東郷和彦の世界の見方第二十一回 ウクライナ和平の動向(その21)
ウクライナへのトマホーク供与の意思表示から一転、ブダペストでの米露首脳会談で問われるトランプ氏の和平実現への舵取り。
8月15日のアラスカでの初の米露首脳会談でこれからの大きな道筋が見えたと思いきや、9月24日早朝のトランプのTruth Socialは「ウクライナはヨーロッパ連合の支持により『元の国境線』をとりもどすことができる」というまったく新しい視点が打ち出された。9月29日付けの前号第20号は、このトランプ発言の意味合いを考えるところで、終了した。
第21号の主要テーマは、この劇的な転換の後ウクライナとこれを庇護するヨーロッパからアメリカに対し要求されたトマホーク弾道ミサイルの供与問題が中心となる。トランプはしばらくの間、ミサイル供与の可能性がありうるというメッセージを発し続けた。
しかし、10月16日マスコミ的には突如トランプとプーチンの電話会談が行われ、ハンガリーの首都ブダペストで遠くない将来二回目の米露首脳会談がおこなわれることが発表された。その直後の17日、ホワイトハウスで行われたトランプとゼレンスキーとの会談では、トランプは「トマホークは紛争をエスカレートさせる危険性がある。できればこれを使わずに戦争を終わらせたい」との消極姿勢に転じた。
今後の事態の進展は、ブダペストの米露首脳会談の結果にかかることとなった。最終幕で、この準備について一言述べて本号の結びとしたい。
第一幕 10月2日に行われた二つの会議
第一幕は期せずして10月2日に行われた、欧州NATO側の「第7回欧州政治共同体会議」とロシア側で行われた「バルダイ会議最終日」の、二つの会議を見ることから始めたい。本21号で論ずるすべての問題は、すでに10月2日のこの二つの会議で顕在化したと言ってよいと思う。
第一幕 第一場 第7回欧州共同体第7回会議
この会議はプーチンによる特別軍事作戦が開始されて以降、欧州首脳約50か国の参加を得て定期的に開催されている会議であり、第一回は2022年5月、今回は、約50名の欧州首脳の参加をえてデンマークの首都コペンハーゲンで開催された。
トランプの9月24日早朝のTruth Socialという強烈なメッセージを受けて、会議場は、「ユーフォリア」といってもよい熱気につつまれ、今こそ我々が行動しなければいけない、メンタルにまけてはいけない、的確な対応をしないとこの「機会の窓」をつかみ損ねる等の発言が相次いだ。以下のユーチュウブを是非ご覧いただければと思う(発言は大部分英語、一部フランス語)。
参考:10月2日欧州共同体会議
主な発言は以下のとおりである。
▼デンマーク:メッテ・フレデリクセン首相開会挨拶
ロシアは武力的な攻撃を行い、彼らは強制されるまでやめない、ウクライナだけではなく我々皆に対する脅威、我々に対する戦争は考え得ないということを知らしめねばならない。プーチンは、2022年に戦争を始めた時に、キエフの獲得、ウクライナ政府の放擲、欧州の分断という三つの目的をたてた。どれにも成功していない。4年近く戦ってロシアは失敗した。ヨーロッパは強い。ウクライナの安全の保障はほかの欧州諸国へのモデルとなる。
▼アントニオ・コスタ:欧州理事会議長(元ポルトガル首相)
▼ゼレンスキー 新しい現実が生まれた。ドローン事件はロシアによる戦争の拡大であり、ヨーロッパの分断をめざすもの。それと真逆のことを我々はしなければいけない。全欧州の団結必須。ロシアの石油を買わない。全欧州の課題。ハンガリーも考えるところあるのではないか。本当の安全保障のモデルをつくることが必要。
▼4人のラウンドテーブル(スターマー・マクロン・トスク・サンドゥ)
▼スターマー英国首相 プーチンの欲望は全欧州に及ぶ。空・宇宙・サイバー。我々全体が「自由」を希求し、停戦は永続的なものでなくてはならず、強いNATOと強い欧州経済をつくらねばならない。
▼マクロン仏大統領 アゼルバイジャン・アルメニアの合意が実現し、モルドバでは議会選挙で民主派が勝利した。二か国がNATOに近年参加した(フィンランド、スウェーデン)。年の初めよりも良い状況。米国の支持が強まっている。米国のNATOへの再参加が必要。我々はロシアの宣伝に対抗する。プーチンは交渉に真剣でない。①防空制度強化、②ドローン作戦支援、③長距離ミサイル体制の強化が三つの課題であり、これを財政面も含めて整備する。19の制裁パッケージを準備中であり、特に影の船隊を厳格に調査する必要。調査するだけで、迅速な貨物の輸送ができなくなり効果的。
