東郷和彦の世界の見方第十八回 ウクライナ和平の動向(その18)

▼バックナンバー 一覧 2025 年 7 月 27 日 東郷 和彦

トランプ・プーチン電話協議での「食い違い」。嵐の前の大雨か?

6月28日付けで書いた「魚の目第17号」の見出しで、私は、「中東危機で見えにくくなったウクライナ戦争は今、嵐の前の静けさか?」と書いた。それからちょうど一か月が経過したが、嵐は来たのだろうか。諸般の情報を総合すると、嵐の前の大雨は当面始まったように見える。しかし、当初一部にあった予想と異なり、本格的な嵐の来襲には一定期間の猶予がつけられ、この間の天候がどうなるのか、その後に何が本当に起きるのかは、必ずしも明確ではない状況が続くことになった。

序幕

6月27日ミンスクで「ユーラシア経済連合EAEU」首脳会議が行われ、会議の後、プーチンは同行の記者団からの質問をとり、最後にコメルサント紙の記者からトランプとの関係について以下の質問をうけ、大要以下の通り答えた(文責筆者。同様な分析は、日経電子版にもあり)。


① 自分はトランプ大統領を深く尊敬している。彼は暗殺の危険を乗り越え、困難な道に打ち勝って大統領職に復帰した。彼は本当に勇気ある人である。
② 彼は国内問題、中東での諸問題などの解決のために真剣に努力している。すでに私は発言しているが、改めて彼が真剣にウクライナ問題を解決しようとしていることを強調したい。最近彼は「思っていたよりもこの問題が難しい」と言った。外側で見るよりも中に入ると問題がもっと難しいことは何ら驚くことではない。
③ 私は常に対話のチャネルを維持しているし、トランプ大統領との会談には常にオープンである。私は彼と同様に会談の前に十分の準備が必要と考えているが、そうやって首脳会談を実現することにより、新しい領域を開くことができると思う。
④ 米ロ間では、外務省と国務省の間、主要な省庁の間、テロ対策などで重要な役割を果たす対外情報局の間で接触を進めている(日経電子版では、6月29日タスは、ナルイシキン・ロシア対外情報局(SVR)長官とラトクリフCIA長官が協議した旨報道)。両国間では、経済協力が積極的に進められている。
またリア・ノーボスチの記者からウクライナの和平交渉についての質問が出たのに対しては以下の通り立場は相反するが第三回目の交渉を開くべく準備中である等と答えた。
⑤ 交換されたメモランダムについては、予想されたとおり、双方の立場は全く相反するものであるが、それについて驚くことは何もない。立場が違うからこそ、案を交換し接近できるものを探すことになる。
⑥ 人道問題についての処理を終えたところで、イスタンブールでの三回目の交渉の準備をするために、双方の代表団は、常に連絡をとりあっている。
参考:ロシア大統領府ホームページ(英語・日本語へ即刻変換)

第一幕 七月第一週(6月29日~7月5日)

プーチン大統領の6月27日のミンスクにおけるユーラシア経済連合EAEUの際の発言は、米ロ間の首脳会談への前向きなメッセージと捉えうるものであった。早速7月3日プーチンとトランプとの電話協議が開かれた。この協議で何が話されたかを正確に把握することは必ずしも容易ではないが、この日の協議が米ロ間の「食い違い」の起点になったことは間違いがないと思う。
筆者はなぜそうなったのか、そのニュアンスがどこからでてきたのかが、なかなか理解できなかったが、ようやく大体の感じがつかめたと思うに至った。
最も重要な記録は、電話協議直後にウシャコフ・大統領補佐官がクレムリンのホームページで発表したロシア側の見解である。要点以下のとおりであり、大統領府ホームページに発表された英文本体を読んでいただければと思う。

