時系列で見る「ロシアの対ウクライナ戦争方針の転換」ロシアの新たな国家戦略が示された、9月30日のプーチン演説。

▼バックナンバー 一覧 2022 年 11 月 23 日 佐藤 優

2022年10月2日作成「9月30日のプーチン大統領演説」

9月7日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ハリコフ州のロシア軍占領地域に対し、ウクライナ軍が攻勢をかけ、その一部を奪還したと述べた。ロシア軍は後退を余儀なくされ、この後退を契機に、ロシアのウクライナ戦争に対する方針が、この1カ月で大きく変化した。ところが日本のメディアが扱う、情勢分析に役立つロシア側の情報は非常に少ない。
この間の推移を筆者が作成した資料によって時系列で示し、追跡しやすくする。

ロシア側の内在的論理を探るのに不可欠な公開情報に、筆者が旧知のロシア人政治学者と意見交換した内容もあわせて紹介する。

【重要ポイント】

 ロシアの使命は、ロシアの国家とロシア人のアイデンティティーを維持することで、そのためには西側との戦いが不可欠との認識を、プーチン大統領は示している。

【事実関係】

 9月30日、ロシアのプーチン大統領は、「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」、ザポロジエ州、ヘルソン州の代表者とこれら地域がロシアに加盟に関する条約に調印した。調印式の前にプーチン氏は演説を行った。

【コメント】

1.9月30日、ロシアのプーチン大統領は、「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」、ザポロジエ州、ヘルソン州の代表者とこれら地域がロシアに加盟に関する条約に調印した。調印式の前にプーチン氏は演説を行った。この演説はロシアの新たな国家戦略を明示したものとして重要な意義を持つ。

2.(1)ウクライナ戦争に関しては、プーチン氏が停戦条件を明示したことが重要だ。

私たちはキエフ政権に対し、2014年に始めた戦争、すべての敵対行為を直ちに停止し、交渉のテーブルに戻ることを求めます。私たちにはその準備ができています。このことはこれまでに何度も言われてきたことです。ただし、ドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソンの人々の選択は議論の対象になりません。それはすでに決定されており、ロシアがそれを裏切ることはありません。(拍手)。そして今日のキエフの当局は、この自由な民意の表現に敬意をもって接し、それ以外のことはしてはならないのです。これだけが平和への道となり得るのです。
 私たちは、自由に使えるすべての力と手段でこの土地を守り、国民の安全な生活を確保するためにあらゆる手段を尽くします。これこそ、わが民族の偉大な解放の使命です。

 このような条件をウクライナのゼレンスキー大統領が呑まないことをプーチン氏は十分認識している。ロシアは一体、何を狙っているのだろうか。プーチン氏の交渉術には特徴がある。ある時点でロシア側が出した条件に相手国が同意すれば、それで妥結する。相手がロシア側の条件を呑まない場合は、ハードルをあげる。ウクライナとの関係で具体的に見てみよう。2015年の「第2ミンスク合意」では、ロシアの領土要求はクリミアのみだった。ドネツク州とルハンスク州の親ロシア派武装勢力が実効支配する地域については、特別の統治体制(自治)を要求するにとどまり、両州はウクライナに属することを認めていた。ゼレンスキー大統領は「第2ミンスク合意」の履行を頑なに拒否した。そして今年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。このときのロシアの領土要求は「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」は主権国家なので、そこからウクライナは撤退せよということだった。そして10月30日の演説では、「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」に加えザポロジエ州、ヘルソン州もロシアに併合することにした。

(2)この4州をロシア領と認めることを前提にした交渉をウクライナが拒否するとどのような事態になるのであろうか。プーチン氏の演説で、ノヴォロシアという帝政ロシア時代の地域名に言及されていることが重要だ。

 私たちの祖先、すなわち古代ロシアの祖先から何世紀にもわたってロシアを建設し守ってきた人々の世代が勝利を収めてきたのです。ここノヴォロシアでは、ルミャンツェフ、スヴォーロフ、ウシャコフが戦い、エカテリーナ2世とポチョムキンが新しい都市を築きました。私たちの 祖父や曾祖父は、大祖国戦争中、ここで死闘を繰り広げたのです。
 本日、私は、特別軍事作戦に参加している兵士と将校、ドンバスとノヴォロシアの兵士、部分的動員令の後に愛国的義務を果たすために軍隊に参加し、心の叫びから自ら軍の登録と入隊の事務所に来た人々に語りかけたいと思います。