▼トスク・ポーランド首相 新しいタイプの戦争が始まっている。幻想を持つべきではない。ウクライナへの侵略が第一側面であり、ウクライナが負ければ我々も負ける。ロシアには勝てないという宣伝に屈するのは、不可。これは、メンタリティの問題である。ロシアによる影の船団への攻撃があり、ベロルシアへのオレシュニックの共同演習がある。新しいタイプの戦いである。
▼マイア・サンドゥ・モルドバ大統領 やればできる。やれないという幻想を打破する必要がある。
第一幕 第二場 バルダイ会議
今年の会議はソチで行われ、10月2日の会議は4時間を超える長丁場であり、プーチンの独断場であった。前半は準備されたテキストに従って発言、後半は出席者からのどの質問にも、メモなして答え続けた。基本的には、落ち着いた雰囲気で講演・質疑ともに、淡々と話し、時にはユーモアを交え、非常に細かい戦況について触れ、戦況はロシアに有利に動いていることが強調された。
参考:10月2日プーチンバルダイ会議(英語への同時翻訳あり)
バルダイ会議講演部分
▼アメリカとその同盟国のパワーは20世紀の終わりに頂点に達した(注:1990年ごろ冷戦に勝利しソ連邦の崩壊に直面)「アメリカの出す条件に従え」「これに従わないものは極端者でなにもうまくいかない」。最もしつこい相手には「自らかく自認する世界強国が教育する」「抵抗者は辞任せよ。あなたは何者でもない。」「ロシアを世界システムから排除する」「政治・文化・情報・経済面で孤立化させる」「膨大な制裁をかける」等の圧力が加えられた。
▼しかし「ロシアは屈せず、排除されず」「グロ-バル・バランスはロシアなしに作れない。経済・戦略・文化・兵站なにもできない」「なぜロシアに対するヒステリアを掻き立てるのか」
▼「ロシアがNATOを攻撃しようとしているとは?信じがたい。おちついて。今相手が、単に声を出すだけなのか、具体的行動をとるのか、見ている。ロシアの反応は早い。弱さは受け入れられない。未決定も受け入れられない。安全保障の不可分性を一貫して主張してきた。相手は、冷戦に勝利した後、安全保障について主観的で一方的な概念に導かれた。これがウクライナだけではなく20世紀、21世紀の紛争の根本原因。
▼すべての文化と文明はその貢献をしなくてはいけない。ウクライナをロシアに対しけしかけ、そこでナショナリズムとネオナチズムをけしかけた人は、ロシアの真の利益やウクライナの国民の真の利益を考慮に入れていない。
▼ウクライナがバイデン時代真の独立をたもっていれば、事態はちがっていたかもしれない。相手側は、地政学的利益を希求。これはイデオロギー上の争いとはまったくちがう。解決には、すべての当事者が自らの利益、無視のできない客観的主観的事情を持つことが考慮されねばならない。ウクライナ、ロシアその他の国に当てはまる。全員が受け入れられる協力のモデルが必要。
▼しかし、NATOはそのインフラ組織をもってロシアの国境線ににじりよった。2014年の革命の際、祖先から引き継いでいた領土でロシア(系ウクライナ)人の殺戮を行った。欧州と前政権までのアメリカは、グローバルな多数の国と意見が違った。今我々と意見を同じくする多数の国がある。事実上の非植民化が動いている。
▼今のロシアと今の米国政権との関係はモデルたりうる。多くの意見のちがいがある。しかし話し合いで差を縮める。率直に意見を言う。それはよいことだ。それぞれが、自国利益を希求して発言。これは合理的。ロシアにも自国の利益あり。相手を敬意をもって扱い、差を少なくしていく。これならよい。
▼多極性又は政治中心主義が現実。長期的にそうなっている。ロシアには人種偏見的アプローチはなかった。我々は多様性、政治的融和、価値の交響楽を求める。OSCEの意義。ヨーロッパで意義があった。露中の国境調整。ロシア、インド、中国、ブラジル、アフリカ BRICSなどにおける新しい協力関係が拡大している。
バルダイ会議質疑応答
▼(トランプのSNSで「張り子の虎」と名指されたことについて)戦況はロシアに有利。そのロシアが張り子の虎ならこれに負けているヨーロッパとウクライナは更なる張り子になる。最も重要なことは自信をもって冷静でいることだ。
▼ウクライナで逃亡兵が急増している。ロシアは自発的志願兵。ウクライナは1月から8月、15万の逃亡兵。路上からさらわれる。