① 会談は一時間近く行われ、トランプから、関税、移民、エネルギー等の政権の基幹政策についての説明があり、プーチンはその成功を祈り独立記念日(4日)を祝した。
② プーチンはアメリカ独立戦争、市民戦争、第一次及び第二次世界大戦と歴史にさかのぼり、両国間には結びつきがあることを指摘。
③ イラン、シリア及び中東全般について詳細に協議。ロシア側は交渉による解決の重要性を指摘。
④ ウクライナについてトランプは、停戦をできるだけ早く実現すべきと主張。プーチンも、交渉による解決を探求し続けており、第二回協議での進捗を説明し、引き続き交渉継続を企図していることを述べ、加えて、現下の対立を惹起した根本原因を除去するという目標を実現しようとしており、ロシアはこの目標から引き下がることはないと述べた。
⑤ 双方が経済協力案件実現に意欲をしめした。
⑥ 双方が同じページに属しており、「率直で、実務的で、具体的」な会談だった。
参考:ロシア大統領府ホームページ(7月3日)

トランプ大統領は7月4日記者団に対し「非常に失望している。プーチン大統領は停戦をするつもりはなく、大変残念だ」と述べた(4日NHK、そのほか報道多数)。
更に同日トランプはゼレンスキーと電話協議。米ニュースサイト「アクシオス」は、トランプ氏はウクライナの防空体制を支援したいと述べたと報じた(6日産経新聞)。
CNNテレビによると同日トランプ氏はドイツのメルツ首相やフランスのマクロン大統領と電話協議。メルツ氏は、ウクライナの態勢の強化のために、ドイツが米国からパトリオットを購入してウクライナに供与する案を示したという(6日産経新聞)。
プーチンにしてみれば、「根本原因の除去」によって二度と、ウクライナという本来ロシアの友邦たる国が欧米代理戦争の犠牲にならないようにするという戦争目的から撤退することはない旨終始一貫した立場に立っている。しかし戦争をやめるのは「交渉」であるからウクライナとの二国間交渉には積極的なイニシアティヴをとってきたし、今後ともとるということである。
これらのことは、本来トランプは熟知していることであるはずである。にもかかわらず今回何かがトランプをして「いらっ」とさせたようである。筆者は、ウシャコフの記録の中に現れた「根本原因を除去するという目標から引き下がることはない」という「かなりきつい言い方」の中に「カチン」とくるものがあったのかもしれないと感じた。外交は、対話であり、言葉による表現の技術でもある。誠に怖いと感じた。

第二幕 七月第二週(7月6日~7月12日)

トランプのプーチン批判のトーンは徐々に強まっていった。7月7日ホワイトハウスで開催したイスラエルのネタニヤフ首相との夕食会の冒頭で記者団からの質問に答え「プーチン大統領にはまったく満足していない」と述べ「ウクライナへは更に多くの武器を送る予定だ」と述べた(日経電子版)。
更に7月10日NBCテレビは、電話取材に応じたトランプが「ロシアには失望している。この数週間で何が起きるか見てみよう」と述べたうえで「14日にロシアに関する重要な声明を発表すると思う」と述べた旨報道した(NHK報道、日経電子版)。
米CBSテレビは、12日複数の外交筋の話としてトランプが就任以来、初めてウクライナへの資金援助を検討と報道。バイデン政権下で残された38億5000万ドルを利用できる可能性がある(日経電子版)、供与の規模は3億ドル程度になる見込み(ロイター)(産経新聞7月12日)等の報道が続いた。

7月14日に「対ロシア重大政策」が発表されるとあっては、ロシア側は反撃に出ざるをえない。
7月7日 ラブロフ外相は、ハンガリーの新聞 Magyar Nemzet へのインタビューに応じ、ロシアが「根本原因」の除去を要請するのは、もって安定した平和の構築を求めるためであることを強調した。
参考:ラブロフ・ハンガリー紙インタビュー

