東郷和彦の世界の見方第二十四回 ウクライナ和平の動向(その24)
抑え難い不安。和平による平和の希求に逆行する事実が積み重なる、年始のウクライナ情勢。
11月27日で打ち止めた第23号から一か月後の12月28日トランプ大統領とゼレンスキー大統領による、マーラ・ア・ラーゴのトランプ私邸における対面交渉が行われた。
会談終了後、両大統領は、共同記者会見に現れ、非常に多くの成果があったが、難しい点も残っており、協議は継続されることと、トランプ大統領は会談の前後にプーチンと電話協議を行っていることを明示した。
これだけ鳴り物入りで米・ウクライナ間の首脳会談について報じている以上、交渉が壊れない方向で進んでいることを期待させる一方、トランプ政権成立以降の和平への努力が前進と後退を繰り返していることにかんがみれば、「和平に向かっての不可逆点を超えた」とまでは判断できないことも明らかだと思う。肝心なことは、交渉が少なくともしばらくの間継続されるということである。
その後2026年へと年を超えた1月3日、永く空席になっていたウクライナ大統領府長官のポストに、ブダノフ国防省情報総局長官が就任したというニュースが飛び込んだ。ウクライナ内政上重要な意義を持つこの情報の意義に触れたところで、1月5日をもって本号を校了としたい。
このひと月の間に、和平交渉の節目となった交渉場面、それに関するロシア側の様々な発表、ウクライナ・欧州側の様々な交渉の準備等きわめて多くの動きがあった。本号では、その動きの中で必須と思われるものに絞って、時系列を追いながら、概要なりとも述べることに努めたい。
第一幕 ロシア・アメリカ・ウクライナ+欧州間の交渉
11月30日(日)、アメリカの高官とウクライナの高官がフロリダで話し合い、筆者の見るところ、この協議が、それ以降のウクライナの立場の形成に影響を与えていくこととなった。これに関する12月1日のCNNの報道につき、同日のロシアのRTが報道した。ここには少なくとも以下の若干注目されるリーク報道が含まれていた。
第一は、ウクライナはその憲法上NATO参加を目標として存置することができるが、ロシア及び米国主導の軍事ブロックは、キエフが現実にそうはできない体制につき合意する。
第二に、ウクライナのドンバスからの撤兵についても進捗があったが、内容はあまりに機微にわたるのでリークできない。
なおアメリカの代表団は、ルビオ国務長官、ウイトコフ特使、クッシュナー大統領補佐官と報ぜられた。ウクライナ側はウメロフ安全保障・国防会議書記が参加した。
参考:12月1日(月)RT 報道:フロリダ米・ウクライナ交渉
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12月3日、以上の米・ウクライナ協議の当事者であったウイトコフ・クッシュナー両氏がモスクワを訪問し、プーチンと会談し、その会談内容につきウシャコフ大統領補佐官より極めて興味深いプレス・ブリーフィングが行われた。
参考:ウシャコフ大統領補佐官プレスブリーフィング
12月3日プーチン・ウイトコフ会談
12月3日01:20 ウシャコフ大統領補佐官のブリーフ
▼ 会談は5時間。アメリカ側が少し前に渡してきた文書について協議。ロシア側は賛成できるものもできないものもある。しかし、きわめて有意義な討議が行われ、ウクライナ和平のために今後ともに協議することに同意した。特にこの問題の解決なしに合意できない領土問題についても議論した。
▼ (以下質疑:討議項目数)28項目のトランプ提案が報ぜられたあと、27項目文書、更に四分割された文書などが議論された。
▼ (欧州側の動き)大統領はもちろん欧州側の非建設的な動きについての評価を述べた。
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12月8日ロンドンでウクライナ及び英独仏は、自分たちの立場を大急ぎでまとめた20項目提案をとりまとめ、ゼレンスキーは12月9日にアメリカ側にこの案を提示するとした(邦字各紙)。
12月9日ベン・アリス:ラジオ・モスクワ報道もウクライナ20項目案概要を紹介。
参考:ベン・アリス氏の評価