▼イデオロギー的問題があるのはわかる。冷戦期に東ヨーロッパに政治制度を押し付けた。(これに対する不満は)すべて理解できる。しかしソ連がナチズムと戦って莫大な数のロシア兵が死に、戦いに勝利したこととは、なんの関係もない。なぜ嘗てのロシアの功績を認めないのか。
▼(プーシキンの引用、ポーランドが犯した政治的判断ミス、ガザ他中東問題、ロシアへの亡命者の受け入れ、マイケル・グロスというロシアのために戦って死んだアメリカ人青年の意味、対ロシア新制裁、ウラン貿易、ザポロジエの原子力プラント等多義にわたる問題に応答)
▼(EUについて)元は経済協力についてやってきた。今はまず力が薄くなっている。でもなんらかの形で残るだろう。残らねば消える。我々の愛したヨーロッパが消えつつある。そういう意見に賛成する人が多い。
▼アラスカ会談はウクライナ問題のみ。よい会談だった。トランプは話すに心地が良い。彼は聞き上手。解決を見出そうとしている。大事なことだし、最低のレベルにあった米露関係は再建する過程にある。
▼(アナトリー・レーベン「レスポンシブル・ステートクラフト誌」:トマホークについて質問:最も重要な応答だと思う。)
トマホークは危険で強力な武器。もちろん戦場におけるバランスを変えない。ウクライナの軍で一見不可侵の防御線をつくっても、兵員がいなくなり戦う人がいなくなればもう戦えない。
我々の軍は進んでいる。ATACMSはどうだったか?一定の損害を受けたがロシア側はこれに適応した。トマホークは我々に害を与えるか。与える。しかし、我々はそれを打ち落とし我々の防御線を改善する。
だが、トンネルの先に光が見えた関係を変えるか?もちろん変える。なぜなら、アメリカ軍の直接の参加なしにトマホークを使うことは不可能だからである。これは米ロ関係を全く新しい(対立)関係とする。
▼公海でロシアの貨物を載せた船舶を拘束することは海賊行為だ。海賊は撃沈する。これは戦争ではない。しかし衝突の危険性はつよまる。
▼(グレン・ディースン:スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について質問)
なぜこの両国がNATOに参加したか。うまくいっていた。ロシアが彼らに脅威を直接与えたこともなかった。ルソフォビアの宣伝にのった(感情を抑えきれない様子)
第二幕 トマホーク供与の可能性高まる(10月3日から15日)
まずゼレンスキー側とトランプ側は、対話の密度をあげ、プーチン批判を高めていった。下のような動きがあったようである(日経電子版より)。
▼6日トランプ氏は供与について「ほぼ決めた」と話し、「ウクライナがどう使うか、どこに配備するのか確認する必要がある」と発言した。
▼11日ゼレンスキー氏は、通信アプリに、トランプ大統領と電話協議をした旨明らかにした。ガザの停戦につき「トランプ氏がなしとげた」と祝意を伝達。「ロシアと(ウクライナ)の戦争も終わらせることができる」と訴えた。
▼12日ゼレンスキー氏は、トランプと電話協議をした旨通信アプリに投稿。二日連続ということになる。同日放映された米FOXニュースのインタビューで、トマホークの攻撃対象について「軍事目標に限り、民間人は対象にしない」と強調した。
▼13日ゼレンスキー氏は、17日に訪米し、トランプ大統領と会談する旨記者会見で明らかにした。「ウクライナの防空と、ロシアに圧力をかけるための長射程の攻撃能力が主要なテーマになる」と発言した。
▼14日トランプ氏は、ホワイとハウスでアルゼンチンのミレイ大統領との会談冒頭に記者団の質問に答え「私はウラジーミル・プーチンと非常に良い関係を築いていた。非常に失望している。なぜ彼がこの戦争を続けるかわからないし、最悪の結果をもたらした」と述べた。
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それでは、プーチン側の動きはどうだろう。まず10月3日から9日までを見てみたい。それには、Larry Johnson (元CIAの分析家、次いで国務省のテロ対策アナリスト、1993年より民間で政治安全保障のブロガー)が『10月9日の自身のブログ』に書いた記述が参考になる。
参考:Larry Johnson 氏ブログ
▼プーチン大統領、ロシア外務省、ロシア軍の将軍たちが「同じメッセージ」で話し始めたら注意を払った方がよい。
▼10月8日セルゲイ・リャブコフ・ロシア外務省次官は、ロシア・メディア等に見解を述べた(タス他)。米国からの、ウクライナ紛争及び制裁に関する相互性の欠如が指摘された。特に、アメリカとロシアとの間の直接のフライトが復旧されず、ロシア資産の凍結解除が進まず、外交関係の正常化が進んでいないことが指摘された。
