弁護士業の現場から第二回

▼バックナンバー 一覧 2010 年 1 月 27 日 安田 好弘

(2)準抗告申立書

2010年1月16日
東京地方裁判所刑事部 御中

被 疑 者   石川知裕
弁 護 人   安田好弘
弁 護 人   岩 井 信

 上記の者に対する政治資金規正法違反被疑事件について、東京地方裁判所裁判官が本日なした勾留の裁判に対し、下記の通り、準抗告を申し立てる。
 

第1 申立の趣旨

 1 原裁判を取り消す。
 2 検察官の勾留請求を却下する。
との決定を求める。

第2 申立の理由

 6 被疑者は国会議員である―議員の職務の執行の重要性
   被疑者は現職の国会議員である。
本年1月18日(月)から通常国会が開始され、被疑者は国民によって選ばれた現職の国会議員として、国会の議場にいるべきものである。だからこそ、日本国憲法は議員の身体の自由を保障し、議員の職務の執行が妨げられないようにするため、国会議員の不逮捕特権を定めている。
したがって、不逮捕特権を有する国会議員を逮捕・勾留するには、議員の職務の執行を妨げてでも、身体を拘束しなければならないほどの強度の必要性がなければならない。
検察官は、不逮捕特権を避けるために国会の会期直前の1月15日(金)に被疑者を逮捕したが、これは議員の職務の執行を妨げても逮捕しなければならない事案であるかの議論を意図的に避けようとするものであって、不当というほかない。
しかし、本件被疑事実の罪質からすれば、およそ、そのような強度の必要性はない。

 7 本件被疑事実の罪質
本件被疑事実は、殺人や窃盗等のような自然犯ではなく、政治資金規正法違反の「形式犯」である。
しかも、政治資金規正法は報告書の提出責任者を「会計責任者」としているところ、被疑者は「会計責任者」ではなく、身分犯ではない。
したがって、被疑者は、勾留されずに、現職の国会議員として国民に向かい合い政治的責任を全うすべきであって、本件被疑事実の形式犯的要素に鑑みれば、議員の職務の執行を妨げてまでして逮捕・勾留の必要性がないことは明らかである。

 8 別件逮捕の疑い(→慎重に検討)
   被疑者には、後記の通り逃亡の危険も証拠隠滅の危険もないのであって、本件勾留は、これらの行為の防止という点では意味のないことである。
   本件被疑者に対する身体拘束の真の狙いは、被疑者を長時間にわたって孤立させ、精神的・肉体的に苦痛を与えることによって、被疑者及び関係政治家に対して政治的ダメージを与え、政治資金規正法違反の被議事実を超えて、別件についての供述を得ようとする別件逮捕である。
   未決拘禁は被疑者から自白を獲得するための制度ではないし、供述調書に署名捺印させるための制度でもない。このような未決拘禁制度の運用は、黙秘権を保障した日本国憲法38条1項、自由権規約14条3項(g)に違反するものというほかない。

 9 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がないこと
 (1)罪障隠滅の対象がないこと
すでに関係多方面で実施された捜索・押収により、本件被疑事実に関する客観証拠はすべて確保された上で逮捕されている。
したがって、そもそも罪障隠滅の対象がない。
 (2)罪障隠滅の客観的可能性がないこと
    この点、大阪地裁昭和38年4月27日決定は、勾留の裁判を取り消した決定の中で、勾留の要件としての「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の意義について次のように判示している(判例時報335号50頁)。
     およそ被疑者として捜査官憲の追及を受けている者は、聖人君子でもない限り、何らかの方法で罪証の隠滅をはかろうとするのが人間心理の自然であろう。にも拘わらず同条1項2号に勾留の要件として、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と規定されているのをみると、それは罪証隠滅の単なる抽 象的な可能性では足りず、罪証を隠滅することが、何らかの具体的な事実によって蓋然的に推測されうる場合でなければならないことが明らかである。
    これを本件についてみると、関係証拠が全て証拠化され、捜査を尽くしている以上、罪証隠滅の客観的可能性が認められないことは言うまでもない。 ましてや、本件において、被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由として、具体的な事実に裏付けられた相当程度高度の蓋然性は認められないのである。
 (3)罪証隠滅の主観的可能性がないこと
    また、被疑者には、罪証隠滅の主観的意思も全くない。被疑者は、現職の国会議員として、検察官の事情聴取に応じ、すでに調書も複数作成しており、罪証隠滅の主観的可能性もない。

 10 逃亡のおそれがないこと
   本件逮捕は被疑者が検察官の呼び出しに応じて、その結果、逮捕されたものである。
   被疑者は現職の国会議員であり、メディアをはじめ衆人環視のもとにあることは裁判所においても公知の事実であって、逃亡のおそれはない。

 11 結語
   以上のとおりであるから、原裁判は取り消され、被疑者は、勾留されずに、現職の国会議員として国民に向かい合い政治的責任を全うすべきであって、本件被疑事実の形式犯的要素に鑑みれば、議員の職務の執行を妨げてまでして逮捕・勾留の必要性がなく、検察官の勾留請求は却下されるべきである。
以上

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