東郷和彦の世界の見方第十六回 ウクライナ和平の動向(その16)

▼バックナンバー 一覧 2025 年 6 月 9 日 東郷 和彦

激化した戦争、各当事者の立場を考える四項目。

2025年5月16日第一回目のロシア・ウクライナ協議がイスタンブールで行われた。メジンスキー・ロシア代表団長は、終了後の記者会見で「停戦についてはロシアとウクライナがそれぞれの考える停戦について文書で提案し、準備が整ったところで、次回の会合を開催する」と発表した。ウクライナ側も同様の発表を行い、若干の曲折をへて、結局、6月2日同じくイスタンブールで、予告されたとおりの第二回会合が開かれた。

第一幕 6月2日の第二回イスタンブール会合に至る若干の経緯

会合の場所:第二回目をどこでやるかについて、ヨーロッパ諸国の一部から、バチカンでの会合の可能性についての情報が乱れ飛んだ。ロシア側からは、カソリックの総本山でこの会合を行うことは、正教をいただくロシアとしては同意できないという趣旨の報道がとびかい、結局第一回の会合と同じイスタンブールで行われることとなった。
宗教上の違いという穏やかな理由を表に出した決着であったが、英仏独ポーランド(少なくとも選挙前)を軸として、ゼレンスキーを擁護し、ロシア側の「root causes」を一顧だにしないヨーロッパで会合をやることにロシア側が同意するはずはない。結果、ロシアの言う通りの場所となった。

案文の交換:会合の場所が決まり、双方が用意すべき文書がかたまり、協議の日付けを合意する段階で、ゼレンスキー側は、案文の事前交換を要請した。しかし、ロシア側は第一回と同じく極めて厳しい情報保全を行い、案文は会議場で交換することを主張した。ウクライナ側は、これはロシア側の引き延ばし作戦であり、「早期停戦」に対して真剣さが無い証左であるとして激しい非難を集中させた。
世界のウクライナ戦争の分析家の中には(英国の著名なブロガーのアレクサンドル・メルクーリ等)、「ロシアの立場に立てば当然のこと。もしも事前に案文を交換したら、ウクライナ側はそれをリークし、ロシア案がいかに一方的かという宣伝を幅広く行い、いわば会議の前にロシア案を葬りさろうとすることになる。これを避ける最善の方策は、会議冒頭交換しかない」という意見を堂々と述べる人もいた。
いずれにせよ、会議が実際に行われるまでロシア側の案文は保秘され、会議後に直接ロシア側から開示されることとなった。

会合前の雰囲気:いうまでもないが、ロシア・ウクライナ間で停戦についての合意は一切なく、それをお互い承知で戦争を続けながら、第二回の交渉準備が始まっていたのである。
しかし5月25日、トランプは、東部ニュージャージー州で記者団の質問に答え「我々は話をしているさなかなのに、彼はロケット弾を都市に撃ち込み、人を殺している。全く気に入らない」と語った。自身のSNSに「完全にくるっている!不必要に多くの人を殺している。」「彼はウクライナの一部でなく、全土を狙っていると私は言ってきた。それが正しいと証明されつつあるのかもしれない。」「そうすればロシアの破滅につながる」と述べた(5月26日日経新聞報道)。ゼレンスキーに対する批判も同時表明されてはいたが、プーチンに対する批判の方が遥かに鋭いと感ぜられた。

第二幕 会合直後の記者会見で発表された内容

案文の内容について:ロシア側は断固として情報を秘匿し、会場で約束通り、「①長期の真の平和の構築と②完全に意味のある停戦のやり方」の二つについてのメモランダム」をウクライナ側に手交した。

会談は一時間余り行われ、その後にロシア側が記者団に発表したのは、メジンスキーが「実務問題」と称した諸問題だった。発表された「二つのメモランダム」を見てみると、その中にこの実務問題にかかわるものも頭出しされていたので、事態を正確に把握するのはなかなか難しかったが、ともあれ、会議終了後のメジンスキー発表は以下のようなものだった。

