読み物黄金の国の少年たち

▼バックナンバー 一覧 2010 年 12 月 15 日 大瀬 二郎

金の行方

 コンゴの東部で採掘された金は武装グループ、有力政治家とそのビジネスパートナーがコントロールする独自のネットワークを経てウガンダ、ルワンダ、ザンビアなどに密輸される。モンゴワル村からウガンダに密輸され貿易会社を通して世界各国へ流れてゆく。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)」が発表した貿易統計によると、ウガンダは2002年に原価6億ドルの金を輸出したが、国内で採掘されたのはそのうちの1パーセント以下。もちろんそのほとんどはコンゴから密輸入されたものだった。国連の司法機関・国際司法裁判所は、武装グループを利用したウガンダによるコンゴ資源の略奪行為は国際法に違反しウガンダ政府がコンゴの一般住民に賠償する判決文書を2005年に公布する。だがこの裁判所は執行権をもたないため、その実現に向けた動きは今のところ見られない。
 
 その夜、宿泊しているカトリック教会で神父さんを囲んで他の滞在客と一緒に食事をする。キャベツを刻んだサラダ、パン、そして野生のレイヨウの煮物(少し癖があるがまあまあいける)。長テーブルに座って一緒に食事をしている人たちの中で一番注目を集めていたのが携帯電話会社セルテルの派遣会社員。敬意を込めて「ミスター・セルテル」と呼ばれていた。セルテルは中近東資本の携帯電話会社で、ここ数年に送信タワーをコンゴのあちこちに建てている。コンゴのインフラ網はズタズタで電話線を引くよりも携帯電話の送信タワーを建てるほうが安くつく。多くの発展途上国では携帯電話が通信手段の主役を果たしコンゴも例外ではない。モンゴワル村のような奥地に電力は届いていないが、送信タワーは太陽電池で作動しているので携帯電話は使える。モンゴワル村にはセルテルの送信タワーは未だ一つしか建っておらず電波が届く範囲が限られていた。夕食での一番の話題は2番目のタワーはいつどこに建つのかということ。ミスター・セルテルは毎日ピカピカのヤマハAG200のオフロードバイクに乗って2本目のタワーを建てる候補地を探しているそうだ。セルテルの競争相手はごく最近この地域に進出してきた南アフリカ資本のボダコム。地球の果てのようにすらみえるモンゴワル村でも多国籍会社がシェア拡大にしのぎを削っているわけだ。
 
 モンゴワル村に進出している企業は、セルテルとボダコムだけではない。世界最大の金精製会社アングロゴールド・アシャンティが大きな拠点を丘の上にすでに構えている。村で稀に見かける四輪駆動車はアングロ社所有のもの。政府と採掘権の交渉中で、現在は地域の調査段階で本格的な採掘は行われていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは先に紹介したレポートで、アングロ社は金鉱の採掘権を得ようと武装グループFNIに賄賂を渡し、住民や労働者の人権や紛争問題よりも利益獲得を優先していると批判した。レポートの発表後、アングロ社はFNIに脅迫されたため仕方なく賄賂を渡していたと認める。
 
 ウガンダに密輸された黄金を主に買い取っていたスイスの大会社メトラー・テクノロジーも同レポートで批判され、その後ウガンダからの黄金の購入を中止することを発表すること になる。しかし不安定な世界金融経済の中で金の需要は増える一方だ。密輸されたコンゴの紛争黄金の買い手はいくらでもいる。
 
 昨年12月に国連が発表したレポートによるとコンゴで掘り出された黄金は以前と同様ウガンダやブルンディに流れていき、数々のインド系の仲買会社によって違法であることを承知で買い取られている。以前存在したスイス経由のルートに代わって今はアラブ首長国連邦の最大都市のドバイ経由で世界に流れる。現在年間およそ12億ドル相当の金がコンゴから密輸されていると推測される。
 

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