読み物黄金の国の少年たち

▼バックナンバー 一覧 2010 年 12 月 15 日 大瀬 二郎

「このまま続けると若死」


 翌日、村から離れたより大きな金鉱に足を運ぶ。バイクで山道を走る途中、小規模の金鉱があちらこちらに散らばっているのを見かける。3、4人で掘っているものもあれば20人程のものもある。40分ほどして突然森林が姿を消したかと思った瞬間、まぶしい太陽に目がくらむ。甲子園ぐらいの大きさの巨大な穴に到着したのだ。深さは20メートルほどあるだろうか。広大な緑の森に落下した隕石が残したクレーターのようだ。とりあえず責任者に話をつけなければならないと、エマニュエルに連れられてクレーターの縁に建てられた草葺きの小屋に行く。その途中、鉱夫の一人がショベルをライフルのように構えて私を撃つ真似をし、少しドキッとさせられる。訪問者が来たことを察して5、6人が小屋にやって来た。この金鉱はそれまで見てきたものよりもしっかりと管理・運営されているようだった。少年の姿はなく、働いているのはたくましい若者だけだった。エマニュエルによると、ここでは多くのFNIの元兵士が働いているらしい。撃つ真似をしたのも元兵士だろうか?
 
 とりあえず小屋の中で挨拶と握手をした後、エマニュエルがスワヒリ語で話をつける。言っていることはまったくわからないが、FNIの幹部から許可をもらっているからということだろう。5分後に再び握手。取材が認められた。
 
 この金鉱では、砂金ではなく金の含有量が多い鉱石を発掘していた。集められた鉱石を機械ではなく一人一人が鉄の棒で砕き、それを他の場所で精錬しているとのことだった。クレーターの底から湧き出る水を汲み出すためのポンプが唯一の機械で、あとは全てが肉体労働。穴の側面には鉱夫が立つ場所が段々畑のように平行に並んで刻まれている。鉱石を採掘する際にはかなりの土砂がでる。一番底にいる人間が、上に立っている人の足元に土砂をショベルですくい上げる。上の人間がそれをさらに上の人間の足元にすくい上げる……ということを繰り返して土砂をクレーターの外に排出するシステムだ。200~300人ほどの屈強な若者が、この肉体労働を朝から晩まで行なっている。皮下脂肪ゼロの褐色の筋肉の塊が太陽を鈍く反射している。初めて目撃する眼前のスペクタクルはまるで古代エジプトの奴隷たちによるピラミッド建設を眺めているようにも思えた。
 
 青年の一人が腕を休めて私に話しかけてきた。「ここでの仕事はまったく大変だよ。このまま続けると若死にするよ」その言葉に私は頷いた。彼の言う通り、このような環境で肉体労働を毎日続ければコンゴの平均寿命の46歳に達する前に命が期限切れを迎えてしまうだろう。ほんの束の間の会話だったが彼の下にいる人から運ばれた土砂がどんどん彼の足元に溜まっていく。遅れを取り戻すべく彼はまたショベルを動かし始めた。  苦境あるところに唄あり。そのうち労働者のコーラスが始まり、そのテンポにあわせて、無数のショベルが振り子のように揺れ動く。歌声に合わせて、鉱石を鉄の棒で砕く音が「キン、コン、キン、コン」と、オーケストラ代わりにクレーターにエコーする。彼らの窮状を世界に訴えているような金鉱のアンサンブルは、やがてコンゴの深森の中に吸い込まれていく。
 

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