更にもう一つ、ロシア側は、外交交渉の面でも積極的に見えるイニシアティヴをとった。
7月10日マレーシアの首都クアラルンプールで開催されたASEAN関連外相会議に出席したルビオ国務長官とラブロフ外相との間で会談がおこなわれた。ルビオ長官は会談あとラブロフ外相から「ウクライナの停戦をめぐる新提案があった」と明した。更に記者団から問われ「新しい考え、新しいコンセプトだ。ただこれは自動的に平和につながるものではない」と語ったが、具体的な内容については明らかにしなかった(日経電子版)。
ロシア外務省は、外務省プレスブリーフにより、「7月3日の両大統領の電話会談の合意を含む首脳間の合意に従い、二国間及び世界的諸問題について話しあったこと、ウクライナ問題の解決、イランとシリアの情勢について実質的で率直な話し合いをしたこと、両国間の経済的・人道的協力を再開し、直接フライトや大使館機能の正常化を進めること、相互尊敬に基ずく建設的対話を続けること」等を発表した。実務的な発表であり、「新しいイニシアティヴ」への言及はなかった。
参考:ロシア外務省記者発表(7月10日)

更にこの間、明らかにロシアに有利な意味をもつ、今後の全体情勢に影響をあたえるかもしれない興味深い動きがあった。
7月6日ブラジルで始まったBRICS首脳会議の初日に共同宣言が採択された。この共同宣言ではウクライナ侵攻について、ロシアからの攻撃には触れられない一方、ウクライナ側からの攻撃を手厳しく批判した。「2025年5月31日、6月1日、5日にロシアのブリャンスク、クルスク、ボロネジ各州において、意図的に市民を狙った橋や鉄橋インフラへの攻撃が行われ、子供を含む多数の市民が犠牲になったことを最も強い言葉で非難する」と述べている。
ここでのウクライナの行動への批判は、6月4日のロシア政府首脳会議において、プーチン大統領からブリャンスク・クルスクにおける鉄道事故につき、これまで聞いたことのない激烈な口調でゼレンスキー大統領を批判した内容と極めてよく似ている(「魚の目第16号、第六幕参照」)。
2009年にブラジル・ロシア・インド・中国の四か国で形成され、2024年以降参加国を10か国にし、現在10のパートナー国を有するBRICSが一斉に「親ロ反ウ」の立場をとったことは、グローバルな視野からウクライナ戦争がどう見られているかについて考えさせる事態であった(朝日新聞電子版より)。

第三幕 七月第三週(7月13日~19日)

7月14日を前に、トランプは最後のメッセージをだした。13日、ワシントン郊外のアンドルーズ統合基地で記者団に「ウクライナが切に必要とするパトリオットを送る。」と述べ、送る予定のパトリオットの数は明らかにしなかった。他方、その費用は欧州連合(EU)から米国に支払われると述べた(日本語版ロイター)。
ロシア側も、外交攻勢を続けた。
7月13日、プーチンへのインタビューが行われた。このインタビューは、筆者の知る限り、事前にインタビューが録画され13日にリリースされ、その一部の内容がRTに文字で掲載されたという珍しい形をとっており、ここでプーチンが強調しているのは以下の諸点である。
① 自分は、ロシアと西側の対立は、イデオロギー的なものだと思っていた。しかしソ連邦が崩壊しロシア連邦が後継者となり、西側と同じイデオロギーを採用しても、ロシアを蔑視する西側の態度は変わらなかった。
② ロシアとしての懸念を伝えようとする努力は無駄に終わり、ソ連邦ほどの力を持たないロシアは無視された。西側は、明確に、ロシアに対する地政学的優位を確保しようとしていた。
③ ロシアに反対することすべてが善となった。西側はロシアに対する分離主義、ないしはテロリズムを支持した。キーエフのNATO参加への野心と西側のウクライナに対する武器援助がウクライナ紛争の鍵となる要因となった。
参考:RT掲載のプーチン・インタビュー(7月13日)