▼リャブコフは、「米ロ関係は、建物にひびが入り、そのひびが建物の基礎に到達しており、その責任は一方的にアメリカ側にある」「建物は立てるよりも、壊す方が簡単である」「長い間米露間では建物を建てる努力が行われてこず、関係の悪化のみが続いていた」等指摘した。
参考:プラウダ(10月8日 リャブコフメッセージ:アメリカ側に関係改善の意図なし)
▼リャブコフのコメントは、10月2日のバルダイ会議に端を発するトマホークのウクライナ供与を警告するプーチン大統領の発言に「感嘆符!」を付加するものである。更に10月7日ドミートリー・ペスコフ大統領報道官は、トマホークの供給は、「深刻なエスカレーションを招き」「ロシアは適切に反撃することになる」と補足した。
▼これに加えて軍幹部の評価がある。10月7日軍幹部と大統領との会議で、ゲラシモフ参謀総長は、「ロシア軍が特別軍事作戦に従い全方面で前進している」と総括したうえで、南方軍団、西方軍団、北方軍団にわけて、各軍団の前進を具体的に述べ、それが、RIAノーボスチ、TASS、イズヴェスチア等で報道された。
参考:プーチン大統領と防衛省幹部との懇談(英語翻訳あり)
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ついで、10月10日から15日までのロシア側の動きについて。この間については、10月13日から15日までタジキスタンの首都ドゥシャンベで開催された独立国家共同体(CIS)首脳会議にプーチン大統領が出席し、すべての行事が終わった後に行った記者会見がある。この会合自体、これからのユーラシア情勢を考えるうえで興味深い点がいくつもあったが、本稿では、ウクライナ情勢に関係するプーチン発言のみを紹介するにとどめたい。
▼(アンカレッジ合意の潜在性はすでに組みつくされたという見解がロシア側の要人から発せられたが本当か)我々はアンカレッジで何が合意されたか完全には明らかにしていない。我々は一般的に交渉によって平和的に解決する双方の基本姿勢をあきらかにした。これは非常に難しい問題だ。お互いに仲間と相談しなくてはいけない点もある。しかし、我々はアンカレッジで議論したことを基礎としている。
▼ (ゼレンスキーがトマホークの供与に固執していることについて)我々の答えはロシアの航空防備制度を強化することにある。
▼(トランプのノーベル賞受賞について)私が判断することではないが、しかし四年あるいは十年続いている問題を解決することは本当にむずかしい。しかしトランプ大統領は戦争を終わらせるために誠実に努力している。成功した点もあるし成功していない点もある。たぶんアンカレッジの合意を基礎にやれることはまだたくさんある。彼は確かに解決しようと真剣である。
(ゼレンスキーはトマホークを供するならノーベル賞を供与すると言ったが)まず、ノーベル賞委員会は、今のキエフ支配者の意見に関心はないだろう。次に、武器の供与をもってノーベル賞を供与するというのはまったくおかしな話であり、今のキエフ支配者の水準(の低さ)を現している。
参考:10月10日 プーチン大統領の記者会見(英語翻訳あり)
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またラブロフ外務大臣は、10月15日掲載で「コメルサント」誌にインタビューを掲載した。
ラブロフ・コメルサント・インタビュー 10月15日18:05
多義にわたる極めて興味深いインタビューであるが、ウクライナ戦争とトマホーク関連についての要点は以下のとおり。
▼(アンカレッジ合意の存続可能性がないことの証左としてウクライナはアメリカからトマホーク供与を求めているのか)両者は全く別問題である。トマホークに関するトランプの答えは、アンカレッジ合意の存続性とは関係がない。
▼ (ゼレンスキー側は何をねらっているのか)彼らはトランプの内的確信、ウクライナに対する直感的アプローチを放棄させようとしている。そして欧州におけるもっとも強い「対ロシア恐怖症」の人々の立場を強要しようとしている。私はヨーロッパがこのような向こう見ずなアプローチをアメリカに対してとるとは思ってもみなかった。
