東郷和彦の世界の見方第二十三回 ウクライナ和平の動向(その23)

▼バックナンバー 一覧 2025 年 11 月 27 日 東郷 和彦

欧州、ウクライナの思惑で、トランプ28項目和平提案は潰されるのか?

11月4日をもって校了とした前号第22号のあとウクライナ情勢に関する報道がいささか減少したかに見えた。日本における報道ではむしろ、10月21日に成立した高市内閣の動向への注目が一挙に高まってきた。高市内閣の対ウクライナ政策については前号で筆者も注目したが、トランプという、「戦争終結派」がいるにもかかわらず、バイデン時代と同じ「ウクライナとともにある」という政策を墨守するということが明らかになった。筆者としては理解に苦しむのだが、そうと決まると大きなニュースではなくなった。
そういう状況の中で一つだけ大きな注目を集めるようになったのが、ウクライナ内部の汚職問題だった。本23号ではその後にダイナミックな動きが始まるが、まずは、汚職問題を振り返っておきたい。

なお時間のない方には、最終章、特に第三項なりともご覧いただければ幸甚である。

第一幕 ウクライナ汚職問題(11月10日~)

事態が明るみに出たのは11月10日、政府高官の汚職犯罪に特化して捜査を行う国家汚職対策局(NABU)により、ゼレンスキーがコメディアン時代に創立した「クバルタル95(95街区)」の共同オーナー・ティムール・ミンディッチ氏の家宅捜査が行われ、その直前に同氏が国外逃亡した衝撃的な事態から始まった。ミンディッチ氏は、近年は防衛、エネルギーや金融、メディアなどの企業グループを経営する実業家として事業を急拡大していた。
11月12日ゼレンスキーは、国営原子力企業エネルゴ・アトムの契約に絡む汚職疑惑をめぐり、ハルシュセンコ司法相(前エネルギー相)とフリンチュク・エネルギー相に辞任を要求した。地元では今回の事件はNABUが15か月の内定をへて10日に本格捜査をしたと報道された(日経電子版)。

更に11月10日のミンディッチ逃亡の背景ともいうべき事案が次々に報道された。一つは、コロモイスキー事案である。
参考:11月14日 RT

元ゼレンスキーの擁護者のKolomoysky氏はすでに2023年以来、Privat Bank の不法取得容疑で裁判前拘留中だったのが、NABUによって何回かの尋問をうけ、その後に近親者に対し「良いムードで」「これでゼレンスキーは終わりだ」と語ったとされる事案である。『コメント』事態がゼレンスキー自身に及ぶほど汚職の根が深いことをNABUにしっかり伝えたということであろう。
更に、もう少し後になると、これについてのプーチン発言がでてくる。
参考:11月20日 RT

RTはプーチンの発言として「ウクライナは金の便器に乗った犯罪集団によって統治されている」ということを、ウクライナ戦線の指揮所を訪問した際に述べたと報じた。「金の便器」とは、メンディッチが使っていたと揶揄されていたものである。しかもその報道の中で、関連した容疑をかけられている中に、イェルマルク大統領府長官、ウメロフ安保会議書記、チェルヌイシェフ副首相という、正に政権の中枢にいる人たちの名前がでてきたのである。地元報道では、多数がそういう報道を行っていたようである。
ウメロフの名前は、第二幕に登場する28項目をアメリカで検討した人の中にはいっていたし、イェルマルクに司直の手が及べば、まさにゼレンスキー体制の根幹がゆらぐことになる。そういう状況の中で以下のとおり、28項目が出来上がったことは留意する必要があると思う。

第二幕 トランプの28項目提案(11月19日発表)

ウクライナ問題は、トマホーク発射に対するロシアからの徹底した拒否反応はひとまず受け入れられる一方、トランプになってから初めての本格的対ロシア制裁(ロスネフチ及びルクオイル)が発動され、ブダペスト交渉は霧につつまれた状況が継続しているかに見えていた。
ところが実際はそうではなかったのである。筆者が最初にそのことを知ったのは、11月21日14:12、ラリー・ジョンソンという元米国で諜報の仕事をしており、現在国際情勢特にロシア情勢についてしばしば興味深い分析をしている評論家から「いわゆるウクライナとロシアとの28項目の平和提案」というメールが送られてきた時が最初であった。
調べてみると、11月19日に米国ウェブ雑誌Axiosに「スクープ」として同誌記者Barak Ravid氏とDave Lawler氏が経緯と導入をかき、その後に、28項目全文が掲載されていたようである。