いよいよ運命の7月14日がきた。トランプ大統領は14日、ホワイトハウスでNATOのルッテ事務総長と会談した際、記者団からの質問に答え「50日以内に停戦交渉で合意しなければ、非常に厳しい関税、つまり『二次関税』と呼ばれる約100%の関税を課す」と明言した。
フィンランドのシンクタンク、エネルギー・クリーンエア研究センターによると、2022年12月から25年4月のロシアの原油輸出先は中国が47%、インドが38%、トルコが6%だった。議会の法案を主導する共和党のリンゼー・グラハム上院議員は中国、インド、ブラジルを名指しし、「この戦争を終わらせる唯一の方法は、米国経済かプーチン支援のどちらかを選ばせることだ」と訴えた(日経電子版)。

ゼレンスキーは14日、トランプ大統領と電話で協議、「パトリオット」の追加供与につき謝意を表明。「ロシアの攻撃から市民を守るために必要な方法について協議した」とXに投稿した(日経電子版)。ゼレンスキーは更にNATOのルッテ事務総長と電話で協議、ルッテ氏はパトリオットの供与についての米欧協力について詳細を伝えたという(日経電子版)。
7月15日ペスコフ・ロシア大統領報道官は「トランプ氏の声明は非常に深刻だ。その一部はプーチン大統領個人にむけられている。トランプ氏の発言の分析には時間がかかる。必要とあれば大統領自身がコメントする。その決定を待とう」とコメントした(タス、毎日新聞15日20:22配信)。
7月17日ゼレンスキー氏は、開発を進める新型のドローンを米国に提供する代わりに、米国から兵器の供与を求める「メガディール」についてトランプ氏と協議(17日付けニューヨーク・ポスト紙報道。日経電子版)。
しかし筆者は、率直に言ってあれだけ「14日」という予告を高くあげながら、トランプ氏の発表には、この発表によって事態が一挙に緊張することを抑止する力が同時に働いていたと感じた。

① とられるべき措置には「50日」の猶予期間がつけられた。
② ロシアの石油を購入する国に高額二次関税をかけるという案はすでにマスコミの中にフロートされており、その主な被害者は中国・インドであり、関税戦争で決着を求める相手を再度敵に回すことになることの是非はすでに様々な議論を引き起こしていた。
③ 15日トランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団からの質問に答え「ウクライナへの軍事支援で長射程兵器を供与する計画はない」「ゼレンスキーに対し、モスクワを標的にすべきでないと伝えた」と表明した。更に「ウクライナの味方かと質問され、『誰の味方でもない。人類の味方だ。ウクライナとロシアの殺戮をとめたい。これはバイデンの戦争だ。トランプの戦争ではない。私はこの混乱からぬけだすためにここにいる』と主張した」(日経電子版)。

第四幕 七月第四週(7月20日~26日)

事態はウクライナにとって基本的には有利に動いているが、トランプの中には当面様子を見る姿勢もある状況下で、7月20日ゼレンスキー氏は、「停戦の実施に向けて近く三回目のウクライナ・ロシア協議を行うことをロシアに提案した」ことを明らかにした(NHKニュース)。
7月22日ペスコフ・ロシア大統領報道官は第三回協議について「奇跡のカテゴリーに属するような突破口を期待する理由はない。現状ではほぼ不可能だろう。われわれは自らの利益を追求し、当初から設定した任務を遂行するつもりだ」と述べた(ロイター日本語版)
かくて7月23日、三回目のロシア・ウクライナ間の交渉が行われた。場所は恒例となったイスタンブールで、メジンスキーを団長とするロシア代表団も、ウメロフを団長とするウクライナ代表団も過去二回の顔ぶれと同じだった。会合の終了と同時に、それぞれの団長が直に記者会見を行うスタイルも過去二回と同一だった。23日のモスクワでのニュース報道を中心とする会談内容は概ね以下のとおり。