 ロシア軍はニコラエフ州、オデッサ州を制圧し、モルドバ共和国東部でロシア軍の平和維持部隊が駐留している沿ドニエステル地方とつなげウクライナを内陸国家にするという戦略を立てていると思われる。オデッサ市を迂回して、ニコラエフからドニエプロペトロフスク(そこにはウクライナ最大の軍事工場「ユージマシュ」がある)から沿ドニエステルにつなげる可能性もある。その場合、ウクライナ本土と切り離されたオデッサ市が無血でロシアに併合される可能性が生まれる。いずれにせよこの戦争は長引く。

3.(1)ウクライナのネオナチズム批判が後退し、米国による新植民地主義批判が前面に打ち出されるようになった。これはプーチン氏の言説の大きな変化だ。中国、インド、東南アジア諸国、中東諸国、アフリカ諸国など植民地支配を経験した国家、また米資本により収奪されている中南米諸国をロシア側に引き寄せる物語(ナラティブ)を構築しようとしているのであろう。具体的な言説について検討したい。

(2)米国のドルと技術力が新植民地主義の主要な道具になっているとの認識を示す。

 欧米は、ドルの力と技術的独裁を利用して世界に寄生し、本質的に世界から収奪し、人類から真の貢ぎ物を集め、不当な繁栄の主な源泉である覇権的不労所得を抽出することができるような新植民地体制を維持するためには何でもするつもりです。この不労所得を維持することが、西側諸国の重要な、純粋な、そして絶対的な利己的な動機なのです。だから、完全な脱主権が彼らの利益になるのです。それゆえ、独立国家に対する攻撃、伝統的な価値観や文化に対する攻撃、自分たちが管理できない国際的な統合過程、新しい世界通貨や技術開発の中心を弱体化させようとする試みなどが行われているのです。西側諸国にとっては、すべての国が米国のために主権を放棄することが決定的に重要なのです。

 ロシアをドル経済圏から切り離し、特許料やサブスクリプションで米企業に資金が流出する仕組みを阻止するために西側と切り離された技術ネットワークの構築することがロシアにとって主権を維持するために必要だと、プーチン氏は認識している。

(3)米国との同盟関係は、事実上の従属関係に過ぎないとの認識を示す。

 ある国の支配層は自発的にそうすることに同意し、自発的に臣下となることに同意し、他の国は賄賂や脅迫を受けています。そして、もし失敗すれば、国全体を破壊し、人道的災害、大惨事、廃墟、何百万もの滅茶苦茶にされた人間の運命、テロリストの飛び地、社会災害地帯、保護領、植民地、半植民地を残すことになります。彼らは自分たちが利益を得るためなら、そういうことを気にしないのです。

(4)西側のエリートが自らの利益のために恣意的に国家主権を行使し、国際法を濫用していると非難する。

 欧米のエリートは、国家主権や国際法を否定しているだけではありません。彼らの覇権は、明らかに全体主義的、専制的、アパルトヘイト的な性質を持っています。彼らは大胆にも、世界を彼らの属国、いわゆる文明国と、今日の西洋の人種差別主義者の設計によれば、野蛮人や未開人のリストに加わるべきその他の人々とに分割しているのです。「ならず者国家」「権威主義政権」といった誤ったレッテルはすでに貼られており、国や国家全体に烙印を押しているのであり、これは何も新しいことではありません。西側のエリートは、植民地主義者のままです。彼らは差別をし、人々を第一階級とそれ以外の階級に分けます。

(5)反植民地闘争の拠点としてのソ連の意義を強調し、この点でロシアがソ連の後継国家であることに肯定的意味を付与している。

 そして私たちは、20世紀に反植民地運動を主導し、世界の多くの人々に発展の機会を与え、貧困と不平等を減らし、飢えと病気を克服したのがわが国であったことを誇りに思っています。

(6)米国とNATOのドクトリンが新植民地主義を体現したものであるとの認識を示している。

米国とNATOの軍事ドクトリンは、このような原則に基づいて作られており、完全な支配を求めるものである。西側のエリートは、平和的であるかのように装って、ある種の封じ込めを口にしながら、同時に偽善的な方法で新植民地計画を提示しています。このようなずる賢い言葉は、ある戦略から別の戦略に移行しますが、実際のところ、それはただ一つのこと、すなわち、あらゆる主権的な発展拠点を弱体化させることを意味しています。