ベン・アリス氏の評価「欧州側は基本的に28項目案を粉砕し、クレムリンにとって不可能な要求を並べた結果、何らかの譲歩をして合意に貢献する可能性はなくなり、結果として、このような立場の欧州は、12月3日のウィトコフ・プーチンの会談への何ら有益な貢献をすることもできなかった。」
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12月14日~15日 米国代表団(ウイトコフ・クッシュナー)はウクライナ側(ゼレンスキー大統領以下)とベルリンで合計8時間和平案を協議。会談終了後、米当局者からの説明以下のとおり(日経電子版)。
▼(ウクライナに対し)第5条のような安全の保障を含む極めて強力な安全保障パッケージ案がある。最終合意でロシアがこれらすべてを受け入れることを確信している。
▼安全の保証には、停戦監視や合意履行の検証メカニズム、衝突回避策などを含み、現在提示されている内容は、提供可能な最高水準の保証だ。
▼溝が深い領土問題は、ウクライナとロシアが協議すべきとの立場をとった。
▼ ロシアが占拠するウクライナ南部ザポリージャ原発の扱いをめぐっても意見交換し、発電量を等分で分割する案で合意に近づいている。
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12月20~21日 米国代表団 (ウイトコフ・クッシュナー)、ロシア代表団 (キリル・ドミトリエフ「ロシア直接投資基金RDIF」総裁)、ウクライナ代表団(ウメロフ安全保障・国防会議書記)加えて欧州より英仏独の安全保障担当補佐官がマイアミに集まって会合が行われた。
参考:マイアミでの会合
12月22日、ベン・アリス氏は「この会合で進捗はなかった模様」という総合評価を下している。
確かにこの会合の成果として対外的に公表されたものはない。
しかし、この二日間は、関係国がすべて一堂に会しており、外部に発表されない意見交換が行われた可能性があると言わねばならない。
12月21日、マイアミにおける会合の方向が決してロシアに対して有利な方向にむいていないことを察知したウシャコフ・ロシア大統領補佐官は欧州とウクライナの動きを批判する記者ブリーフを行っている。
参考:ウシャコフ大統領補佐官プレスブリーフィング
ウシャコフ発言「欧州は平和の妨げ提案」
12月21日13:41RT 報道
▼ヨーロッパがウクライナとともに変更した、または、変更しようとしている内容は文書を改善していないし、長期的平和に貢献しないと確信している。
▼ただし、自分はテキストを見ていない。メディアに現れたシグナルによって判断している。
▼ロシア・ウクライナ・米国を入れた三者会談は行われていない。
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12月24日、ゼレンスキーは、「アメリカとの協議の結果」として、ウクライナの和平計画20項目を全面公表した。このマイアミ会合がこの20項目の公表と無関係と考える方が無理があるように思われる。
12月24日ウクライナ「キーウ独立新聞」は、ゼレンスキーが公表した「20項目平和計画案」を発表したところ、英文内容全文以下のとおり。
参考:「20項目平和計画案」英文全案
「キーウ独立新聞」に発表されたものは正確に言えば、「アメリカと合意し『未合意部分を明示したウクライナ和平計画案』にゼレンスキーがコメントを付したものでる。したがってここに言う20項目は12月9日にロンドンでアメリカ側に渡したとされる「ウクライナ20項目案」を米ウクライナ間で二週間をかけて調整したものと考えられる。
▼前文:この平和計画案はアメリカとウクライナが合意したものである。
ただし、「ザポロジア原発(12項)」と「ドンバス地域の統治(14項)」についてはまだ合意に至っていない。
この合意は批准されるか、国民投票によって支持されねばならない。
▼平時のウクライナ軍の規模は80万(4項)
▼米国・NATO/欧州署名国は、「第5条なみ」の安全保障の保証を与える(5項)
▼ウクライナの明示的な期日までのEU 加盟(7項)
▼ ウクライナ再建と人道問題解決のための、総額8000億ドルの複数の基金の設立(9項)
▼ザポロジア原発(12項)については、ウクライナは「ウクライナとアメリカ」による共同管理、アメリカは「ウクライナ・アメリカ・ロシア」による共同管理
