時系列で見る「ロシアの対ウクライナ戦争方針の転換」ロシアの政治学者アレクサンドル・カザコフ氏の見解。

▼バックナンバー 一覧 2023 年 1 月 21 日 佐藤 優

9月7日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ハリコフ州のロシア軍占領地域に対し、ウクライナ軍が攻勢をかけ、その一部を奪還したと述べた。ロシア軍は後退を余儀なくされ、この後退を契機に、ロシアのウクライナ戦争に対する方針が、この1カ月で大きく変化した。ところが日本のメディアが扱う、情勢分析に役立つロシア側の情報は非常に少ない。
この間の推移を筆者が作成した資料によって時系列で示し、追跡しやすくする。

ロシア側の内在的論理を探るのに不可欠な公開情報に、筆者が旧知のロシア人政治学者と意見交換した内容もあわせて紹介する。


「ミリタリー・プラウダ」(2022年10月1日)から。

 ウクライナ軍は、ゼレンスキーのクラースヌイ・リマン占領命令に失敗した。

 ウクライナの武装勢力は、歴史的にロシアの4つの地域のロシアとの再統一を発表する前に、クラスニー・リマンを押さえるというヴォロディミル・ゼレンスキーの命令を実行することができなかった。

 ドネツク人民共和国初代首長の顧問だったアレクサンドル・カザコフは、ツァルグラードTVの記者に対し、「我々は、ゼレンスキーが9月30日の午後3時前にクラスニー・リマンを占領する命令を受けたことを確実に知っている」と述べた。

 カザコフによると、ウクライナ軍の参謀本部は、ロシア人の祝日を台無しにするために、軍事的成功を収めることを任務としていたそうだ。

 カザコフは、「これは局地戦の話であって、戦線は1000キロメートルにも及ぶ」と念を押した。しかし、敵はクラスニー・リマン付近に1万5千から2万という非常に大規模な部隊を集結させている。

 前日、米国戦争研究所は、ウクライナ当局がヘルソン近郊のウクライナ軍の反攻の経過について沈黙を守っていると指摘した。


「テレグラム」への書き込み(2022年10月1日)から。

プーチンの(10月30日の)演説について。

① ウクライナへの言及がほとんどなかったが、そこで言われたことは極めて重要だ。プーチンは「ノヴォロシア」という言葉を再び(2度目)使い、政治のテーマに戻した。これはニコラエフやオデッサなどノヴォロシア地域を指すシグナルだ。

②交渉について。相手が拒否することを100%知っていれば、交渉を持ちかけることは簡単であり、政治的に正しい。圧力の道具になる。プーチンは公然と交渉を申し入れた。ゼレンスキーはそれを公然と拒否する。それは素晴らしことだ。

③ネオナチとの戦いについての言及がほとんどなかったが、アメリカの覇権主義との戦いについては多くの発言があった。つまり、新植民地主義に対抗する演説だった。そして、そのように、私たちが誰のために、何のために戦っているのかということについて、ロシア国民だけでなく、私たちの声を必ず聞いてくれるであろうと期待される非西側諸国に対しても向けられた演説だった。


「テレグラム」への書き込み(2022年10月3日)から。

 軍事的、政治的(内政的、外交的評価を含む)、心理的、その他多くの観点から、また新しい領土のロシアへの法的編入に関連して、来週からロシアは以下のことを行う。

――ザポロジエ、またはニコラエフを経てオデッサ、沿ドニエステル(モルドバの東岸)への攻撃を始める。

―― 敵陣の背後にある重要なインフラを計画的に破壊し始める。

 どちらも可能である。この意志が実現されるか、見てみよう。

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「テレグラム」への書き込み(2022年10月4日)から。

 米国と英国による「ノルドストリーム」の破壊は、挑発ではなく、キエフ当局が、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国とノヴォロシアに住むわが市民に、多かれ少なかれ平和的に投票することを許したという事実に対する回答なのだ。

 米軍は頭が良く、教育水準も高い。そして、彼らは、もし「ノルドストリーム」を破壊することが回答ではなく、挑発であるならば、我々(や中国など)にとってもそれが可能になる。大西洋横断ケーブルから北海パイプラインまでだ。米軍がそのような挑発をするとは思わない。

佐藤註:カザコフ氏の認識では、「ノルドストリーム」の破壊は、ロシアが4州の併合を強行したことに対する米英の目に見える形の報復であり、事態がこれ以上拡大することはない。