▼ (17日金曜日にトランプはゼレンスキーに会う予定である。ロシアとアメリカは最高レベルで話し合うことはないのか)あらゆるレベルで米露間の実務的接触は続いている。トマホーク問題についてトランプはごく最近この問題についてたぶんプーチンと話さねばならないと言った。彼らは、我々が常に対話の窓を開いていることを知っている。
▼ (ロシアは、アメリカにトマホークの危険性を説得できるのか?)我々はこの武器が危険であることを説明するためにサミットを要請したことはない。アメリカ側は利口な人たちであり、もし供与が行われれば、これが米露関係を新状況に変えることになることはわかっていると思う。すべての専門家はこの武器が生産国の技術者なしに操作できないことで一致している。バイデンの戦争をトランプの戦争にする以上に、きわめて危険な米露関係の悪化がもたらされる。
参考:ラブロフ外相インタビュー
第三幕 ブダペスト会合の開催へ(10月16日から17日)
しかるにここでまた、事態は急転直下する。10月16日トランプ大統領とプーチン大統領は電話会談を行った。クレムリンのウェブサイトにウシャコフ大統領補佐官が発表した主要点は以下のとおり。
10月16日21:20 ウシャコフによるプーチン・トランプ電話会談ブリーフ。
▼ 会談は二時間半に及んだ。
▼ウクライナ危機について特別の重点がおかれ、プーチン大統領は、平和的で外交的な解決を求めていることを強調した。
▼ トマホーク供与の問題にも触れられた。プーチン大統領は、この供与は戦場における状況を変えるものではないが、米ロ関係及び事態の平和解決を著しく損なうと述べた。
▼ 両国の代表は直に協議を始め、ブダペストで開催しうる首脳会談の準備を開始する。
▼ 注:本件協議はロシア側が要請した(日経電子版)。
参考:ウシャコフ大統領補佐官発表(英語翻訳あり)
一方トランプも10月17日2:11自らのTruth Socialにブタペスト首脳会談に合意したことを投稿した。
主要点は以下のとおり。
▼ プーチン大統領と大変生産的な電話会談を行った。
▼ プーチン大統領は中東における和平の成功を祝した。私は、(この経験は)ウクライナ戦争を終結させる助けになると思う。
▼ 我々はウクライナ戦争が終われば、ロシアとアメリカの貿易が大きく発展することについても多くの時間を使った。
▼来週両国の高官協議を行い、アメリカ側はルビオ国務長官他が参加する。その後、両首脳は、ブダペストでロシア・ウクライナ間の戦争を終わらせられるかどうかについて話し合う。
▼ 明日(17日)私はホワイトハウスでゼレンスキー氏と会談する。
参考:トランプ大統領SNS投稿
更にオルバン・ハンガリー大統領がしっかりとこの流れに組み込まれた。
10月17日13:30
▼ ウラジーミル・プーチンは、トランプ大統領との話し合いの主要点をブリーフし、今後の米露間の接触で双方の代表が平和的解決のための段取りにつき話し合うことを伝えた。その際、米ロ首脳会談をハンガリーの首都で開催することが念頭に置かれる。
▼ビクトル・オルバンは、露米首脳会談を開催する用意があることを表明した。
参考:プーチン・オルバン電話会談についてのクレムリン発表(英語翻訳あり)
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10月17日、以上の米露間の話し合いが終了した直後に、ゼレンスキー大統領とトランプ大統領との会談がおこなわれた。
この日トランプとゼレンスキーとの会談は、ホワイトハウスで、ワーキングランチの形で行われた。冒頭の約60分、記者団からの質問を受ける形になり、それがユーチュウブで公開されている。
参考:トランプ・ゼレンスキー会談冒頭会見
両大統領にすさまじい勢いで浴びせられる質問に対する両大統領からの回答の本質はなかなかわかり難かった。しかし、筆者の見るところ、最重要点は以下のとおり。
▼ トランプは、昨日の電話でプーチンも戦争をやめたがっており、今がやめる好機だということを強調した。ゼレンスキーも、中東の戦争を止めた今こそ戦争をやめる大きな機会であり、プーチンはやめたがってはいないが、トランプの力でそれを実現する大きな機会だと述べた。トランプは、プーチンとゼレンスキーの間には強い相互不信があり簡単ではないが、改善されればと願っていると述べた。
▼トマホークについてトランプは、最初は明言を避けていたが、結局「これは非常に危険な武器である。きわめて正確に目標に到達する。これを使えば紛争がエスカレートする危険性がある。願わくは(hopefully)、これを使わないで戦争が終わってほしい。アメリカとしては、トマホークはほかに使わなければならない場所もある」と消極姿勢を示した。