▼宗教上の寛容と少数者の言語の保護(13項 )
▼東部4州では合意が署名された時点での軍事上の位置が、事実上の前線と認識される(14項)。ゼレンスキーのコメント「ロシアはウクライナのドネツクからの撤兵を求めているが、我々は受けいれられない。アメリカ側は撤退しないで済む方策を探している」「アメリカは、ドネツクに『非武装地帯又は自由経済特区』をつくる案を検討しているようだ」
▼ 人道委員会の設立:捕虜の交換、拘束された市民や子供の釈放(17項)
▼ ウクライナの早急な選挙の実施(18項)
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12月28日(日本時間29日)、トランプ大統領とゼレンスキー大統領は、以上のような準備を重ねて、トランプのマーラ・ア・ラーゴ(フロリダ州)における私邸で会談を行った。
会談終了後、両首脳はそろって共同記者会見を行ったところ、そのユーチューブは以下のとおり。
参考:トランプ・ゼレンスキー共同記者会見
この会見で言及されている会見前にトランプとプーチンが行った電話会談についての、ウシャコフ大統領補佐官の記者団に対するブリーフ(クレムリンHP掲載のものの英語同時通訳文)
参考:ウシャコフ大統領補佐官のプレスブリーフィング
12月28日21:00 ウシャコフ大統領補佐官 両大統領のマーラ・ア・ラーゴでの会談直前での電話会談概要:
▼ 電話はトランプの要請で行われ1時間15分。プーチン大統領は、アンカレッジ合意及びその後の高官レベルの協議の重要性を再説。
▼ウクライナ及び欧州が国民投票そのほかの実施を口実に提起している一時的な停戦は、紛争の長期化又は戦闘の再開に資するのみであることにつき、米露両大統領は、概ね同様の見解を共有した。
▼最終合意に至るためには、キーエフからの大胆で責任ある政治的な決定が必要であり、それは露米間で話し合ったことと同じ方向をむいたものでなければならない。それは、(特に)戦場の現実を考慮したドンバスに関するものであり、ウクライナが早急に決定することには意味がある。
▼両大統領は、安全保障及び経済問題に関する二つのワーキング・グループを作ることに合意し、その活動のやり方は、年明けに合意される。
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[筆者コメント] マーラ・ア・ラーゴにおけるトランプ・ゼレンスキーの共同記者会見は、双方が「合意は非常に近付いているが、まだ詰め切れない点がある」というトーンで終わった。大方の報道も、実はこの「詰め切れていない部分」に非常な困難が残っていると伝えているように思える。三点筆者の意見をのべておきたい。
第一にウクライナの安全保障について。20項目では「5条なみ」の安全保障を与えると言っている。しかしロシアが受け入れる「5条なみ」とはなにか。NATO諸国で構成された軍隊がそれらの軍隊の指揮権の下でウクライナのいかなる部分にでも駐在ずることをロシアは絶対に容認しない。筆者の意見では、安保理常任理事国のようにロシアも参加した形での新安全保障組織しかロシアはみとめない。これはロシアの安全保障に直結する「根本問題」である。しかもウクライナは、22年イスタンブール合意ですでにこの方向性を認めている。ロシアが一貫して支持してきた「アンカレッジ合意」の最重要点の一つもロシアの安全保障の必要性を認めたことにある。これらの点が十分に反映されているのだろうか。
第二に、ドンバス就中ドネツク州の扱いについて。明らかに、この問題の方が深刻である。ドンバス問題は特別軍事作戦が開始された根本原因であるが、その中でも、ウクライナによる支配地域が相当残っているドネツクが争点になっているようである。
20項目には、ドネツク州に「非武装地帯又は自由貿易地域」をつくるという案が明記されている(14項)が、アメリカとウクライナとの間で調整できていないことも前文で明記されている。28項目案でアメリカが提案した「ドネツクでロシアがいまだ占領していない地域については、ウクライナは兵をひくけれども、そこはいわゆる緩衝中立地帯として今後ロシア軍は入らない」(「魚の目」第23号第二幕末尾「コメント」)と今回の20項目案におけるドネツクの扱いはどうちがうのか、ウクライナとアメリカの立場の違いは何か等、わからない点が極めて多い。