① ロシア側からの遺体6000体のウクライナ側への一方的引き渡し、ウクライナ側から同様な提案があれば受け入れる用意がある。
② それぞれ1000名を下回らない、優先度の高い捕虜の『すべて対すべて』原則に基づく交換
・重傷者・重病者
・誰が該当するかは、それぞれが医療コミッションを作成して協議する。
・25歳以下の若い兵隊の捕虜
③ ウクライナ側からたびたび提案されている「停戦」については、具体的な場所と数日間の期間を決め、遺体の収集などの必要な作業をする。
④ 「子供の問題」について、今回の協議で初めて全貌が明らかになった。戦乱に巻き込まれる可能性があることによってウクライナ国内からロシア領内に避難させていた子供の総数は、西側において当初150万、ついで2万と報ぜられた。しかし、今回ウクライナ側からロシアから退避した子供の現時点でのリストが提供され、その総数は339名であった。なお、すでにロシアからウクライナ側に返還された子供は101名、ウクライナ側からロシアに引き渡されたのが22名。339名の子供たちについては、ロシア側で真剣に調査するが、ウクライナ側に子供の縁故がある人がいることが判明すれば、彼らを帰国させる。このための話し合いは今後も誠意をもって継続ささせる。本件は、ロシアを非難するための完全な『ショー』だったことがここに明らかにされた。」
本件は国際刑事裁判所にプーチンを提訴する原因になった政治的に非常に重要な問題であるが、日本を含む西側の報道から完全に黙殺されている。筆者なりにメジンスキー団長の発言についての追加情報をさがしているが、現時点で何も確認できていない。

今後の交渉について:最後に、メジンスキーは、ウクライナ側がロシアの二つのメモランダムを検討し、準備のできた時に三回目の交渉を行うことが合意された旨発表した。ウメロフ国防相も会談後の記者会見で、次の協議を6月20日と30日の間に開くことを提案した(NHK)と述べた。

第三幕 ロシア側から提示された二つのメモランダム

ウクライナ危機の解決に関するロシア連邦の提案(覚書)
6月1日付け・RT6月2日

第一のメモランダム:
セクションI 最終的な和解のための主要なパラメータ に12項目。
第二のメモランダム:
セクションII 停戦条件  として二つの選択肢が提示されている。
第一の選択肢は、1項目。
第二の選択肢「パッケージ提案」は、10項目。
追加の「手順」に関する第三のペーパー:
セクションIII 段階の手順とタイムライン  として9項目があげられている。

セクションIは最終的な和解のためのパラメータであるから、前半の5項目には、まず、領土と安全保障の問題が圧縮されている。
① クリミア及び併合4州のロシア連邦への編入と国際法上の承認。
② ウクライナの中立義務、同国内での第三国軍隊の活動の禁止
③ 上記②と抵触する条約締結の禁止
④ 核兵器所有の禁止
⑤ ウクライナ軍が保持しうる戦力の上限
後半の7項目には、民族としてのアイデンティティの根本問題に関わりのある問題が列挙されている。
⑥ ロシア語話者の権利保障と公用語としてのロシア語の地位の保証
⑦ ナチズム及びネオナチズムの禁止
⑧ ウクライナからロシアに対して課されている制裁の解除
⑨ 家族の再統合及び避難民
⑩ 敵対行為中に生じた損害に対する相互請求権の放棄
⑪ ウクライナ正教会に課された制限の撤廃
⑫ 第三国との外交、経済的関係の段階的回復

第一のメモランダムの内容についてひとつ感じるのは、
2022年4月22日のイスタンブール交渉における最終仮調印文書、
2024年6月14日のプーチン大統領のロシア外務省講演内容、
2025年6月2日提案を比較すると、ロシア提案は少しずつしかし確実に立場を強めているように見えることである。

