松林要樹さんインタビュードキュメンタリー映画『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』監督

▼バックナンバー 一覧 2012 年 5 月 11 日 松林 要樹

方言を方言のままに

 

江井地区への思いが深まることで、松林さんのカメラに、何気ない会話に出てくる、「塩田」、「葉たばこ」、「農耕馬」、「横河電機」……かつてこの地区の人々の暮らしを支えていた物事を示す言葉が記録されてゆく。そして方言で語られる話の中でも、はっきりと聞き取れる「陸軍の飛行場」、「堤(堤康次郎/福島第一原発の敷地に関係が深かったとされる)」、「原発」、「アメリカ軍」……。

「僕自身、撮影していて7割くらいしか地元の人の言葉が理解できなかったのではないかと思います」

 福島で上映会を行った時に、松林さんは、観客の一人から、なぜ方言を標準語に直した字幕を添えないのかと、強い調子で指摘された。

「その人は、東京からやってきた人でした。僕は、『福島の原発で発電された電気を使ってきた人間が、こういうテーマの映画に字幕をつけるのはすごく失礼なことだと思う』と言ったんですね。標準語の字幕をつけろというのは、東京にいる自分たちのほうが福島の人よりも優位だという意識ですよね。僕もなぜ、この土地の人たちの言葉が自分にはわからないのかを自問しました。それはこの土地に、この土地が抱えている問題に、関心を持っていなかったからだと、気づいたんですね。僕は九州の片田舎の出身で、もし、僕の出身地で原発事故のような事態が起きて、東京から来たフィルムメイカー(映画製作者)が、僕の地元の言葉を全部、標準語訳してしまったらつまらないだろうな、そんなことされたら嫌だなと思うのです。映画を観ていてわからないところは、想像力で補ってもらえたらなと願っています」

 

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