導入部と経緯の主要点は以下のとおり。
▼28項目は、「ウクライナにおける平和」「安全保障の保証」「ヨーロッパにおける安全の保障」「米国とロシア及び米国とウクライナの未来」の四つに分けられる。
▼トランプの特使であるスティーヴ・ウイトコフ氏とロシア側のキリル・ドミトリエフ氏との間で主に交渉が行われた。ドミトリエフ氏は、10月24日から26日までマイアミを訪問し、そこでウイトコフ氏他と交渉したようである。
▼ ウイトコフ氏は19日にトルコでゼレンスキー大統領と会談する予定であったが、それは延期された。ウイトコフ氏はマイアミで、ルステム・ウメロフ安全保障会議書記とも懇談したようである。
▼ ドミトリエフ氏は、Axios誌に対し、基本的理念は、プーチン・トランプ両大統領がアラスカ会談で合意した原則に立脚し「ウクライナ紛争について交渉し、露米関係を元にもどし、ロシアの安全保障への懸念に対処する」ための提案を行うことであると述べた。

アメリカの28項目提案は、11月20日、ウクライナを訪問した米陸軍のダニエル・ドリスコル長官によって、ゼレンスキー大統領に手交された(ロイター他多数報道)。
アメリカが提案した28項目は、その後「インテリニュース」がベルリンで活動中のベン・アリス氏のコメントを付して全文を報道した。
参考:アメリカの28項目提案

11月21日 28項目本文インテリニュース(ベルリンで活動中のベン・アリス氏のコメントを付与)
その後様々な分析家が全体コメント、逐条コメントを発表しているが、筆者が見るところで最も興味深い「和平・安全保障・領土」に関する主要点は以下のとおりである(本文書の日本語訳は、下斗米伸夫教授の『メディアウオッチ100』の『特報:モメンタムは平和の方にある(11月21日)』から、原文確認のうえ、活用させていただいた。感謝を込めて)

第1項目から第10項目まで概ね安全保障の根幹にかかわることが列挙されている。
▼ ウクライナの安全を保障する項目としては、「ウクライナの主権の保証(第1)」「ウクライナは信頼できる安全の保障を得る(第5)」。
▼ ロシアの安全を保障する項目としては、「ロシアは隣接国に侵攻しないことが期待され、NATOはこれ以上拡大しない(第3項目)」。『コメント』若干ロシアに甘い。なぜなら、ロシアによる「不侵攻」は「期待される」とトーンダウンされているのに対し「NATO不拡大」は義務的に表現されているからである。
▼ 「ウクライナ軍の兵員数60万制限(第6項目)、「ウクライナのNATO不加盟の憲法明記、NATOのウクライナ非加盟の定款明記(第7項目)」「NATOはウクライナに軍隊不配備(第8項目)」『コメント』すべてウクライナに厳しい。ここはロシアにとって「根本原因」の中で絶対に譲れないところである。
▼ 米国による双方への保証(第10項目)「ウクライナがロシアへ侵攻したらウクライナは保証を失う」「ロシアがウクライナに侵攻したら、断固たる、連携された対応がとられるとともに、グローバルな制裁が復活され、領土そのほかの領土的利益はすべて喪失される」「ウクライナがモスクワ又はサンクトペテルスブルグに理由なくしてミサイルを発射したら、安全の保障は無効とみなされる」『コメント』逆にこの項目は、総じてロシアに対する縛りがはるかに厳しく書かれている。

第20項目は、ロシア側がかねてから主張してきた在ウクライナにおけるロシア系ウクライナ人の権利保護問題に関する教育・宗教・言語の問題が取り上げられている。『コメント』一読すると、総論として反対しにくい表現がならんでいるように看取される。しかし実際の「約束履行」の段階に入ったときには、多くの差異が露呈しかねないかもしれない。
▼ 両国は、異なる文化への理解と寛容、人種差別と偏見の排除を目的とした教育プログラムを学校と社会で導入することにコミットする。
▼ ウクライナは、宗教的寛容と言語的少数派の保護に関するEUの規則を受け入れる。
▼ 両国は、すべての差別的な措置を撤廃し、ウクライナ及びロシアのメディアと教育の管理を保障することに合意する。
▼ すべてのナチス・イデオロギーと活動は拒否され、禁止れなければならない。