 ロシア、中国、イランに対する封じ込めについては、すでに耳にしています。アジア、中南米、アフリカ、中東、そして現在の米国のパートナーや同盟国も、その次だと考えています。自分たちの意にそぐわないことがあると、米国は同盟国に対しても制裁を加えることを、すなわちある銀行、ある企業から別の企業へと制裁が行われることを私たちは知っています。現実にはそれが拡大しているのです。彼らは、最も近い隣人であるCIS諸国を含むすべての人を標的にしています。

 米国の新植民地主義の標的になっているのが、ウクライナのみならず、ベラルーシ、モルドバ、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンなどの旧ソ連邦構成国であるという認識を示している。ロシアとしてはこれら諸国への影響力拡大が安全保障上重要になるということだ。

4.ソ連崩壊の意義について再度確認している。

 1991年、ベロヴェジの森で、一般市民の意思を聞くことなく、当時の(共産)党エリート代表者たちがソ連の崩壊を決定し、人々は一夜にして祖国から切り離されたことに気がついたのです。これは、私たちの国家の結束を生きたまま引き裂き、分裂させ、国家の大惨事と化しました。かつて革命の後、連邦構成共和国の国境が裏取り引きで切り刻まれたように、1991年の国民投票での大多数の直接的な意思にもかかわらず、ソビエト連邦の最後の指導者たちは、わが偉大な国を引き裂き、単純に事実を国民に押しつけたのです。
 あの人たちは自分が何をしているのか、その結果が最終的にどうなるのか、十分に理解さえしていなかったことは大目に見ます。それはもうどうでもいいことです。ソ連はなくなってしまい、過去に戻ることはできません。そして、今日のロシアはソ連を必要としないし、私たちはそれを目指していません。しかし、文化、信仰、伝統、言語によって自分たちをロシアの一部と考え、何世紀にもわたって一つの国家で暮らしてきた祖先を持つ何百万人もの人々の決意ほど強いものはありません。この人たちの、本当の歴史的な故郷に戻ろうという決意ほど強いものはありません。

 プーチン氏は、ソ連の復活は不可能で、ロシアはそれを望んでいないが、歴史的ロシアの回復は必要と考えている。大ロシア(現在のロシア)、ノヴォロシア(ウクライナの東部と南部)、小ロシア(キーウを含むウクライナの中央部)、白ロシア(ベラルーシ)を段階的にロシアに併合することを意図していると思われる。

5.(1)西側の陰謀に対する言及が増えている。ソ連崩壊後、西側は一貫してロシアの弱体化を戦略的に追求してきたとの認識が示されている。

 ソ連が崩壊した後、西側諸国は、世界と、私たちは永遠に西側たちの命令に耐えなければならないと決めたのです。1991年当時、西側諸国は、ロシアはこの激動から立ち直れず、自ら崩壊していくだろうと考えていました。私たちは90年代を覚えています。飢えと寒さと絶望に満ちた、恐ろしい90年代を。しかし、ロシアは持ちこたえ、復活し、強化され、世界における正当な地位を取り戻しました。
 同時に、西側諸国は、私たちを攻撃し、彼らが常に夢見てきたようにロシアを弱体化させ崩壊させ、私たちの国家を断片化し、わが国民を互いに対立させ、貧困と絶滅に追いやるための新しい機会を探し続けてきたのです。世界には、これほど広大な国土、領土、天然資源、そして、誰かの言いなりになって生きることなどできない、決してできない国民がいることに対して、西側諸国はただ安心しなかっただけなのです。

 ロシアが主権国家であることが西側には我慢できず、ロシアを従属させることができないならば解体を考えているという被害妄想的な認識が示されている。

(2)西側はロシアの混乱期の度につけ込んできた、との認識が示されている。

 ロシアへの介入は何度も計画され、17世紀初頭の大混乱(スムータ)の時代と1917年以降の動乱の時期につけ込もうとしましたが、いずれも失敗に終わったことが知られています。結局、西側は国家が崩壊した20世紀末にロシアの富を手に入れることに成功したのです。当時、私たちは友人やパートナーと呼ばれていましたが、実際は植民地として扱われ、さまざまな枠組み何兆ドルもの金が吸い上げられました。私たち全員がすべてのことを覚えており、何も忘れていません。

 ゴルバチョフ政権のペレストロイカ(立て直し)とエリツイン政権の改革が「混乱の90年代」をもたらしたため、ロシアが新植民地にされる危機に瀕したことに注意を喚起している。

