読み物特捜検察・負の歴史

▼バックナンバー 一覧 2010 年 10 月 27 日 魚住 昭

 

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 内部告発者の1人である國井弘樹検事は、昨年7月の段階で、前田検事から証拠改竄を打ち明けられています。前田検事がそんな大事なことを打ち明けたのは、國井検事を仲間だと思っていたからでしょう。
 國井検事は、「郵便不正事件」で逮捕された上村勉元係長の取り調べ担当検事でした。國井検事は、上村元係長が「単独で証明書を偽造した」と言っているのに、それを徹頭徹尾無視して、嘘の自白調書を十数通も作っています。
 その調書があったから、村木厚子・厚労省元局長が逮捕・起訴されたと言っても過言でありません。つまり村木事件の取り調べで一番中心的な役割を担ったのが國井検事だったのです。当然彼にもデタラメな捜査をした責任があるはずです。
 大阪地検の他の検事たちにも同じような疑問を感じます。たとえば公判部の検事たちは裁判が始まる前に特捜部から引き継いだ証拠類を入念に検討したはずです。であれば、事件の最重要物証であるフロッピーディスク(昨年7月、前田検事がデータを改ざんした直後に上村元係長側に返却している)がないという事実に気づかないほうがおかしい。
 公判部は今年1月末の初公判で、村木弁護団から検察側主張の矛盾を指摘されて初めて、フロッピーがないことに気づいたと報道されていますが、本当でしょうか。本当だとしたら、信じられないほどずさんな公判準備をしていたことになります。
 私は証拠改ざん自体より、改ざんしたフロッピーを上村元係長側に返却したという事実に衝撃を受けました。私に言わせると、改ざんはあり得ることですが、重要物証を公判開始の何カ月も前に返却するなんて、絶対にあり得ない。極めて異常なことです。
 最高検は、前特捜部長と前副部長が前田検事による意図的な証拠改ざんを知りながら上司(大阪地検検事正ら)には「検事同士のトラブルがあった」としか報告しなかったという構図で事件をまとめようとしているようですが、私には納得できません。
 それというのも、検事正らが特捜部長からどういう報告を受けたにせよ、フロッピー返却の事実を知らされずにいたとは考えにくいからです。もし知らされていたのなら、検事正らは事態の異常さに必ず気づいたはずです。
 この事件にはまだまだ分からないことがたくさんあります。大坪前特捜部長らは、容疑を全面否認して裁判で徹底的に争う構えなので、裁判の行方を注意深く見守りたいと思います。(了)
 

(編集者注・これは日刊ゲンダイに連載された「特捜検察負の歴史」の再録です)

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