第21から23項目は、最も関心がもたれる領土についての提案である。第21項は「領土」と題され、第22項はそれに重みをつける条項になっている
▼ クリミア、ルハンスク、ドネツクは、米国を含む国々によって事実上(デ・ファクト)ロシア領として承認される。
▼ ヘルソンとザポリージャは、接触線に沿って凍結される。これは、接触線に沿った事実上の承認を意味する。
▼ ロシアは、五つの地域外で支配しているほかの合意された領土を放棄する。
▼ ウクライナ軍は現在支配しているドネツク州の一部から撤退し、この撤退ゾーンはロシア連邦に属する領土として国際的に認められる、中立的な非武装緩衝地帯とみなされる。ロシア軍はこの非武装地帯に入らない。
▼ 第22項:将来の領土協定が合意された後、ロシア連邦とウクライナは、力ずくでこれらの協定を変更しないことにコミットする。このコミットに違反した場合、いかなる安全保障の保証も適用されない。

『コメント』非常に興味深い提案である。
① まず4月アメリカ案にあった「クリミアはデジューレ」「それ以外はデファクト」という区別がなくなりすべてが「デファクト」になっている。これはウクライナにすればはるかに飲みやすい処理である。
② 次にヘルソン・ザポリージャについては、接触線に沿った事実上の凍結であり、これは今のロシア側の立場(四州同等)からは相当の譲歩をせまられるものである。しかし、ドンバスとは明らかに違った経緯でロシア連邦に併合された二州に対する差別的対応として理解しうるともいえよう。
③ 次の項目で「ほかの合意された領土」が何を意味するは筆者には必ずしも明らかではないが、しかし、「ロシアは五地域以外からはすべて撤兵」ということはウクライナにとって明白にプラス要因であり、一部西側が絶えず流している「ロシアによるウクライナ及び欧州制覇の可能性」に対する全面否定となっている。
④ 最も興味深いのは、ドネツクにおけるロシアがいまだ占領しきっていない地域の扱いである。「ウクライナは自分たちがまだ占領しているところから兵をひくけれども、そこはいわゆる緩衝中立地帯として今後ロシア軍は入らない」というのは、まさに「双方痛み分け」の案であり、筆者にはよく考えられた案に見える。「ロシア連邦に属する領土として国際的に認められる」という表現は「デファクト承認」の枠外を意味するものではないことは明らかだと思うが修文が必要かもしれない。
⑤ 第22項は完全平等にロシアとウクライナに適用される、すべての条項の中で最も重要な一項目と言ってもよいと思う。

▼もう一つ重要な意味をもつのが、第14項目の「凍結された資金の活用」である。「凍結されたロシア資産のうち1000億ドルが、米国主導のウクライナの復興及び投資の取り組みに投資される。米国はこの事業の利益の50%を受け取る」とあるのは、「EUによる没収手続を不可能にすることを意味する」(下斗米伸夫『メディアウオッチ「外堀は埋まった」11月24日』より)。ゼレンスキー・欧州側の反発の大きな要因になりうるということであろう。

第三幕 ロシア側の反応(11月21日)

以上の分析を見れば今回のアメリカ和平案は四月和平案とは比較にならない詳細なものであり、かつ、ロシア・ウクライナの間の利益の均衡をはかったものであることが浮かび上がると思う。当然ことの重大性を察知したクレムリンは、直に重大声明を発表した。
参考:11月21日 ロシア大統領府声明

クレムリン安全保障会議におけるプーチン大統領のアメリカ提案に関する評価の主要点は以下の通り。この安保会議は、ズームによって開催、最初にプーチンがこの日の議題二つを提示。これに対しマトヴェンコ首相が、アメリカ提案の評価を質問、プーチンより、カメラに向かって全くメモなしで主要点以下の通りの発言が行われた。自動翻訳で即座に英語になるので、是非お読みいただきたい。
▼トランプ大統領からの和平提案は、アンカレッジ首脳会談前に我々に行われ、我々に一定の譲歩を求めてきた。我々は、一定の難しさはあるもこれに賛成した。
▼しかしその後アメリカ側に一定の「休止」が始まった。それはウクライナが、トランプ提案を事実上拒否したからである。今回修正提案としての28項目提案が公開されたのは、そのためだと思う。
▼ 我々はこの提案を現在の連絡チャネルで受け取ったが、まだ詳細を(相手側と)議論していない。それはアメリカ側がウクライナの同意をまだ取り付けていないからである。ウクライナと欧州の同盟国はいまだに、戦場でロシアに勝利しうるという幻想の下にいる。それは能力の不足というよりも、客観的な情報が不足しているためだと思う。ウクライナも欧州もこのことが最終的にどういう事態を引き起こすかを理解していない。
▼(としてクピャンスクにおけるウクライナ側の敗退の例を説明のうえ)このことはキエフ政権が客観的な情報を持っていないか、あるいは持っていてもそれを客観的に評価できていないことを意味する。
▼もしもキエフ政権がトランプ提案を検討することを欲しないのであれば、キエフ政権と欧州の戦争屋は、クピャンスクで起きたことが不可避的に前線のほかの鍵になる部分で起きることを理解すべきだろう。
▼ 全体として我々は統合軍事区域で軍事力により目的が達成されていることに満足しているが、同時に我々は、平和交渉と平和解決の用意がある。それには、(今回行われた)提案の詳細についての実質的な討議が行われなければならない。我々はその用意がある。
▼ 『コメント』11月23日のアレクサンドル・メルクーリ氏のYouTubeコメントは、このプーチンの発言の重要性を指摘してやまない。プーチンは交渉による話し合いには応じるが、若しもウクライナが交渉に応じないなら結果は戦場でけりをつけると予告しているというわけである。
参考:11月23日 メルクーリ英語コメント(開始後約16分からご覧いただきたい)