いずれにせよ、ロシアにとっては、2022年2月、特別軍事作戦はドンバスの扱いをめぐって開始されたものであり、この地域に住むロシア系ウクライナ人の保護は彼らが住み慣れた土地がどこの国に帰属するかの点を含めて、戦争の根本原因の一つになっている。
2022年3月から4月のイスタンブール交渉ではロシアとウクライナの間で合意案が生まれたが、この案がバイデン・ジョンソンの干渉で潰された後、そう簡単に譲歩案が生まれるとは考えにくい問題である。
第三に、ウクライナとアメリカとの間で、合意できなかったものとして、ザポロジア原発の扱い(ウクライナは「アメリカ・ウクライナの共同管理」アメリカは「アメリカ・ウクライナ・ロシアの共同管理」)があげられている。戦争を本気で終わらせる意図があるなら、筆者には、アメリカ案でまとめるというのは合理的に思えるし、ウクライナが最後まで反対するというのは理解しにくいものがある。ウクライナ在住ロシア系ウクライナ人の保護や「人道問題の解決」等については双方ともに、立場が接近していることを認めているので、速やかな合意の成立を願うのみである。
第二幕 ロシア・アメリカ・ウクライナ(+欧州)の補完的な立場
以上が交渉の大筋であるが、これを補完する出来事として、アメリカ・ロシア・ウクライナ(+欧州)それぞれから一点ずつを選び、時系列に沿って述べておきたい。
第一場:トランプ政権
12月4日 トランプ政権初の「国家安全保障戦略(National Security Strategy NSS)が発表された。基本的考えとして、
① 冷戦勝利後アメリカのエリートは、世界全体をアメリカの価値で仕切るのがアメリカにとって最善の価値であると誤認した。
② しかしトランプは他民族の異なった宗教、文化、政治制度を尊重する。
③ トランプ外交は今後「西半球」を中心とする外交、すなわちモンロー主義のトランプ版外交を実施する。
④ ヨーロッパでは、欧州諸国は失った自信を回復し、規制による窒息から抜け出さねばならない。ウクライナ戦争の結果、ロシアを自らの存在に対する脅威としてしか見ることができなくなっている(ことからも抜け出さねばならない)。
⑤ ウクライナ戦争を迅速に終わらせ、以て、欧州経済を安定化させ、戦争の意図せざる拡大を抑止し、ロシアとの戦略関係を再構築させ、戦後のウクライナの復興を実現することは、トランプ外交の「核心利益(core interest)」である。
⑥ 更に、一説には、NSSの執筆の過程で存在した「長文版」では、2026年以降アメリカ外交が相手にする世界の最有力国として「核心五か国 Core Five」があげられ、それは「米国・中国・ロシア・インド・日本」とされたと報ぜられた。簡単にいえば、ヨーロッパの席をロシアが奪ったことになる。
[筆者コメント]言うまでもなく、トランプのNSSは、ロシアに対する極めて暖かい視線とヨーロッパに対する極めて厳しい視線が交錯してできあがっている。ロシアから、これを高く評価する声が一斉に上がったことは当然である(12月8日BBC他多数)。
第二場:プーチン政権
12月19日 プーチンの「国民との対話」
ロシアについては、過去数週間の戦争と交渉の継続の中でプーチン大統領、ラブロフ外相他から相当多数のメッセージが発出されている。「魚の目」としては本来その中の重要なものを選んでご紹介したいのであるが、時間的にも、紙数的にも、筆者に余裕がない。プーチンの最重要発言と思われる12月19日の「国民との対話」の中での、関連発言を紹介しておきたい。
参考:国民との対話
12月19日 クレムリン プーチンの4時間半の国民対話 英語による同時通訳をかぶせて放映されているので、時間がおありの方は、聴取されるのも一興かもしれない。
プーチン発言の中でウクライナ戦争関連部分以下のとおり:英語訳105ページ中、10・11・46・47ページ(筆者抄訳)
▼ベルリンの会議ではウクライナは領土問題を真剣に考えているようには見えなかった。すべては2014年のウクライナにおけるクーデターとミンスク合意による解決の実現を否定した欺瞞から始まった。
▼2022年にもはやすべてが分岐点に達し、我々が(ドンバス)未承認共和国を認知せざるを得なくなった時に、兵を引くように警告したが聞き入れられなかった。
