印象は、これまた目からウロコ。今どき企業などから大口の献金をもらっているところなど、皆無。むしろ質素な事務所と暮らしぶり。普段は本業の仕事をしながら、そこで得た収入を活動にまわしている人たちがほとんど。
最近、あちこちで立て籠もりや銃撃事件が起きているが、報道の印象としては右翼とヤクザの区別もついていない。ちょっと前まで私もそうだった。
だが、国家の力が足りないときはその補完装置として利用し、国家が警察をはじめとする暴力装置を完備した途端、切り捨てられた右翼。それでも、地道に活動している多くの右翼の人たち。そこからは、単にヤケになって最後に派手なことをして目立ってやろう、という「短絡」は想像しにくい。
なのに、メディアが伝える裁判も事件も「短絡」したものが多いのはなぜなのか。
宮崎氏の言う「デオドラントな社会ではなく、ヤクザも右翼もいる健全な社会」という言葉を何度も思い浮かべなが家路、ではなく校了の待つ会社に向かったのでした。
(アスコム取締役第1編集部編集長 高橋克佳)