第四幕 アメリカ・ウクライナ協議(11月23日~24日)

さて事態の展開は非常に早かった。トランプは21日ラジオ番組に出場し、28項目へのウクライナ側回答をいつまでにもらうのが適当かという質問に対し、27日(アメリカで感謝祭)までだと回答した。
他方同じ21日ゼレンスキーは国民向けの演説で「ウクライナは極めて厳しい選択をせまられている」と述べ、具体的には、「尊厳を失うか、重要なパートナー(米国)を失うリスクを負うかだ」と表現し、案の内容がウクライナにとって受け入れがたいものであることを強調した(以上日経電子版他報道多数)。
かくて11月23日、ジュネーヴの米国の国際機関代表部にて米国・ウクライナ協議が開催された。アメリカ側からはルビオ国務長官、ウイトコフ特別代表、ドリスコル陸軍長官、ウクライナ側からは、イエルマーク大統領府長官他が出席(日経電子版)。(『コメント』汚職スキャンダルから結局ゼレンスキーはイエルマークを守り切ったようである。)加えて欧州からは、仏・英・独の国家安全保障補佐官、EU及びイタリヤの代表も参加した(ロイター)。

11月23日会談終了後ルビオ国務長官は「大きな進展があった」と述べた。8分ほどのルビオの記者会見の様子を見ると、「最も生産的な日、大きく前進した、差を縮めた、残っている問題は克服不可能ではない、我々の理解し得たロシアの立場を踏まえて最初の案をつくった」「協議はしばらく続く」等の言葉が並んでいるが、具体的な点にはふみこんでいない。中身が何も発表できないのにかくも雄弁に「有意義だった」と発表するのはどういう判断なのか知りたいと思ったが直には把握するすべはなかった。
参考:11月23日 ルビオ国務長官記者会見

更にホワイトハウスは11月23日、米ウクライナの共同声明を発出した。ウクライナの立場をしっかり守る点が強調されてはいるが、具体的な合意は何も明記されてはいなかった。「ロシア寄りとの批判をかわすために、ウクライナ支持を力強く表現する」ことが目的なのかと看守されたが、それ以上に、明確な感想は浮かんでこなかった。
参考:11月23日 ホワイトハウス発表:アメリカ・ウクライナ共同声明

最終幕 事態の急変(11月24日~26日)

さて、本日11月25日、ジュネーヴにおける最終合意らしきものに関する諸情報が入ってきた。もちろん情報間の時間差もあるし、確度が必ずしも明らかでないものがある。それでも、基本的には、28項目にみられた「双方の立場をいかそう」という立場は消失し、ウクライナの立場で全体を作り直す新提案であることは明らかに見える。
ルビオが「これから更に改善をほどこし、建設的な案をつくれる」ということが、ウクライナの考え方を全面的に取り入れた案に切り替えるということなら、正にそれが達成されたことになる。
言うまでもないが、28項目でもロシアがすんなり飲めないところはたぶんあるのに、このウクライナの立場に立つ案なら、プーチンがこれを交渉の基礎として受け入れることはおそらくなく、すでに複数のソースからロシア側の明確な否定的反応があらわれてきた。
更に今後の展望については、トランプの新たなイニシアティヴが欧州とウクライナによって拒否されるという、これまでのパターンが繰り返されることになったという悲観論も登場してきた。
というわけで事態は少なくとも「混沌」としてきたが、以下に現時点での諸情報・諸見解を列挙し、第23号の結びとしたい。