セクションII 停戦条件 はセクションIでやらなくてはいけなくなったものを実際に停戦につなげていくためのやり方が示されている。しかもわかりにくいのは、それには二つのやりかたがあるということの意味である。
第一の選択肢は、一項目からなっていて、ロシア(ロシア連邦本体・クリミア・今次「特別軍事作戦」によって併合しようとしている4州)から完全にウクライナ軍を排除したら、そこから停戦を始めうると考えているようである。
第2の選択肢は「パッケージ提案」であり、これは10項目(省略)をパッケージにして、ウクライナ内部でやっておくべき実質的・法的措置を列挙し、これらをやりとげたら停戦を始めうると考えているように思われる。
セクションIII 段階の手順とタイムライン
興味深いのは事前予告のなかったこのセクションであり、これは、「二つのメモランダム」の内容を実施する現実の手順とタイミングを9段階(省略)で示しており、内容さえ固まれば、急速に長期的平和がおとずれうることを可視化させようというものだと思う。

ウクライナ側がその検討結果を6月20日から30日の間に示すと引き取った以上、ロシアとしては、結果をまつということになる。ウクライナが「全面拒否」として全否定を言ってくるのか、一部なりとも合意してきて、両者接近の交渉が継続されるのか、という交渉の道筋を僅かなりとも広げようという態度は見えたように思えた。

参考:RTに発表されたロシア提案のフルテキスト

6月2日にウクライナ側から提出された案については、米国のResponsible Statecraft誌に、同誌編集長のアナトーリ・レヴィン氏が投稿した記事が分かりやすいので、参照されたい(日本語即時変換ですぐによめる)
参考:アナトーリ・レヴィン氏の投稿
 

第四幕 ウクライナによるロシア本土軍事飛行場への攻撃

ところが6月2日の交渉は、以上の比較的穏やかな予定シナリオとは全く違った激しい緊張の下で行われることとなったのである。
6月1日、予定されるイスタンブール交渉の一日前、ウクライナ製のドローンが、ロシア本土内深くの軍用飛行場で、ロシア軍の戦略爆撃機一定数を破壊した。「蜘蛛の巣」作戦と命名されたこのオペレーションの主な特徴は以下のとおり(日経電子版)。
▼破壊されたのは、ウクライナ発表によれば戦略爆撃機41機(その後この数字については各種異論が提起されている)。
▼飛行場は、北端のムルマンスク、シベリア東部のイルクーツク、モスクワ直近のリャザンとイワノボ。
▼攻撃方法は、大型トラックの荷台に攻撃ドローンを隠し、各地の空軍基地直近に配置してそこから一斉発射。
▼ウクライナ発表によれば準備開始から作戦実行まで1年半。
一年半にわたり、四つの飛行場に誰も怪しまない形のトラックを配置する訓練を積み重ね、四か所同時に短距離ドローンを発射させ、米国との核バランスに必要な戦略爆撃機を破壊したということは、ロシア国内にウクライナ人及びこれと内通するロシア人が相当いるとおもわざるをえない。というよりも、広くロシア側が主張してきたように、ロシア人とウクライナ人が持つ「二重アイデンティ」という現実が、皮肉なことに、ウクライナ側に有利に働いたということかもしれない。

早速同じ1日、ラブロフ外相とルビオ国務長官との間の電話協議が行われた(日経電子版)。内容は発表されていないが、常識的に言えば、ウクライナの攻撃が米ロ間の核バランスに与える危険性についてラブロフがルビオに強い警告を与えたと見るのが自然だろう。更に米CNNは、本件攻撃は米国政府に事前通告されていなかったと報じた(日経電子版)。

ウクライナによるロシア本土空港四か所への攻撃が当面おさめた「大成功」に、ウクライナの勝利を待ち望んでいる人たちは一種の興奮状況におかれた。そういう反応は、英語論調でも、日本のテレビ解説者の間でも、等しくみられたのである。

