読み物特捜検察・負の歴史

▼バックナンバー 一覧 2010 年 10 月 27 日 魚住 昭

 

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 小沢事件といい、村木事件といい、なぜ特捜部は事件をムリヤリつくり上げるのか。
 基本的に特捜検事は、事件を大きくしたいと思っています。政治家や高級官僚を摘発し、名を上げることが、出世の足ががりになるからです。世間に注目された大きな事件を手がけた検事が出世していくというシステムが検察内部に出来あがっている。逆に、特捜部時代に大きな事件をモノにできなかったら、無能の烙印を押されるので、なにがなんでも大きな事件をやりたい。それは検事の本能のようになっています。
 実際、特捜部時代に手柄を上げた検事のほとんどは順調に出世しています。
 もうひとつは、法律上の制度の問題があります。刑事訴訟法の321条第1項第2号に定められた検事調書の「特信性」に関する規定です。警察官調書には認めていない特権性を、検事調書には認めているのです。
 これは、裁判にでてきた証人が、検事調書と違う内容の証言をした時でも、検事調書の方に「信用すべき特別の情況」(特信性)があれば、検事調書のほうを証拠として採用できるという規定です。一般の人は法廷で真実を話せば、調書の内容を訂正できると思いがちですが、現実には裁判官が検事調書の「特信性」を否定することはごく稀にしかありません。
 検察にとって、検事調書を取りさえすれば、裁判で証言を引っくり返されても有罪にできる。検事が被疑者や関係者を脅したり、暴力的な手段を使ってでも、検事調書を取りたがるのはそのためです。刑事訴訟法の321条第1項第2号は、特捜部にとって最大の武器なのです。物証の乏しい贈収賄事件などはとくにそうです。検事調書の「特信性」条項がムリな取り調べを横行させる原因になっているといっても過言ではありません

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