▼ ゼレンスキーは、「武器は総合的なものである。ウクライナは多数の性能の高いドローンがある。しかし、トマホークはない。だからトマホークがほしい。代わりに、多数のドローンをアメリカに供給する用意がある」と述べ、依然として、トマホークに執着していることを明らかにした。
注:トマホークは今世界の注目の対象になっているが日経電子版による、ポイントは以下の通り。
▼ 現在ウクライナが保有する射程が最長の米製兵器は、300キロメートルの地対地ミサイルATACMSだ。
▼ 米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、最長2500キロメートルのトマホークの射程に入るロシア軍事施設は、少なくとも1945か所、射程1600キロメートルなら1655か所は存在すると分析する。
▼ もしトマホークが配備されれば、ロシアのモスクワ他、サンクト・ペテルスブルグも射程範囲に入る。ウクライナにとっては戦況を大きく変える「ゲームチェンジャー」になりうる。
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10月17日会談終了後ゼレンスキー大統領は、NBC News “Meet the Press”に出演しトマホーク問題について問われ、「トランプの真意はわからないが、今日のところ「イエス」とは言わなかったが「ノー」と言わないことはよかった」と述べた。
参考:NBCニュース
最終幕 とりあえずの現状分析
▼まずは、ブダペスト米露首脳会談がどのように行われるかが次の課題である。
▼ 会談の成否は、16日に直に始まったはずの高官会議の進捗にある程度かかってくる。ロシア側からは、ラブロフ外相、リャブコフ次官、ウシャコフ大統領補佐官他が、アメリカ側からはルビオ国務長官、ウイトコフ特別代表、キリル・ドミトリエフ氏他が出席するはずである。この中で最も役割が重いのは、ウイトコフ特別代表である。彼だけが両方の大統領の信頼を得た交渉者だからである。ロシア側でその役割が果たせるかもしれないのは、キリル・ドミトリエフ(プーチンとは家族付き合い、アメリカ側では少なくともウイトコフと極めて近い由)かもしれない。
▼ 最も難しいのは、プーチンが、「根本問題」(Root Causes)の解決が必要とする立場を一歩も変えていないことが想定されることである。そうだとすれば、停戦に一歩でも近づくためには、準備会合でラブロフはブリオから、「(A)ロシアにとって必須の根本問題の中からウクライナが譲歩できるものは何か」をウクライナ側から引き出し、「(B)ウクライナにとって絶対に必要なことで、ロシアが譲歩できるものは何か」をウクライナ側に伝えてもらわねばならない。
▼ 例えば(B)「ロシアはウクライナの安全保障を担保するために真剣に協力し知恵をしぼる用意がある」ことをウクライナに伝えること、(A)ウクライナは「ロシアもまた自国の安全保障を担保するための保障を求めていることを理解できないか」をウクライナ側と話してみることを高官会合でまずは合意できないだろうか?
▼ もしもこの「本丸」の議題が実施できないなら、もっと合意しやすい問題、(A)ウクライナ国内のロシア系住民の言語・文化・宗教などの問題でのウクライナ側からの譲歩をひきだす、(B)これに見合ったロシア側からの譲歩として、ロシア占領地域におけるウクライナ語とウクライナから見たウクライナ歴史の勉強の義務化と言ったものは話し合えないだろうか。
▼ いずれにせよ、このような議論を繰り返していく中から、「誰が今戦争を続け自分の側の勝利をめざし、誰が今一刻も早く交渉と相互譲歩による平和を求めているか」がわかってくるはずである。トランプがそれを正しく分かったなら、抵抗勢力に強い力を加えることによって戦争は短期に解決するはずである。ルビオ他とラブロフ他の責任は極めておおきいといわねばならない。
▼ トランプがその判断を間違えたなら、欧州は、取り返しのつかない、第三次欧州大戦に入るかもしれない。それは血みどろの欧州戦争になるだけではなく、核使用の閾値が下がるという極めて危険な戦争になる。一度始めた交渉は成功させねばならない。双方がその存在をかけて戦っている以上、始まった交渉が失敗することは、一方または双方に対する壊滅的損壊が発生する危険性があるからである。