しかしこれとは全く反対の立場に立ち、ロシアの核兵器の対米均衡に手を付けることが如何に危険で向こう見ずな行動であるか、目先の利益からいずれウクライナの立場を大きく棄損する可能性があるとの論調も直に生じ始めた。二つ紹介しておきたい。


(1)6月3日 ジェフリー・サックスとGlen Diesenのユーチューブ対話(英語)

(2)6月2日、ラリー・ジョンソンのユーチュウブ・インタビュー(英語)

第五幕 プーチン・トランプ電話会談

緊張する事態の中で、6月4日、トランプ・プーチン両大統領は約1時間10分の話し合いを行った(ロシア大統領府)。アメリカ・ロシアからそれぞれ大変興味深い発表が行われている。

まずトランプ大統領が自身のSNSであるTruth Socialで表明した「所感」である。プーチン大統領との会談について「私たちの対話は、良い対話だったが、即座に平和を導くものではなかった。プーチン大統領は、最近の飛行場への攻撃に応えなくてはいけないと、非常に強く述べていた」と、簡潔ではあるが大変興味深いコメントを発表した。このSNSの後半が、イラン問題についての米ロ協力であることも興味深い。

参考:トランプ氏SNS投稿

ロシア側は、ウシャコフ大統領補佐官がクレムリンのホームページにコメントを掲載した。ロシアの見方を知るには重要な発表であり、主要点は、以下のとおり。

当然のことながら、ウクライナ情勢に関する議論からこの会談は始まった。プーチン大統領は、イスタンブールで行われたロシアとウクライナの直接交渉の第2ラウンドの結果について詳しく説明した。
ウクライナはキエフ政権の直接の命令に基づき、純粋に民間人、つまり平和的な住民を標的とした攻撃を実行することにより、ロシア・ウクライナ交渉を妨害した。彼らの行動は、国際法上、明らかにテロ行為に該当し、我々の意見では、キエフ政権は実質的にテロ組織へと堕落した。ロシア側は挑発に屈することなく、第二ラウンドは予定通りイスタンブールで行われた。
改めて強調したいのは、プーチン大統領が、交渉の内容と結果を詳細に説明したうえで、全体として交渉が有益だったことを強調したことである。交換された覚書は、モスクワとキエフの両首都で分析され、その後、双方が交渉を継続することを期待している。
軍用飛行場への攻撃についても触れられ、ドナルド・トランプ氏はアメリカ側が事前にこの件について知らされていなかったことを改めて強調した。
もちろん両首脳は、最高レベルのみならず、他のレベルやチャネルを通じても、ウクライナ問題に関して両国間の連絡を継続することに合意した。

(以下項目のみ)イランの核計画問題、インドとパキスタン間の武力紛争、様々な分野における露米協力の回復の見通し、スティーブン・ウィトコフ米国大統領特使のへの高評価、等。大変興味深いので、クレムリンホームページでの日本語自動翻訳をご覧いただければと思う)

参考:ロシア大統領府HP ウシャコフ大統領補佐官コメント(日本語への自動翻訳あり)

第六幕 6月4日ロシア政府の総括会議

さてここから本件の今後の帰趨を考えるうえで、これから最も重要な意味をもつかもしれない、ロシア政府の中枢で行われた会議を紹介したい。
6月4日17時30分 モスクワ地方の「ノヴォ・オガリョーヴォ」でロシア政府関係者の会合が行われた。その全貌は直に、クレムリンのウェブサイトでアップされ、自動翻訳を使えば直にその全貌が把握できる。

(1)会合はまずメジンスキー交渉団長からの詳細な報告から始まる。大部分は本稿ですでにとりあげられているが、1000人対1000人の捕虜の交換が「6月7日・8日・9日に始まる」といった説明も行われた。