(3)西側の民主主義は見せかけで、本質においては抑圧と搾取と暴力であるとの認識を示す。

 西側諸国は何世紀にもわたって、自分たちは他国に自由と民主主義をもたらすと言い続けてきました。正確に言うと真逆のものをもたらしました。民主主義の代わりに抑圧と搾取、自由の代わりに奴隷と暴力です。一極の世界秩序全体は、本質的に反民主主義的で自由がなく、西側は一貫して嘘つきで偽善者です

 ソ連時代のブルジョア民主主義批判を彷彿させる言説だ。

6.(1)西側の謀略に対抗するためには文化闘争が有効であるとの認識を示している。

 もう一度強調しておきます。「西側連合」がロシアに対して行っているハイブリッド戦争の本当の理由は、強欲と自由な権力を維持しようとするためです。彼らは私たちが自由になることを望んでおらず、ロシアを植民地と見なしたがっているのです。彼らが求めているのは、対等な協力ではなく、強奪です。彼らは、私たちを自由な社会ではなく、魂のない奴隷の集団と見なしたがっています。
 彼らは私たちの思想や哲学を自分たちに対する直接的な脅威とみなしており、だからこそ私たちの哲学者を攻撃しているのです。私たちの文化や芸術は彼らにとって脅威であり、だから禁止しようとするのです。私たちの発展と繁栄は、彼らにとっても脅威であり、競争は激化しているのです。彼らはロシアを全く必要としていない、ロシアが我々を必要としているのだ。(拍手)
 世界征服の主張は、過去、わが国民の勇気と不屈の精神によって何度も粉砕されてきたことを思い起こしてほしいです。ロシアはいつまでもロシアである。私たちは、これからも自分たちの価値観と母国を守り続けます。
 このような西側エリートたちが、何世紀にもわたってロシア恐怖症に陥り、怒りを露わにしてきた背景には、まさに植民地支配の際に、ロシアが自らを奪われることなく、ヨーロッパ人たちに相互利益のための貿易を強いたからだということを強調する必要があります。これは、ロシアに強力な中央集権国家を作り、正教、イスラム教、ユダヤ教、仏教の偉大な道徳的価値と、万人に開かれたロシアの文化とロシア語によって強化され、発展していくことによって達成されました。

7.(1)米国の同盟国が置かれた状況についての認識が示されている。

 ドイツ、日本、韓国などを未だに事実上占領し、同時にそれを対等な同盟国だと冷笑的に名付けているのです。これはどういう同盟関なのでしょうか、興味深いです。これらの国の指導者たちが調査され、指導者たちの事務所だけでなく自宅にも盗聴器が仕掛けられていることを全世界の人々が知っています。本当に恥ずかしいことです。このようなことを行う者とともに、奴隷のように黙ってこの乱暴な振る舞に文句を言わずに従う者を恥ずかしく思います。
 自らの手下に対する命令や無礼で侮辱的な叱責を、米国はヨーロッパ大西洋の連帯と呼び、への命令や無礼で侮辱的な叫び、生物兵器の開発や、ウクライナを含む生きた人間への実験を、崇高な医療研究と称しているのです。

(2)米国がヨーロッパからの搾取と収奪を目論んでいるとの認識が示されている。

 アメリカのエリートは、本質において、この人たちの悲劇を利用して、競争相手を弱体化させ、国民国家を破壊しているのです。これはヨーロッパについても当てはまることで、フランス、イタリア、スペインなど、何世紀もの歴史を持つ国々のアイデンティティーに関しても適用されています。
 ワシントンはロシアに対してますます多くの制裁を要求し、ヨーロッパの政治家の多くは従順にこれに同意していいます。米国は、EUにロシアのエネルギーやその他の資源を完全に遮断するよう働きかけることで、実質的に欧州を脱工業化し、欧州市場を乗っ取ろうとしていることを明確に理解しています。米国はすべてを理解しています。欧州のエリートたちは、すべてを理解していますが、他国の利益になることを好んでいるのです。これはもはやこびへつらいではなく、自ら国民に対する直接的な裏切りです。しかし、仕方がない、それがあの人たちの仕事なのです。

 米国とそれに従属するヨーロッパの政治エリートとヨーロッパの大衆と対立させることを意図している。ソ連時代の階級闘争史観の輸出と類比的だ。

(3)天然ガスパイプライン「ノルトストリーム」の爆破が米国によるものであると強く示唆している。

 しかし、アングロサクソンは制裁だけでは飽き足らず、バルト海の底を走る国際ガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆発を計画して妨害工作に乗り出し、実際にヨーロッパのエネルギーインフラの破壊を始めています。信じがたいことですが、これが事実です。誰の利益になるかは一目瞭然です。もちろん利益になるならば、それを行うのです。