① 会談は約一時間行われ、具体的で、実務的で、建設的だった。ウクライナ側は8月末にも首脳会談を開いて合意を加速するとの意向だったが、ロシア側は、交渉を継続し、署名ができるところまで具体的に詰める必要があると考えている。事前の合意ができていないのに、首脳間でゼロから話し合いを始めるのは得策ではない。現時点で首脳会談を約束することはせずに、停戦のためのメモランダムについての相手方提案を含め、代表団間で交渉を続けることのみが合意された。
② ロシア側はオンラインにより、政治問題・人道問題・軍事問題の三つのサブグループを作ることを提案し、ウクライナ側は検討を約した。
③ ロシア側より、戦闘地域において24時間から48時間、怪我人の撤収等のための停戦を実施することを提案した。ウクライナ側の賛同をえていない。
④ 今回各30名の捕虜の交換が合意され、直に実施された。ロシア側は再び3000名遺体の引き渡しを実施したい旨提案し、ウクライナ側から同様の提案があれば受け取る用意がある。
⑤ 子供引き渡しについては、先回の会合でウクライナ側から330名のリストが手交されロシア側は内容を精査したが、50名は成年者であり、ヨーロッパにいることが解った子供たちもいる。ウクライナからは20名の子供がロシアに返還された。

最終幕 補足事項その1ロシア・ウクライナ両軍の攻撃状況

本号の基本的な事実経過はここで終わる。しかし全体状況を把握するために、どうしても補足説明が必要である。
まず連日のように報道されている戦争の状況である。地上戦については「交通の要諦ポクロフスクに迫ったロシアが押している」というのが多数説のように思えるが、ここではドローンを中心とする双方の攻撃の状況を中心に述べたい。
筆者の全体的印象は、以下のとおり。

① 両軍による戦闘が継続されていること、
② 戦争の地域は、2022年2月にロシア軍が攻撃を開始した時点から二年以上はウクライナ領土内の主に特定地域で行われていたが、
③ 24年8月のロシア領クルスク州へのウクライナによる攻撃、25年6月のロシア全土の軍事基地へのドローン攻撃が始まって以来、基本的には両国全土が相互攻撃の対象となっていること、
④ 実際の攻撃と死傷者報道は、ロシアによるウクライナへの報道が圧倒的主流をなしている。都市攻撃があった場合、民間被害という形でのみ報道され、攻撃目的についての分析報道はほとんどない。

以下は、6月末からの目立った報道である。
▼6月30日 ロシア軍ウクライナに477機の無人機攻撃
参考:ロイター
▼6月30日 ロシア・ルガンスクを開放 Peter Lavrenin 記事
参考:RT
▼7月3日会談直後、キエフ北部でドローン攻撃、キエフ東部で5名死亡(ロイター)。
▼6月末から7月7日の間、ウクライナ各地の徴兵事務所をロシアの無人機攻撃が相次ぎ、3人死亡、80人が負傷。ワシントンポストなどが12日までに報道(共同)。
▼3日から4日、ロシア軍のドローン530機以上とミサイル11発で攻撃。キーウのクリチコ市長は2人死亡と発表。4日ゼレンスキーは「過去最大」と批判(NHK)。(筆者コメント:攻撃の実相は必ずしも明らかではないが、今の交渉の『つまずき』の起点になった7月3日のトランプ・プーチンの会談直後の攻撃と見えることは、やはり注目してよいと思う。)
▼8日一晩でロシア側は、過去最多の無人機730機を投入(日経電子版)。
▼12日 ゼレンスキーはロシア軍が、26発の巡航ミサイルと597機のドローンで攻撃、このうちウクライナ軍は、20発以上のミサイルとほとんどのミサイルを迎撃したと発表(NHK)。
▼15日ロシア国防省、東部ドネツク州で集落2か所を制圧と発表(読売)。
▼15日夜~16日未明、ロシアは、ミサイルとドローン(400機)でウクライナ各地を攻撃。ハルキウ州都ハルキウで民間人2人が死亡、5人が負傷。西部ビンニツァ州で8人負傷(産経)。
▼ 16日東部ドネツク州のドブロピリアの中心部でロシア軍の滑空爆弾攻撃で商業施設や住宅に被害2人死亡、20人以上がけが(NHK)。
▼19日ロシア軍の300機以上のドローン及び30発以上のミサイル攻撃により、南部オデーサで一人死亡、北東部のスムイで大規模停電。ゼレンスキー同日のSNSで発表(NHK)。
▼他方、19日深夜から20日朝、ロシア国防省はウクライナのドローン93機を撃墜と発表(読売)。
▼20日夜から21日朝にかけて、ロシア軍が426機のドローン攻撃を行い、ウクライナ側がうち200機を撃墜と発表した旨、ウクライナ軍発表。
他方、20日深夜から21日朝にかけて、モスクワ一帯やモスクワ南方のカルーガ州など7か所でウクライナのドローン74機を撃墜したとロシア国防省発表(読売)。
▼筆者コメント:7月23日の両国間交渉の後に大規模攻撃のニュースが途絶えているように見えるが、これが事実なのか、何らかの意味があるのかは、やはり気になるところである。