(2)その後ラブロフ外相が今次会合の評価を述べ、
① 会合は重要で有益だった、
② 特に今の段階では人道上の具体的成果を上げていく事が大切である、
③ いかなる状況下でも対話のチャネルを維持していく事が重要である、
④ 数日間の具体的な意味のある停戦案をゼレンスキーが直に拒否したのは重大な間違いだった、
⑤ 最近数日間交渉を妨害するために行われた新しい犯罪的な挑発に対しては、これに屈しないことが重要である、
⑥ しかし、特別軍事作戦によって開始された目的を達成するためには、交渉を含むあらゆる手段を講ずる必要がある
と述べた。冷静でバランス感のある評価だったと思う。

(3)ここからブリャンスク・クルスクにおける鉄道事故が敵方による3件のテロ攻撃によって行われたこと、その詳細な被害状況、犠牲者に対する救済措置などについての報告が、延々と続く。
(4)その後にプーチン大統領がこれまでの議論の総括として以下のような発言を行った。ゼレンスキー政権を「テロリスト政権」と断ずるこの発言は、これまでにプーチンが公の場で行った発言の中では、全く聞いたことのない敵意と批判にみちたものである。この敵意がこれからのプーチンの対ゼレンスキー政策の基本になるとすれば、ロシア・ウクライナ戦争の行く末に暗雲が生ずると判断せざるを得ない。ここでは、A4で二枚程度のプーチン発言のエッセンスのみ紹介するが、ご関心あれば、クレムリンホームページの日本語への自動翻訳をご覧いただければと思う。

① ブリャンスク州とクルスク州における最近の鉄道線路爆破は、言うまでもなくテロ行為である。このような犯罪を実行するという決定は、言うまでもなくウクライナの政治レベルでなされた。
② この点について、特に申し上げたいことがある。武力紛争においては、どこであれ、そして常に、誠に遺憾ながら、民間人が犠牲になる。しかし、ブリャンスク州、クルスク州で起きたことは、民間人を標的とした攻撃であり、あらゆる国際規範に照らして、このような行為はテロリズムと呼べるものである。
③ イスタンブールで我々が提案した2回目の和平交渉の前夜、女性や子供を含む民間人に対して行われたすべての犯罪は、明らかに交渉プロセスを妨害することを狙ったものだった。
④ これは、かつて権力を掌握したキエフ政権が、非合法政権から徐々にテロ組織へと堕落し、その支援者もまたテロリストの共犯者になりつつあるという我々の懸念を裏付けるものに過ぎない。
⑤ つい最近まで、ウクライナ当局とその同盟国は、戦場でロシアを戦略的に打ち負かすことを夢見ていた。しかし今、甚大な損失を背景に、戦闘線全体にわたって撤退しつつなお、ロシアを威嚇するために、キエフ指導部はテロ行為の組織化へと舵を切った。同時に、30日間、あるいは60日間の軍事行動の停止を求め、最高レベルの協議を求めている。
⑥ しかし、このような状況下で、このような協議をどのようにして開催できるのか?何を話し合うべきか?テロに頼る者、つまりテロリストと誰が交渉するのか?西側諸国の兵器で戦闘を継続し、強制的な動員を続け、ブリャンスクやクルスクで行われたものとは別のテロ活動の準備を敵側がするために、なぜ停戦をしなければならないのか?
⑦ これほど腐敗し、完全に堕落した政権の指導者に、一体何の権威があるのか?世界中がこれを話題にしている。一体何の力量を誇るというのか?ウクライナ軍がクルスク地域で全く無意味な甚大な損害を被り、今日も戦場で次々と敗北を喫しているような指導者に、一体何の力量があるというのか?
⑧ 私たちが相手にしているのは、何事においても能力がないばかりか、基本的な政治教養も持ち合わせていない人たちのようだ。彼らは一定の発言や行動によって、今交渉しようとしている相手に、直接の侮辱を与えることを厭わないのだ。
⑨ 人道的理由による2、3日間の停戦への同意を最近拒否したことは、現在のキエフ政権が平和を全く必要としていないことを再認識させられる。彼らにとって平和とは、権力の喪失を意味する。この政権にとって権力は、平和よりも大事なのである。