(4)第二次世界大戦を振り返ることで日本とドイツを米国から離間させることを目論んでいる。

アメリカは世界で唯一、核兵器を2回使用し、日本の都市、広島と長崎を壊滅させた国である。そうして前例を作ったのです。

 第二次世界大戦中、アメリカはイギリスとともに、ドレスデン、ハンブルク、ケルン、その他多くのドイツの都市を、軍事的必要性もないのに廃墟にしたことを思い出してください。それは、軍事的な必要性もなく、力を誇示するために行われたのです。目的はただ一つ、日本への原爆投下と同じように、ソ連と全世界を威嚇することでした。

8.ロシアが人道的観点から黒海の封鎖を一部解除し、ウクライナの小麦輸出をアフリカや中東を飢餓から救うために送るメカニズムを作ったが、それが悪用されていると非難する。

 ウクライナから小麦を輸出していいます。世界の最貧国の食料安全保障を確保するという口実ですが、どこに向かっているのでしょうか。どこへ行くのでしょうか? すべてはヨーロッパの国々へ、です。そこでは5%しか世界の最貧国に行き渡らないのです。またしても、いつものペテンと完全な欺瞞です。

9.ヨーロッパに対しては、ロシアが資源カードを切ることで、状況を変化させることができるとの認識が示されている。

 しかし、人々を印刷されたドルやユーロで養うことはできません。その紙切れでは人々を養うことはできないし、欧米のソーシャルネットワークのバーチャルな膨張した資本では、彼らの家を暖めることはできないのです。紙では誰も腹を満たすことができないので、食べ物が必要です。またこれらの膨張した資本では誰をも暖めることができません。エネルギー資源が必要です。
 そのため、ヨーロッパの政治家たちは、家庭で食べる量を減らし、入浴の回数を減らし、暖かい服装をするように同胞を説得しなければならないのです。そして、「なぜそうなのですか?」という公正な問いを立て始める人たちに対して、彼らはすぐに敵、過激派、急進派と宣言します。ロシアに責任を転嫁し、お前たちのすべて不幸の原因はロシアだと言うのです。また嘘をついています。
 私が強調したいのは何でしょうか? 西側エリートが、彼らが引き起こした世界の食糧危機やエネルギー危機に対して建設的な解決策を見出そうとしないのは、ウクライナやドンバスでの特別軍事作戦のずっと以前からの西側の政策のせいだということです。彼らは、不公平や不平等の問題を解決するつもりがないのです。彼らが使い慣れた処方箋を用いるようになることを恐れています。

 冬を迎えるヨーロッパは資源カードを切るロシアに対して一定の譲歩を余儀なくされると思う。

10.西側が戦争によって経済的利益を得ているとの見方を示す。

 そしてここで、西側が20世紀初頭の矛盾から第一次世界大戦を経て台頭したことを思い起こす必要があります。第二次世界大戦の結果、アメリカは世界恐慌を克服し、世界最大の経済大国となり、世界の基軸通貨としてドルの力を地球上に印象づけることができたのです。西側諸国は、最終的に崩壊したソ連の遺産と資源を流用することで、1980年代の危機――80年代に危機も先鋭化しました――をほぼ克服しました。これが事実です。
 今、西側は、矛盾のもつれから抜け出すために、他人の富をさらに略奪し、その代償として欠損を塞ぐために、主権的発展の道を選ぶロシアやその他の国家を、是が非でも打ち破らなければならないのです。もしそうならなければ、彼らはシステムを崩壊させようと試み、そこですべてを破壊し、最悪の場合、よく知られている「戦争がすべてを帳消しにする」という公式を使うことになるでしょう。

