読み物サブサハラの春はまだ

▼バックナンバー 一覧 2012 年 2 月 15 日 大瀬 二郎

選挙と民主化

2006年12月6日、35歳のカビラは、アフリカで最年少の大統領となった(選挙前に憲法が改正され、年齢制限が40歳から35歳に切り下げられた)。ブラスバンドが国歌を演奏する中、色とりどりのベレー帽をかぶった兵隊に囲まれ、カビラは赤じゅうたんをゆっくりと歩いて入場する。新しくデザインされた国旗の青、赤、黄色の日傘が参加者に配布され、会場一面が、オリンピックの開会式のように鮮やかだ。

「我、ジョセフ・カビラ・カバンゲは、厳粛に神と祖国の前に、憲法と法を是認することを誓う」。

ピンストライプのスーツを着たカビラは、左手を憲法に乗せ、右手を上げて誓った。罰するようにジリジリと照り付ける太陽の下、儀式は延々と続く。全国から集まった数多くの民族の酋長達は、元独裁者モブツのトレードマークヒョウの毛皮の帽子、ビーズとタカラ貝で飾られたチョッキや首飾りなどで着飾っていた。まるで博物館の展覧会のようなシーンは、見る者にコンゴの複雑で多様な民族・部族構成を改めて認知させる。誓いを終えたカビラに拍手を送っているのはアフリカ11カ国の大統領。そのなかでひときわ目を引いたのがガボンの大統領オマー・ボンゴだった。厚底靴を履いているが、他国の大統領にくらべて背丈が低い(152cm)。だが身長とは対照的に、彼はガボンの大統領として2009年6月の死去まで世界最長の42年間政権を維持していた。アフリカの「ストロング・マン(権力者)」達の一人だ。

ボンゴが死去する以前、ガボンに4ヶ月ほど滞在したことがある。大西洋に面する産油「小国」の首都リブレヴィルは、椰子の木が連なる白い砂浜に面し、一見、熱帯のパラダイスのような所だ。大西洋に日が沈み始めると、火の玉のような光が数個水平線にぼんやりと浮かび始める。石油プラットフォームの煙突から上がる過剰天然ガスの炎だ。石油による高収入のため、ガボンの一人あたりの購買力平価は1万4865ドル (2010年IMF統計)、アフリカでは第三位(一位が赤道ギニア、二位がリビア、双方産油国)。オマー・ボンゴとその家族は、抑圧と買収によって野党・反政府派を鎮圧し、石油と引き替えに得たフランス軍の援助などを駆使して、この石油「小国」を半世紀近く統治してきた(フランスは前植民支配国、アフリカ最大のフランス軍の基地がガボンにある)。国費を私財と同等に扱い、フランスの政治家に金をばらまき、世界に散らばる銀行口座に莫大な資産を蓄えた(ニューヨークのシティーバンクの個人口座だけでも1億3千万円)。

だがリッチなガボンでは、国民の3分の1以上が貧困線以下(一日の生活費が1・25ドル)で暮らし、ボンゴが率いる政党に忠実な人口の20%が90%の国家収入を搾取している。首都リブレヴィルの大通りに立つハイパーマーケット(スーパーマーケットより大きく豪華という意味)には、フランスから輸入されたシャンパンやチーズがずらりと並んでいるが、そこからわずか10キロほど離れたゴミの埋め立て場では、エリートの食べ残しを無数の人々が、鳥と一緒にあさっている。

 オマー・ボンゴの死後、息子のアリ・ボンゴが2009年に行われた大統領選で予定通り当選した。40年以上かけて築き上げられた父親の政治マシーンによって、権力が息子に継承されることは保証済みだったのだ。大統領選挙は不正であると、野党が抗議しデモを行うが、警察・軍隊によって迅速に鎮圧される。長い年月の間に野党は無力化されていたのだ。親仏政策が父親から息子に受け継がれ、フランスへの石油の絶え間ない流れが保証された後、ニコラ・サコージ大統領は、「フランスは今後もガボンと有効な関係を継続する」と祝いの手紙を送る。

 隣国のコンゴ(民)では、カビラ大統領は就任後間もなく、野党、特に決選投票で対抗したベンバの政党のメンバーを逮捕、拷問、処刑した。さらに脅迫と買収を用い、国会と地方政府で彼に反する人物を排除するキャンペーンを開始する。カビラを批判するジャーナリストや人権活動家の暗殺は4年間続いた。2011年1月には、大統領選挙での決選投票の廃止など、せまる選挙にカビラが優位になる法律の改正が、カビラがコントロールする国会で可決された。「民主主義に長寿を! コンゴに長寿を!」と当選発表後にテレビで誓ったカビラが、父親を含む、多くの歴代・現役のアフリカのリーダーと同様に、強権的な政治への道を歩み出す。カビラ当選から今日に至るまで、コンゴ市民の生活レベルは向上せず、東部では戦火はやんでいない。だが選挙で勝利を収め、国際的な承認付きのコンゴのコントロール権を獲得したカビラは、2011年までの国連のPKOの撤退を要求する。昨年12月に行われた大統領、総選挙で、カビラと彼が率いる政党が圧倒的な勝利を挙げる。

その選挙を監視した元アメリカ合衆国大統領が設立した人道・非政府組織カーターセンターは「(選挙の)投票の表作成のプロセスの質と規準はxで大幅に異なった。によると選挙結果は信用性に欠けるものだ」と発表。全国での投票者数は登録者の59パーセントにも係わらず、カビラが有力なカタンガ州では99から100パーセント(票のほとんどがカビラに)という結果を一例として挙げている。

固定ページ: 1 2 3 4 5 6 7