▼イスタンブール交渉(同年3月から4月)で事実上イニシャルするまでに合意したにもかかわらず、交渉成果は否認された。彼らは交渉を平和裏に終わらせることを否定している。
▼にもかかわらず、我々は、キーエフ政権からも、彼らがなんらかの対話を求めているというシグナルを受け取っている。我々は、昨年6月に私が外務省で行った講演の諸原則に立脚し、この戦争を引き起こした「根本原因」をなくすことができれば、この紛争を平和的に解決することができる。
▼ 我々は、人的損害に対するいかなる責任も負わない。なぜならこの戦争は我々がしかけたものではないからである。
▼トランプ大統領は戦争終結に真剣である。彼は、終結のために絶対的に真剣だと言っていたし、トランプ提案に基ずき、アンカレッジでほとんど合意するところまで接近していたのである。
▼ 従って我々が何かを拒否しているというのは、不適切で根拠がない。ボールは完全に西側の「敵」のコートの中にあり、キーエフ政権とその欧州の責任者の責任下にある。
第三場:ウクライナ+欧州主要国
12月19日 ロイター電は、EU首脳会議が、市場から1050億ドルを借り入れてウクライナに融資する案に合意した旨報道した。ロシア政府の凍結資産を活用する案は、凍結資産の多くを抱えるベルギーの反対で実現しなかった。
日経新聞12月20日朝刊も、同趣旨を、主要点以下の通り報じた。
▼EUは予算を担保に市場から借り入れて融資に回す。ウクライナが26~27年に必要とする資金の約三分の二に相当し、復興やロシアへの反攻を支援する。
▼ロシアの凍結資産の活用については、その多くを管理する証券決済機関ユーロクリアを抱えるベルギーが反対した。ロシアの資産に手をつける法的リスクを懸念したためだ。
▼ ロシア中銀は18日、EUの合意に先立ち、中銀の資産を違法に凍結して使おうとしているとして、欧州の銀行に損害賠償を求めてロシアの仲裁裁判所に提訴する方針を発表した。
▼ プーチン大統領も19日の「国民との対話」で凍結資産を活用する方針を「強盗だ」と非難し、法的に争う方針を示した。
▼ 返済については、融資を受けるウクライナが戦後、ロシアから賠償金を受け取った時にEUに返済する仕組みとする。
[筆者コメント] EUの一部にあったロシア凍結資産の活用こそ実現できなかったものの、今後2年にわたりEUが1000億ドルの融資を動員する体制をつくったことは、28日マーラ・ア・ラーゴにおけるゼレンスキーの交渉上の立場をそれなりに強化したものと思われる。
最終幕 緊迫化する2026年へ
交渉の今後については、冒頭に書いたように、「これだけ鳴り物入りで米・ウクライナ間の首脳会談について報じている以上、交渉が壊れない方向で進んでいることを期待させる一方、トランプ政権成立以降の和平への努力が前進と後退を繰り返していることにかんがみれば、「和平に向かっての不可逆点を超えた」とまでは判断できないことも明らかだと思う。肝心なことは、交渉が少なくともしばらくの間継続されるということである。」という点に付け加えることはない。
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しかし、残念ながら、筆者には、ウクライナ側の行動と変化の中に、和平による平和の希求とは真逆の事実が急激に積み重なっているように見えることが、抑えがたい不安として感ぜられるのである。
▼12月22日モスクワで、ファニル・サルワロフ中将が乗っていた車に仕掛けられた爆弾装置が起爆して死亡。ロシア軍のウクライナ侵攻以降複数の軍当局者や著名人が標的となってきた。2022年には、アレクサンダー・ドゥーギンの娘のダリヤ・ドゥーギナ。2024年12月には、放射線・科学・生物学防護部隊のトップ、イーゴリ・キリロフ中将がモスクワで爆死。2025年4月には、ヤロスラフ・モスカリク中将が自動車爆弾で死亡(BBCニュース)。
▼12月24日ゼレンスキー氏はクリスマス祝辞で「ウクライナ人の夢は、彼が死ぬこと」と発信(STRANA.ua)一説には、ゼレンスキーが発信したウクライナ語「シュチョブ・ヴィン・スコナフ」という言葉は「くたばればいい」という強い意味を持ち、「みじめな死」や「報復としての死」を願う攻撃的な言葉の由。もちろんここでいう「彼」はプーチンのことをさしている。