 この言説はレーニンの帝国主義論への回帰だ。

11.現在、西側で主流になっているイデオロギーは、キリスト教に敵対する悪魔崇拝であると決めつける。

 要するに、何十億もの人々、人類のほとんどの人々が持つ、自由と正義、自分たちの未来を決めるという当然の権利に唾を吐きかけているのです。彼らは今、道徳、宗教、家庭を徹底的に否定する方向に進んでいます。
 自分自身のための非常に簡単な質問に答えてみましょう。ここで、私が言ったことに戻って、会場にいる同僚だけでなく、すべてのロシア国民に向けて、「父親と母親の代わりに『第1号』『第2号』『第3号』の親を持つことを本当に望むのか」と問いかけたいと思います。私たちは、小学校から学校で、子どもたちが劣化や絶滅につながる倒錯にさらされることを望んでいるのでしょうか。男性と女性以外に性別があることを教え、性転換手術を受けさせるのか? これが私たちの国や子どもたちのために望むことなのでしょうか? このようなことは、私たちには受け入れられません。私たちには、自分たちの別の未来があるのです。
 繰り返しますが、西側エリートの独裁は、西側諸国の国民を含むすべての社会に向けられています。全員への挑戦状です。このような人間の完全否定、信仰と伝統的価値の破壊、自由の抑圧は、「宗教を逆手に取った」、つまり完全な悪魔崇拝の特徴を帯びているのです。イエス・キリストは山上の説教の中で、偽預言者を糾弾し、「その実によって、あなたがたは彼らを知る」と言われました。そして、これらの毒の実は、わが国だけでなく、欧米の多くの人々を含むすべての国の人々にとって、すでに明白なことなのです。

 以前よりプーチン氏は同性愛に否定的だったが、この見解をさらに推し進め、伝統的家族観に反する価値観を悪魔崇拝の特徴を帯びていると述べるに至っている。悪魔崇拝を行っている西側に対し、正しいキリスト教(正教)的価値観を保持するロシアが戦っているという価値観戦争を強調している。

12.(1)ロシアの使命は、ロシアの国家とロシア人のアイデンティティーを維持することで、そのためには西側との戦いが不可欠との認識を示している。

 今日、私たちは、何よりもまず私たち自身のために、ロシアのために、独裁、専制が永遠に過去のものとなるように、公正で自由な道を求めて戦っているのです。私は、各国や各国民が、誰かの例外性を認めたり、他の文化や民族の抑圧に基づいた政策は本質的に犯罪であり、この恥かしい頁を変えなければならないと考えていることを確信しています。既に始まっている西側覇権の崩壊は不可逆的です。そして、繰り返しになりますが、これまでと同じようにはなりません。
 運命と歴史が私たちを呼び出した戦場は、わが民族、偉大なる歴史的ロシアのための戦場なのです。(拍手)。偉大な歴史的ロシアのために、未来の世代のために、私たちの子どもたち、孫たち、ひ孫たちのために。私たちは、彼らを奴隷化から、彼らの心と魂を麻痺させようとする恐ろしい実験から守らなければなりません。

(2)ロシア語とロシア人アイデンティティーが不可分の関係にあることを強調する。

 今日、私たちは、ロシアが、私たちの民族が、私たちの言語が、私たちの文化が、歴史から抹殺されることが決してないように戦っています。今日、私たちは社会全体の統合を必要としており、そのような統合は主権、自由、創造、正義に基づくものでなければならなりません。私たちの価値観は、人間性、慈悲、思いやりです。
 私は真の愛国者イワン・アレクサンドロヴィッチ・イリインの言葉で締め括りたいと思います。「私がロシアを私の祖国と考えるならば、それは、私がロシア語で愛し、観察し、思え、ロシア語で歌い、話すということです。私はロシア国民の精神的(霊的)な力を信じています。その精神は私の精神です。その運命は私の運命です。その苦しみは私の悲しみです。その繁栄は私の喜びです。」
 この言葉の背景には、1000年以上にわたるロシア国家の歴史の中で、私たちの祖先が何世代にもわたって守ってきた、大きな精神的選択がある。今日、私たちドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の市民とザポロジエ州、ヘルソン州の住民は、この選択をしたのです。彼らは自らの、国民とともに、祖国とともに、その運命を生き、祖国とともに勝利することを選択したのです。
 真実は私たちの側に、ロシアの側にあります!

 この言語偏重の民族観のため、プーチン氏は、ロシア語で考え、語るが、同時にプーチン氏にはロシア人と異なるアイデンティティーを持つ人々がいることがわかりにくくなっている。ウクライナにいてロシア語を常用するが、ロシア人とウクライナ人の複合アイデンティティーもしくはウクライナ人としてのアイデンティティーを持つ人々もいる。この人々をどう統合していくかという課題に答える処方箋をプーチン氏は持ち合わせていないようだ。

 日本との類比で考えるならば、日本に在住する沖縄人、アイヌ人は日本語を常用しているが、日本人と異なるアイデンティティーを持つ場合がある。大民族である日本人は、このような日本語を常用する少数派の心情が皮膚感覚として理解できない。ロシア人も同様の問題を抱えている。