補足事項その2 ウクライナの内部情勢

ゼレンスキー指導部が揺れているという印象がぬぐえない。まずゼレンスキーは、国内人事をかなりの規模で刷新した。目的は様々に定義できるが、筆者の見るところ、完全に親ウクライナで腰が定まっているわけではないトランプとの関係をできるだけ強固にすることが最も重要な目的に見える。
7月17日、最高会議にその骨格を提出し、承認をえた。その絵図面を描き実行したのはイエルマーク大統領府長官のようである。

① 2020年から首相職を務めてきたシュミハリ首相を解任し、後任にスビリデンコ大第一副首相兼経済省(女性)を任命。スビリデンコ氏は鉱物資源協定を米側と交渉した実績があり、アメリカの受けが良いのは確かだと思う。経済の底上げや国産兵器の造作に向け強力な権限をにぎると予測される。
② シュミハリ氏は国防相に異動。ゼレンスキー氏は同氏の経験と実務能力を評価しており、国防省改革が期待されているといわれる。ウメロフ前国防相は、国家安全保障・国防会議書記として引き続き安全保障分野の重要ポストについた。23日の第三回ロシア・ウクライナ二国間協議もこれまで通り、ウクライナ側の代表を務めた。
③ トランプ政権から「民主党寄り」と批判されてきたマルカロワ駐米大使は事実上更迭、後任にステファニシナ副首相(欧州統合担当)の起用(日経電子版)。

ウクライナ国内政治の宿痾として汚職体質があることは、つとに専門家が指摘してきたところである。人事が形をなしたところで、ここに大問題が起きてしまった。
これまで、貴重な武器の横流しを阻止するために米政府が導入させた『国家汚職捜査局(NABU)』がまず政府高官の汚職捜査を行い、その結果を、『特別汚職対策検察(SAPO)』に送検、ここが『高等反汚職裁判所』に起訴するという制度がまがりなりにも機能していた。
ところが7月22日、ゼレンスキー氏はこのNABUとSAPOの権限をそぎ、国家検察が直接汚職捜査を担当しうる法案に署名し、これを成立させた。
23日には、まずウクライナ国内で猛烈な反発が発生、キーウ、西部リビウ、東部ドニプロなどで抗議集会が開かれた。特にキーウでは2000人超が集会に参加「恥を知れ」と連呼した。ドイツとフランスはこの日、「汚職根絶は経済支援の条件」として、法案の撤回を求めた。
24日ゼレンスキーはスターマー首相と電話で協議し、「司法改革に向けた取り組みを進める」と釈明したが、事態がこれで収まるかどうかは本稿執筆の時点では明らかではない(日経電子版)。