▼12月29日、ラブロフ外相は、ウクライナ軍がロシア北西部にあるノヴォゴロドの大統領公邸にドローン91機を使って攻撃したと発表。「ドローンは防空システムによってすべて撃墜されて被害はないが、無謀な攻撃は看過できない」と述べ、報復を宣言。ウシャコフ大統領補佐官は、国営メディアに対し、プーチン大統領がトランプ大統領と電話会談を行い、ウクライナの攻撃について報告したと明かした。一方ウクライナ側はこれを全面否定し始はじめた(12月30日付けTBS CROSS DIG with Bloomberg)。ロイターなどの英米系のメディアは、ノヴォゴロドの大統領公邸へのドローン攻撃はロシアによるでっち上げであるというニュースで統一された感がある。
▼ 2026年1月1日、そういう中で、プーチン・ゼレンスキーそれぞれが元旦の挨拶を行った。
参考:プーチン新年演説(英語訳)
参考:ゼレンスキー新年演説(英語訳)
▼ 1月2日、11月28日に汚職疑惑を原因(各種報道)に解任が発表されていたイエルマーク氏に代わって、ブダノフ国防省情報総局長が大統領府長官に就任したことが発表された。この任命の意義について、アレクサンダー・メルキューリが、大要以下の通り、その意義を解説しているので、その紹介をもって本稿の終わりとしたい。
参考:アレクサンダー・メルキューリのユーチューブ
メルキューリ・1月2日のユーチュウブ報道(約40分がすさまじい迫力で語られるが、まずは前半20分ぐらいまでご覧いただければと思う)
▼ブダノフはこれまでの軍の諜報機関の仕事を通じて、米国のカウンターパートであるCIAと特に長くて深い関係を持ってきたことで知られている。
▼ 特に彼が精通してきたのは、情報分析というよりも、秘密工作活動(Covert Operation)である。大統領府長官というウクライナ内政のナンバー2の地位に就いた後は、国防省情報総局長には彼と親しい後任者を入れるだろうから、ウクライナ内政にさらに強力な影響を持つことになる。
▼米国紙(NYTだったと思う)は最近、バイデン時代、アメリカとウクライナの間で、2024年春、諜報活動関係者(CIA、GRUなどを含む)の極秘内部会議を開き、戦局の見通しを話し合ったことを報じ始めている。ウクライナ側は、通常の戦場においての戦いでは勝算がないことを説明し、アメリカ側は、その場合は「非対称」の戦いにきりかえ、今後は、秘密工作活動、特に、ロシア国内における内部攪乱作戦(Insurgency War)に切り替え、ロシアの弱点への集中攻撃、サボタージュ・暗殺・などを中核とする活動を中心とすることになった。
▼この内部攪乱作戦については、アメリカとウクライナとの間でその後協力関係がとまったことはない。トランプになってから、一時、ウクライナに高度諜報情報の提供を止めるという話があったが、程度を少し下げるということはあっても、協力関係が止まったことはなかった。
▼CIAの長期目標は何らかの形でロシアの国力を、アメリカの政策に抵触しないところまで弱めることにあるから、仮に今トランプ(その周辺の交渉派)が和平をとりつけても、CIAとウクライナの諜報組織は、協力関係を終わらせることは絶対にないので、いったん納まったかに見えるロシア国内情勢の下でテロそのほかの攪乱工作が果てしなく続くことになる。ブダノフの栄進はそのための布石と言ってもよい。
▼ウクライナ国内で今ゼレンスキーの星は輝きを薄くし、ブダノフの星はかつてなく輝きを得た。CIAとウクライナの諜報がひそかに手を握ってこれからの戦略を内部攪乱戦略に切り替えた以上当然のことである。時にラトクリフ長官他のCIA派、時に交渉派(バンス副大統領、ウイトコフ特使他)に引きずられるトランプ氏は、ナイーブ又は右顧左眄しているとしか言いようがない。
▼そのことによって最も苦しむのは、ロシアの民と逆に報復されるウクライナの民、戦争の継続によって苦しむ確率がでてくる欧州の国民である。事柄の本質を分かって対応しようとする欧州のリーダーはいない。誠に胸が避ける展望だと言わねばならない。







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