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●問題点は着工が決まってわかった
この問題が降りかかるまで、処分場について専門的な知識をもっている島民はほとんど誰もいなかったと言っていい。長田自身も、処分場のことは他人事のように思っていたところがある。
「どのような場所につくられ、どのような調査が行われ、どういう風な工事が行われるのか、関心がなかったんですね。そもそも、管理型最終処分場と言われても、どういう種類の処分場が出来るかよくわからなかったんです」。
それが明らかになったのは、二〇〇八年六月だった。
八丈町町議会定例会で、町議員の菊池睦男議員から着工前に水源への影響調査を求める意見が出された。それが八丈島の週報である『南海タイムス』で取り上げられ、町民の関心が一気に高まった。その記事では、日本環境学会前副会長・坂巻幸雄の「水源より標高が高い位置に処分場を建設するのは危険」とのコメントが紹介されていた。
八丈島で最も取水量が多い大川水源よりも海抜の高い位置に処分場が出来るということを、長田を含め町民のほとんどがその時に初めて知った。しかも大川水源から処分場まで、直線距離でわずか二・一キロメートルしか離れていないことも。
それでも、長田は行政が責任を持って行う工事だから安全だと思っていた。しかし、坂巻の指摘によって、八丈島の処分場の容積が東京都の環境アセスメントの対象となる五〇〇〇〇立方米より一%少ない四九五〇〇立方米であるため、地盤や水脈などの環境アセスメント調査が行われていないことを知り、愕然としたという。
このときはじめて長田は、十分な地質や土壌の調査が行われないまま、処分場の建設がすすめられていくことを知った。子どものころから八丈に暮らす者ならば、八丈島の地質が火山灰層で構成され、水を通しやすいことは中学や高校の授業を通じて知っている。ひとたび汚水が漏れたらどうなるかは容易に想像できた。
処分場をつくる工事の過程でアセスメント調査を行わないのは、法的には問題がなくても、その水の恩恵を受けて暮らしている町民にとっては大問題だ。ひとたび水が汚染されれば水を利用した商売は立ち行かない。何より、自分の子孫にそんな島を残していいのかという大きな疑問が湧く。一番小さい長田の子どもはまだ小学生。子どもたちに万が一のことが起きた場合、それは取り返しのつかないことだと思った。