参考:ロシア大統領府HP 政府構成員との会議

最終幕 ロシア・ウクライナ戦争の激化

ロシア・ウクライナ間の戦争と交渉の状況はかつてない激震に見舞われている。
▼6月4日、ロシア政府協議が行われたのとほぼ同じころ、ゼレンスキーは、プーチン・トランプ電話会談でプーチンがウクライナへの反撃を予告したことに対し「プーチン氏の脅威に弱腰になれば、彼は殺人に対して暗黙の了解を得たとみなすだろう」「強い国がプーチンを止めなければ、その国にも責任がある」とし、米国に対ロ圧力を強化するよう求めた(日経電子版)。
▼ 6月4日、ブラッセルのNATO本部で、ウクライナ軍事支援会合が開かれおよそ50カ国が参加したが、アメリカのヘグセス国防長官は欠席。今年の2月と4月の会合には出席していたので、アメリカの国防長官のいない最初の支援国会議となった(NHKニュース6月5日7時26分)
▼ 6月5日、トランプ大統領は、ドイツのメルツ首相とホワイトハウスで懇談した時、冒頭記者団との応答の中で、「二人の幼い子供が狂ったように喧嘩しているのを見ることがある。互いに憎み合い、公園で戦っている。時にはしばらく戦わせてから引き離した方がいい場合もある」と発言した(日経電子版)。
▼ 6月6日、ぺスコフ報道官は「われわれにとってこれは国家存亡にかかわる問題であり、国益、安全保障、国民の未来、子供たちの未来、国家の未来に係わる問題だ」と述べた(AFP)
▼ロシア国防省は6日、空軍基地への攻撃に対する「報復」として、無人機や長距離ミサイルでウクライナを攻撃したとSNSで発表した。「目的は達成され、全ての目標が破壊された」と主張した。攻撃を受けたゼレンスキーは、Xに投稿し、「我々は断固たる行動をとらねばならない」と米欧にロシアへの圧力強化を訴えた(日経電子版)
▼6月7日、ロシアのメジンスキー大統領補佐官は、2日の直接交渉で合意した遺体や捕虜の交換について「ウクライナ側が無期限で延期した」と通信アプリに投稿した。ウクライナ政府は否定し「ロシアに汚いゲームをやめるよう求める」反論、非難の応酬となった(日経電子版)。

ロシア・ウクライナ戦争の過激化の中で意味がありそうな項目を拾っていたら6項目になった。たぶんこれからそういう項目が延々と続くと思う。その中で各当事者の立場がいずれ明確化していくのだと思う。
▼ 欧州NATOの主流(仏・英・独)とゼレンスキーの立場は明確である。ロシア本土に対する全面攻撃にふみきり、その初戦で大勝利を収めた以上、当分の間、その勢いで攻め続け、その強さをもってトランプを味方につけるべく外交力を駆使するということだと思う。
▼ ロシアの立場も明確である。元々「根源課題の解決」による長期安定平和の下でのロシアとウクライナの共存以外の選択肢はとるつもりはない。ウクライナから平等な国家間戦争をしかけられ、ロシアとしてそれはウクライナがテロ国家になったからだという根本定義を下した以上、ロシアの持つ軍事力の総力(オレシュニクの活用を含む。ただし、戦術核を含め核には手を出さないだろう)をあげて、ウクライナの敗北を目指した戦いを展開することになる。少なくとも当面そのラインは動かない。
▼しかし、双方とも、トランプとの敵対関係には入りたくないという共通ポジションがある。この共通ポジションが、戦争の激化に対する抑制要因になる可能性はあると思う。
▼ 今解らないのはそのトランプの動きである。四基地における戦略爆撃機攻撃はやりすぎだったという判断を基調に動くか、戦争の過程で起きる民間人被害がウクライナ側に多いという固定観念にもとずき、ロシアに対する経済制裁に行くのか、筆者としては、即断を避けたいと思う。