第一は ウクライナ・欧州新提案である。
参考:ロイター

これは、11月24日1:50GMT発のもので、28項目の体裁を保持している。
「7項:ウクライナのNATO参加はNATO構成国のコンセンサスによるが、それは存在していない」「8項:NATOはウクライナに平時においては永久には部隊を駐在させない」という二項目は、ウクライナのNATO加盟を戦争の「根幹原因」としているロシアが峻拒することは明白である。
「第21項:ウクライナは占領された主権地域を武力によって回復しないことを約束する。領土交換の交渉は、接触線から開始される」クリミア・ドンバスについてのこれまでの経緯と戦場の現実を考えると、ロシア側がこれに応じる可能性も皆無であろう。
なおアメリカ・ウクライナ案のその後の動きについて、朝日新聞電子版25日7時16分はファイナンシャル・タイムズ報道を以下のようにとりまとめている:①ウクライナアメリカ修正提案はその後19項目にまとめられたが、領土問題についての判断はトランプ・ゼレンスキー首脳会談まで先送りされた。②米国は24日アラブ首長国連合の首都アブダビでロシア及びウクライナと高官協議を実施、米側からはドリスコル米陸軍長官が参加。修正案の内容をロシア側に伝えたとみられる。

第二に、11月25日、ラリー・ジョンソン氏から筆者に送られてきた「トランプ政権は、(自らが)提案したロシア・ウクライナ和平計画を欧州に殺させようとしている」という興味深い分析がある。主要点以下のとおり。
▼11月24日、ユーリー・ウシャコフ外交問題担当大統領補佐官はTASSとのインタビューで、ロシア政府が検討したことのある唯一の文書はアンカレッジの米露首脳会談で提案された文書である。これから派生する28項目提案は、部分的にはロシアの利益にかなうものであるが、これについて公の交渉をしたことはない。EU修正提案は、「完全に非建設的」なものであり、それは、NATOの東ヨーロッパでの立場を弱体化するという根幹利益を弱体化しているからである等述べた。
▼プーチンもペスコフもウシャコフも外交的解決に関心を表明し続けるが、トランプには、ロシアが受け入れられる提案を提示する力がないだろうということは解っている。
▼ルビオがウクライナを満足させ、欧州を懐柔させた案をロシア外務省に提示してきた時には、ロシア側は外交儀礼に従ってこれを丁寧に検討し、礼儀正しくこれは受け入れられないと言うか、または、プーチン・トランプ会談を要請することになるだろう。これらすべてには時間がかかるが、戦場で成功しているロシアは全く急いではいない。

第三は、アレクサンダー・メルクーリの11月24日のYouTube放送である。
参考:アレクサンダー・メルクーリのYouTube

メルクーリは、トランプ28項目提案を今瀕死の状況に追い込みつつあるウクライナとそれをバックアップしている欧州勢の無策と無責任に対する激しい怒りと、その無策無責任のおかげで死んでいくウクライナ人への言葉に尽くせない慟哭を述べている。
メルクーリはその思いをかつてゼレンスキーのプレス担当の仕事をしていたユリア・メンデル女史が最近Xに投稿した大要以下のメッセージに託している。開始後約27分からご覧いただければ真に幸甚である。
▼メンデル女史は、徹底したリアリズムの立場に立った。それは、人間性、博愛、祖国と国民への愛に立ったリアリズムだ。曰く:
▼私たちが和解の機会を逸し先延ばしすればするほど、私たちの立場は不利になっていく。なぜなら私たちは今、人間、領土、経済力で、負け続けているからである。
▼EUには、どうやって戦いに勝ち、ウクライナを支援していくかについての戦略がない。クレムリンとの意味のある対話を行う力も、ワシントンを説得する戦略もない。
▼人間の流血のおびただしさを考えるなら、土地の喪失に関する議論はほとんど子供じみたものにしか見えない。
▼我々国民の血が果てしなく流されていく。一部の欧州諸国の全人口を上回る人命を三年の間の戦争で失った。
▼和平の機会を一つ一つ逃していく度に、ウクライナ人の血が流れていく。ウクライナという国を守るという議論そのものが、なによりも、指導者とEUが、戦場の現実を全く知らないでいることの証左ではないか。これはハリウッドの映画ではない。現実に起きていることなのである。
▼私は民主的な価値を強く信じる。しかしすべての民主的な価値の中で人間の命ほど尊いものはない。
▼このことを今の欧州の指導者で「ロシアの降伏以外の計画を持たない」人たちすべてに伝えたい。